第16話

私は、自分で言った通り、その後何日経とうとも、部にも戻ることもなかったし、戻る気もなかった。最初こそ、同期や先輩や後輩も次々私の元に訪れたが、私は先輩には礼を尽くして、同期にはぞんざいに、後輩は丸め込んで、逃げ続けた。

そんなことを続けていれば、日に日に、私の元を訪れる人は減るのは当たり前だった。

「本当によかったのか、つぐ。」

珍しく拓真が愚問でしかないことを私に投げかける。

「よかったか、じゃない。それしかなかったの。…拓真、あんたには迷惑をかけてる。あともう少しだから。」

私の声は震えていただろうか。ふるわせたくはなかった。

「つぐ…。」

「仕方がないことに言っても仕方がないでしょ…。もう幕引きよ。」

「気づいているんじゃないのか。お前の思惑に。だからみんなお前の元を訪れることを諦めたんじゃないのか。」

ひゅっと息を飲んだ音が自分から出たのが分かった。恐ろしかった。それは私の今までを無意味にすることだから。

「…あいにく、あいつらそんなに繊細にできてないわよ。…先輩たちはともかくとしてもね。飽きただけよ飽きただけ。それかもうそれどころじゃないだけだよ。真実を知っているのは、あんたと綾乃サンだけ。そのまま人生の一つに埋もれていくわ。それでいいの。」

「…俺が余計なおせっかいを焼いたとしたら?」

今日の拓真はおかしい。私が怒ることをわかっているはずなのに。

「…殺す。でも、あんたはやらないよ。そんなこと。」

「どうして言い切れる?」

「そういうことをしない人だってわかってるから、私はあんたにこの役を頼んだの。それを信じないのは、自分を信じていないのと同じよ。」

「…そうか。」

こういってしまえば、たとえ拓真がお節介を焼こうとしていたとしても、焼くことはできないだろう。

それに、拓真が焼かないであろうことも本当に信じている。

「幕引きの仕方は、あんたに任せる。私が始めたから、終わりは拓真に譲る。」

「ありがたいんだか、ありがたくないんだか…。ま、考えとくよ。」

「そ、ありがと。」

「最近お前ら、冷めてきた?倦怠期?」

小声で話していた私たちのもとに、祐輔君が現れる。

「なに失礼なこと言ってくれてるの?祐輔君?」

私と拓真は軽く睨み付ける。

「いや、前ほどアツアツ―って感じじゃないから言っただけじゃん。」

もともとそこまでアツアツだった覚えはない。

「慣れただけだろ。もともと俺たちは淡々としてるんだ。」

「それは認めるけど…。」

「ほら、倦怠期だと思うなら、そっとしとけ。二人の問題さ。」

そう笑って拓真は、祐輔君を追い払う。

終わりまで、あともう少し。自分じゃ幕を引けないから、拓真に委ねるなんてずるいことをした。そんなことくらいわかってる。

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