パステルカラーの空と水彩画売りの魔女

睡眠不足

プロローグ

第1話 空


 この部屋から見える空は、きっと彼女が見上げる空とは違った色をしているだろう。


 今日もあの魔女さんは、いつもと同じように真っ白なキャンバスを並べ、風に揺れる髪を遊ばせたまま、空色の絵の具を混ぜているのだろうか。

 蝉もようやく泣き疲れた秋の始まりは、夏の猛暑を増長させる空とは違った穏やかな顔をしていた。

 僕は目の前に広げた文庫本をそっと閉じ、少しだけ冷たい風の音に耳を澄ます。


 そうして、僕がこの街に引っ越してきてからの、彼女と見た空色の日々を思い出していた。


「いらっしゃい、お客さん」


 魔女さんは、いつも僕をそう呼んだ。

 彼女が僕に向ける笑顔は、いつだって優しさに満ちていた。

 ある時は道端に咲く花に微笑むように、またある時は、親猫とじゃれ合う小さな子猫に笑いかけるように。


「魔女さん」


「なんですか?」


「今日の空はどうですか?」


 僕らの会話は、いつもここから始まった。



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