タイムマシン ③
いくつかの時空の壁を越える衝撃で、いつの間にか気を失っていたようだ。
ここはどこだ?
気が付いたら、俺たちはうっそうシダが茂るジャングルのようなところに着地していた。なんだかやけに静かだ、不思議なほど生き物の声が聴こえてこない。
見たこともないようなヘンな草が生い茂っている。ここは浅い川か、沼地のようで足元に水が流れている。空気がどんよりと重く息苦しい、なんとも気味の悪い場所だった。
「おいっ、ここはどこだよ」
「今、調べていますが、重量オーバーでタイムマシンが誤作動したようです」
携帯型タイムマシンをピッピピッと打ちながらG4が探っている。それにしても、こんな風景は世界中どのジャングルの風景にも見たことがない――。
「えっええぇぇぇ―――!」
いきなり素っ頓狂な大声で叫んだ。
「どうしたんだ!?」
「こ、ここは3億6500万年前のデボン紀後期の地球です!」
「なんだ、そりゃあ?」
「まだ、地上に生物がいない頃の地球なのです。古生代の地上なんて、タイムマシンできた未来人はまだいませんよ!」
「それで俺たちは帰れるのか?」
「一応、SOSの救護通信は送りましたが……それよりもマズイことが……」
「なんだ?」
「古生代の空気の中には亜硫酸ガスが含まれていて人体に危険なのです」
「なんだとぉー!? このままでは死んでしまうじゃないか!」
「ええ、大変危険です」
「おい、俺にも毒ガスマスクをよこせー!」
「ダメです! ひとつしかありませんよ」
その言葉をきいた途端、俺はG4が付けている毒ガスマスクを狙って襲いかかった。だが、G4は指先から青白い光線を出して抗戦してきた。――こっちには武器がない。
普通に組み合ってケンカしたら、未来人のG4よりも俺の方が腕力は勝っているはずなのに、ちくしょうめ!
武器を探して、見渡すと水辺からムツゴロウの親分みたいな50~60㎝くらいの魚が、ヨチヨチと陸に向かって這い上がってきている。
よし、こいつだ! ムツゴロウの親分をむんずと掴んで、俺はG4に向かって投げつけた。間一髪でG4は光線で魚を焼き殺した。クッソー!
「止めなさい! こんな時代の生物を殺したら時空の流れが狂ってしまう」
「そんなこと知るか、毒ガスマスクを寄こさないとこいつら投げるぞー!」
俺はもう一匹投げようと水辺を見渡したら、他のムツゴロウたちは水の中へ逃げかえった後だった。
「こ、これはアカンソステガではないですか!?」
焼けた魚の残骸を見てG4が大声で叫んだ。
「ああ、大変なことをやってしまった! アカンソステガは、初めて水から地上に上がって両生類になった生物です。この後どんどん進化を辿り、哺乳類にまでなっていったのです。いわば人類の祖先のようなものです。そのアカンソステガをわたしは殺してしまった。――そのせいで、他の仲間が水の中にかえってしまった!」
そういうとG4は頭を抱えて地面にうっぷした。
『人類の進化が大きく狂ってしまう!!』
そういい残して、G4の姿がスッと消えてしまった。
「おい、どこへ行ったんだ?」
キョロキョロ見回したが、たった今までそこにいたG4の影も形もない。
「俺に毒ガスマスクを……」
そう言い終わらない内に、俺の姿もスーッと消えて無くなった――。
古生代に、アカンソステガが地上に上がらなかったために、人類へと進化しなくなってしまった。
――かくして、未来の地球は恐竜たちの星となった。
― おわり ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます