第38話
学校でだっていつだって普通でいられた。
私たちは良くも悪くも受験生で。最後のモラトリアムに向かって突き進むしかなかった。私にはやりたいこともなくて。ただただ若い時間というのを消費しているとしか言えないのだ。
拓真は製菓学校に進むと、祐輔君から聞いた。拓真本人からは音沙汰無しだ。
私と拓真の距離が少し遠くなったことに対して、多少の憶測は飛んでいたけれど、みんな自分に精一杯で問い詰められることはほとんどなかった。時々問われたって、例のごとく適当にはぐらかしていた。もともと淡々としている二人でもあったし。
多分こんな日々が続くんだろうと思っていたけれど、本当に久しぶりに、5時間目に拓真からのLINEが入った。
授業中とはいえど、この先生ならなんの問題もない。私は躊躇なくケータイをいじる。美湖は多分気づいているけれど、何も見ていないって顔をしてくれている。ありがたい。
>つぐ。お前に渡したいものと言いたいことがある。
>会えるか?
拓真らしくない、どこか遠慮がちな文章。
>どこで?
YESでもNOでもない曖昧な答えをつい返してしまう。
>どこでもいいよ。
>巧さんとこでも、学校でも、うちでも。
巧さんのところは、この間全部いきさつを話してしまった手前、拓真と二人ではさすがに行きづらい。学校でもいいのだが、私はあえてもう一つの答えを選んだ。
>拓真んとこの店。でいい?
拓真の言葉が遠慮がちなせいで、どこか私もらしくなく遠慮してしまう。
>大したお構いもできないけど。
拓真からの返答はYESだった。
>出さなきゃいけない書類があるから
>それを出してから行く。
流石に拓真と二人で歩くのは、気が引ける。
>あゆに話しておくから
>着いたらあゆに声かけてくれ。
>俺は多分、気づけないから。
拓真がまたアホみたいにお菓子を作っているのは祐輔君から聞いた。彼はお菓子に対してとても真摯だ。
>わかった。
>また、あとでね。
拓真とはあんなことになってしまったけれど、まだ好きという気持ちを捨てられてはいない。自分でもあさましいと思う。
だから断ち切るべき縁を、大切につなごうとしてしまう。
もう終わったはずのかけがえのない日々を。
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