タイムマシン ②
――そして話は戻る。
「今日、あなたロトシックス買ったでしょう?」
いきなりG4が俺に訊ねた。
「ああ、買ったけど……それが?」
「困るなあー、そういう宝くじとか、
迷惑そうな声でG4がいう。
「消去させて貰いますよ」
「ええーっ! なんでだよう?」
「それは当り券です」
「な、な、なんだって! それは本当かー!?」
G4の言葉に耳を疑った。
まさか6億円が当たっているなんて……やっと運が向いてきた。俺は億万長者だ! 一生遊んで暮らせるぞっ!!
――と、喜んだのも、つかの間。G4の指先から青白い光線が出て、机の上に置いてあったロトシックスの引換券が一瞬にして灰になってしまったのだ。――俺の6億円の夢が無残にも消え去った。
「ちくしょう! 何てことをするんだ。俺の6億円を返せぇー!!」
白い灰になった6億円の紙切れを握って、俺は怒りの抗議をした。
「そんな大金を手に入れたら、あなたが目立ってしまうじゃないですか」
「なんで、こんなヒドイ目に合わされなくっちゃならないんだ。おまえ、さっき俺の生涯サポートって、言ったよなぁ? いったい俺のなにをサポートしてくれてるんだ!?」
「あなたが目立たないように、有名にならないように、幸せにならないように、しっかりとサポートしております」
「はあ……」
G4のいったその言葉に俺は絶句した。
「じゃあ、俺が受験に失敗したのも、仕事が窓際になったのも、出版ができなかったのも……全部おまえの仕業か!?」
「ハイ! しっかりサポートしました」
誇らしげな声でG4が答えた。
「この野郎! ぶっ殺してやる!」
俺はG4に殴りかかろうとしたが、ベルトに付けたスマートフォンのような器具を触るとG4の周りに丸い透明のシャボン玉のようなバリアーが一瞬にしてできた。
ブチ切れた俺はシャボン玉バリアーを拳で殴ったり脚で蹴ったがまったくビクともしない。
「クッソー! みんなおまえのせいだったんだ。俺の大事なところが肝心な時にショボーンなのも、おまえの仕業だったのか?」
「――申し訳ありませんが、下半身に〔ショボーンブロック〕を、かけさせていただいております」
「やっぱり、そうか……うっうっうう……」
情けなくて……、思わず泣き出した俺。
「おツライ気持ちは分かりますがね、勝手に死んだりしないでくださいよ。あなたに死なれるとわたしの仕事の評価が下がるんです。前にも38階のマンションの屋上から飛び降りたでしょう? 間一髪でキャッチできましたが、危ないところでしたよ」
「あのとき、おまえが助けたのか?」
「もちろん、そうです。生涯サポーターですからね」
「……俺は死ぬこともできないのか? どうして俺がこんな目に合わされるのか、理由を教えてくれ!」
「いやねぇ、あなたはハーフなんですよ」
「日本人じゃないのか?」
「いえいえ、そういうハーフじゃなくて、未来人と現在人のハーフだから……。本来、存在してはいけない人間です」
とんでもないことをG4が言いだした。
未来人と現在人のハーフってことは、本当にタイムマシンは発明されていたのだろうか? 時間旅行者との間に生まれた人間なのか? この俺は……。
そしてG4から信じられない話を聞くことになった。
「わたしは25世紀からきました。その時代には誰でもタイムマシンで時間旅行ができるんですよ。あなたのお父さんの未来人は、タイムマシンの着地地点を間違えて道路の真ん中に降り立って、たちまちトラックに轢かれて病院に運ばれました。そのときタイムマシンは大破して、おまけに頭を打って彼は記憶喪失になってしまったのです。半年間、病院で暮らした彼はその病院の看護師と親しくなり、退院後、ふたりで一緒に暮らし始めたのです。――そのときに生まれたのがあなたですよ。本来、未来人と現在人は結婚できないし、ましてや、子どもを作るなんてトンデモナイ! そんなことをしたら、未来の歴史が変っちゃいますからね」
俺の親父が未来人?
信じられないような話にどう応えていいのか分からない。ただ言えることは、ドジな親父のせいで、重い十字架を俺が背負わされる羽目になったということだ。
ひと言、クソ親父に文句を言わないと俺の気が済まない!
「我々の発見が遅れて、生まれてしまったあなたは未来と現在がリンクしてできた〔時空の落とし児〕です。存在してはいけない存在なのですよ。以前は、生まれる前に命を抹消されました。しかし、それは残酷だと未来の人権団体に非難されてなくなりました。その次は生まれても〔時空の落とし児〕は、世間と接触させないために、一生、精神病院か、刑務所暮らしでした。――それも、人権団体にあまりに可哀相だと言われましてね。そこで、わたしのような生涯サポーターを、ひとり専属につけて〔時空の落とし児〕には、歴史を変えたりしないように、目立たない日陰者の人生を歩ませることになったのです」
G4の長い説明を聞いて、俺のツイテナイ人生の理由がやっと分かった。……とは言え、こんな冴えない人生を死ぬまで生きなくてはいけないかと思うと、この先、
「じゃあ、俺は一生飼い殺しか?」
「いいえ、生き殺しです。生きていても死んでいるのと変わりませんから――」
クックックッとG4が鼻を鳴らして嗤った。
人を小馬鹿にしたG4の態度に、こいつを殴ったろうかと思ったが、シャボン玉バリアーに阻まれて触れることもできない。こんちくしょうーめ!
「こんな風に〔時空の落とし児〕の規制が厳しくなったのは、タイムマシンを開発した23世紀の奴らのせいなのです。人類は23世紀末にタイムマシンを発明します。その頃の地球は資源を使い果たして空っぽ状態だった。遥か宇宙にまで資源を求めて宇宙船を飛ばしましたが、リスクばかり高くて、思うように資源開発もできない状態でした。――そこで考え出したのが過去の地球へ行って資源を採ってくることです。タイムマシンでジェラ紀まで行って、思う存分、資源を掘り起こし、森林を伐採し、ジェラシックパークまで作って、23世紀の奴らは恐竜をゲーム感覚で狩りまくったのです。そのせいで……」
そこまで話してG4は、ハァーと大きく溜息を吐いた。
「どうなったんだ?」
「――地球上の恐竜が絶滅してしまったのだ」
「なにぃー? 地球に隕石が落下したのが原因だと言われているけど、それ違うのか?」
「違います! あれは23世紀の奴らが流したデマ説で、本当は恐竜の乱獲が原因なのです。それ以外にも、タイムマシンでいろんな時代に行き、神やら、魔法使いや預言者になった未来人もたくさんいます。ほら、あのノストラダムスもそのひとりですよ」
知らなかった! まさか、未来人がそんな頻繁にタイムマシンで時空を行ったり来たりしていたとは……それは驚くべき事実だった。
「それで時空の流れが乱れちゃったので、タイムトラベラー社を発足して時間旅行者たちをきびしく取り締まるようになったのです。【 規則第一条、未来人はその時代の人間たちと接触してはいけない 】でした。誤って未来人と現在人との間に子どもができたら、未来の流れが狂ってしまうので、あなた方〔時空の落とし児〕は、目立ったり、有名になったり、もちろん家族を持ってもいけません。……だから天涯孤独に死んで逝ってください」
「俺は一生結婚しても、家族を持ってはいけないのか、それで恋人も消えたのか?」
「ハイ、彼女はあなたとの記憶を全て消去して、新しい町で暮らしていますよ」
突然、彼女が消えたのはこいつの仕業だったのか。
「――そうか、それで彼女が幸せなら俺はいいんだ」
頬に温かい雫が伝っていく。
俺なんかに関わったせいで……彼女もそんな目にあっていたんだ。たぶん、俺のおふくろも同じように記憶を消されて、どこかで暮らしているんだろう。
「あなたの人生は誰ともリンクしてはいけないのです」
ああ、なんて悲しい運命だろう。
「それじゃあ、何のために生まれてきたのか分からない……」
「生まれてきたこと自体が間違いでした」
と、G4がこともなげにいう。
この野郎、人の気も知らないで……このまま、生きていたって夢も希望もない俺の一生――。もう、こんな生活はイヤだ!
タイムマシンなんか発明した未来人が心底憎いと俺は思った。
「おやおや、すっかり話し込んでしまいました。わたしは多忙なのです。じゃあそろそろ、おいとましますね」
そういうとG4は、腰に提げた携帯型タイムマシンのスイッチをピッピピッと押して操作をし始めた。
「タイムマシンが消えて、3分後にわたしとしゃべったことは、あなたの記憶からスッカリ消去されますから……では、ご機嫌よう!」
ブゥーンと空気が波動する音がして、タイムマシンが動き出したようだ、その瞬間、シャボン玉バリアーが解除された。
その隙を俺は見逃さなかった――。突進して、G4の身体に抱きついてやった。
「わわっ、何をするんですか? 離してください! タイムマシンが発進しますよ」
「俺も未来に連れていけ、こんなところはもう真っ平だぁー!」
いきなり抱きつかれて、G4は目を剥いて
「ダメです、離れてくださーい!」
「イヤだ、イヤだー!」
もがいてG4は引き離そうとするが、この俺は必死にしがみ付いて絶対に離れるものか! このままタイムマシンで未来まで一緒にいくんだ。
きっと、未来の世界は薔薇色に違いない!
――そしてタイムマシンは、俺たちを乗せて時空の彼方へ旅立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます