第2話 14 歳 地獄へようこそ! そして卒業



 ここは地獄か、闇の牢獄か。



 恋に玉砕した僕にとって、すでに周知の事実であるクラスメイトの生暖かい哀れみの視線は、針の筵と呼べただろう。



 もう御天道様の下を歩けるとは思えなかったし、僕の世界はもう既に御天道様などを必要していなかったと言える。



 わずか十四年の人生で、我が黄金時代は主人公である僕を、置いてきぼりにするスピードで駆け抜けてしまった。



 これからクソ長いだけの人生を、一体どうしろと言うのだ。



 思わず、責任者を呼べと叫びたくなる衝動。



 心が痛くて死にそうだ。



 だからいっその事、殺してくれと叫びたくなる衝動。

 

 中学二年生の秋に散った僕は、三年生になった春になろうと、花咲くどころか枯れ落ちていて、後悔と自責の念に囚われながら、まるっきり情緒不安定。



 すっかり津軽海峡冬景色であったのだ。



 と言っても、僕が乗っていた青函連絡船が向かっているのは南であり、甲板の上のクラスメイト達は併走するイルカの群れを観て大にぎわいだった。



 修学旅行である。



 目的地は東北三県であり、正直言ってどこを観るというのだという気がしないわけでもなかったが、これを機会にすっかり避けられている関係性を改善したいと思うのは当然の事である。



 木村さんにしてもちょっと不思議ちゃんな性格が災いしてか、クラスの中でも孤立を深めているらしい。



 親友である宗像さんと常に行動を共にして、実はレズなんじゃないかと囁かれたりしているらしい。



 まぁそんな事はないと言う事は僕は知っているのだけれど。





 「杉岡、ちょっと来なさい」



木村さんにちょっと威圧的に声をかけられ、体育館の裏に連れて行かれた事が三年生になってからあった。



 僕が告白して以来、杉岡くんとは呼んでくれなくなったのだけれど、当然のように僕は何かを期待して犬のように尻尾を振りながら付いていったのだが、現実という奴はいつも非情である。



 「私ね、吉倉くんの事が好きなんだけど、杉岡、ちょっと間を取り持ってくれない?」



 吉岡くんはバスケットボール部のエースでもあり、温厚で人柄も良く勉強も出来る文武両道のナイスガイである。

 

 そう言えば、木村さんはバスケットボール部のマネージャーをしていたのを思い出す。



 「オッケー!! 任して!!」



 そんな心にもない事を二つ返事で了解し、胸の奥で泣きながら木村さんの心中を吉岡くんに伝えたのだが、吉岡くんはやんわりとお断りの意志を示した。



 そんな事があったので、木村さんの性的嗜好は了承済みである。

 

  彼女の姿を一枚取りたくて、お年玉を貯めて買った一眼レフカメラを持ってやって来た修学旅行ではあるが、撮るのは海と空と雲ばかりであった。



 フイルムは無意味に消費されていく。



 将来は風景を専門に撮るカメラマンにでもなろうかと思った時に木村さんから声をかけられた。



 「杉岡、宗像さんと一緒の写真を一枚撮ってよ」



 よろこんで!!



 と、心の中で叫びながら撮った写真。



 数十年経った後になっても、この時の修学旅行の思い出はこの瞬間しか覚えていない事になるのだけれども、修学旅行から帰った後にプリントした写真を彼女に渡してからは少しずつではあるけれど、前のように話をする機会が増えてきて、少しは笑ってくれる様になった頃、僕らは中学を卒業することになる。





 





 「あれ?何で木村さんがここにいるの?」



 高校入試の三日前から知恵熱を出し寝込んだ僕は、試験前だというのに中学を休んだしまった。



 不安になりながらも受験する高校に行ったら、入試を受ける教室に木村さんがいたのである。



 「何でって、私もここ受けるのよ」



 「ここって、下から数えて二番目の学校だけど、木村さんって以外と頭が悪かったんだね」



 「それはお互い様でしょ? だいたい入試直前に熱出すとか相変わらずバカみたい」



 そう言えば、木村さんと初めてあった時も似たような状況だったなとしみじみ思う。



 試験は何となく終わった。



 後日、合格発表を見に行くとすぐに自分の番号を見つける事が出来た。



 木村さんも、喜んでいる姿を見つける事が出来たから、彼女も合格したのだろう。



 「杉岡、私は受かったわよ。アンタは?」



 「受かったよ」



 お互い手に手を取って喜ぶ。



 きっと高校生活は素晴らしいものになるだろうと希望を持つのだけれど、それがぬか喜びであると気が付くまでそれほど時間はかからなかった。

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