第40話
「いらっしゃい。つぐちゃん!お兄ちゃんから話は聞いてるよ!兄ちゃんの部屋わかるよね?そっち上がっててって言うのが兄ちゃんの伝言。」
コタ君が声をかけてくれたのだろう。あゆちゃんがこちらを手招きする。拓真が上がっていてというのなら上がっていいのだろう。少し気は引けるが、あゆちゃんたちに何も話していない以上、拓真の部屋にあがるしかない。少しためらいながらもあゆちゃんに軽くうなずいて、奥に入らせてもらう。
拓真の部屋に入るのは初めてではない。でも、こんなにまじまじと見つめたのは初めてだ。ポスターも何も張っていない壁に、本棚は比較的充実しているが、それほど多いわけでもなく、一言でいえば、簡素で殺風景で、この部屋に誰が住んでいるのか、いまいち推測の出来ない部屋だ。流石にえろっちいものを探す気分でもない。
しばらくぼーっと立ったまま、部屋を見つめていると、背後で部屋の扉が開く。
「つぐ、なんで立ってるんだ?初めてでもあるまいし。」
器用なバランス感覚でお盆に小さなケーキとカップを乗せた拓真が、これまた器用にドアを開けていた。あゆちゃんに続き、拓真まで。多分コタ君もできるんだろうな。
「まじまじと見たのは初めてよ。…それ何?」
「新作。味見ついでに持ってきた。」
「…前々から思ってたけど、あんた新作作るのは好きだけど、大量生産きらいでしょ。」
巧はバツが悪そうに、
「ばれてたか。」
「こないだもいやいや作ってたでしょ。」
床に置いてある小さな机にお盆を置いて、拓真も座る。クッションをさして
「座りなよ?」
まだ立ちっぱなしだった私を促す。私はおとなしく座りながら
「で?渡したいものって?」
「まあいいから。」
拓真は話す気がない時は脅そうがなだめすかそうが動きやしない。頑固だ。
「拓真。」
本人に向かって、拓真と呼んでしまったことに気づいたけれど、今更直すこともできない。引くわけにもいかず、私は拓真をじっと見つめる。拓真は小さく息を吐いて、諦めたように後ろを向いて、机の引き出しから大判の封筒を取り出してくる。
「なにこれ?」
「見ればわかる。」
私の質問には答えたくない、と言わんばかりに拓真は目線をそらしてしまう。嫌な予感を感じながら封筒をひっくり返すと、色紙と、小さなアルバムが出てきた。
「拓真。」
もう構ってられない。
「悪かったって。だから名前だけでクレームを表すな。お前の後輩の…タキだっけ?わかんないけど、小さい子。…その子が他の子連れて、俺んとこ来たんだよ。”つぐな先輩は直接渡しても絶対に受け取らないから。それでも私たちは渡したいし、行野先輩のところにあれば、いつか見てくれるだろうから。”って。押し切られた。俺もお前をあそこに連れてった事実があるもんだから断れなかったんだよ。」
そこに並ぶ言葉はまだ、私には冷静には読めない。写真も眺めていられない。うれしいけれど、心がまだまだ痛い。中身の確認だけして、すぐに封筒に戻す。
「…そう。ありがとう。拓真。後輩が迷惑かけたわね。」
「気にしてない。それにこんな理由でもないとお前が妙に俺を避けるから会えなかったし。」
「…会う理由もなかったし。」
そのことに関しては覚えがないとは言えない。
「まあ、確かにそうだな。でも、俺は会いたかった。」
「拓真らしくなく、熱烈じゃない。」
私は話の方向に何かを感じて、はぐらかそうとする。
「俺だって、たまには冷めてないことだってある。」
拓真も私の対応には慣れたもので、じっと私を見つめてくる。私はこの顔に弱い。
「…つぐ。」
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