100%はずれる占い
佳純優希
第1話 100%はずすお婆さんが「凄い」わけ
私も最初は半信半疑だった。
私は「どこかに一攫千金のチャンスはないか?」などと野望を抱きつつその日暮らしをしている、短大卒の二十二才。しがないフリーターをしている。
とある日曜、リビングでくつろぐ私に妹の佳子がその情報を持ってきた。両親の留守中である。
「お姉ちゃんいいかげん定職につけば? フリーターなんてボーナスも貰えないし終身雇用でもないし、結婚も難しいんじゃない?」
佳子は大学受験を控えた十八才の高校三年生。大学受験という「社会人になる一歩手前のハードル」の前に立っている佳子は言うことも世の中を見据えた現実的なもので、そのシビアな視点からの意見が、ふらふらとフリーターなどしている私の胸に突き刺さる。
「あんたこそねぇ、日曜の昼間っからTV見ながらお菓子食べて、いい御身分ね!」
皮肉の一つもかましてやった。
「あたしはいいのよ。食事には気を付けてるし、太らない程度のおやつだから」
打てど響かず、とはまさにこのこと。私は要点だけ言うことにした。
「受験よ!」
「は?」
「あんたも受験生なら、日曜でも勉強ぐらいしなさい! と言ってるのよ!」
「あー、はいはい。そのことね」
佳子は落ち着いている。これだけ言っても受験生としての自覚無し、か?
「『そのこと』って何よ。受験は人生における最重要課題の一つと言ってもいいと私は思ってるわよ」
佳子はTVを見たまま答えた。
「私はこのままのペースで勉強すればどこかには合格するから、無理する必要無いのよ」
私の頭に疑問符点灯。どこかには合格する……?
「合格するってなんでわかるのよ」
私は疑問をそのままぶつけた。
「占いで見てもらったのよ」
「『占い』? あんたが占い?」
はっはっはと笑って、私は飲んでいたコーヒーをこぼしそうになった。現実主義の佳子が「占い」とは。
「占いで『絶対合格する』とでもいわれたの?」
私はまだ笑いながら言った。さすがに佳子もしゃくにさわったのか、視線をこちらに移し声を大きくした。
「その占い師、本当にすごいんだから。表立っては有名じゃないけどマニアの間じゃあカリスマ的存在よ」
「はっは、カリスマ占い師に『合格する』って言われて安心してんのか。あんたがそこまで子供だったとは、姉ちゃん悲しいよ」
私は大げさな身振りで「ガッカリ」というポーズを取った。
「分かってないわね~」
「え?」
「私は『このままのペースで勉強すれば絶対、どこの大学にも受からない』って言われたのよ!」
「はあ~?」
訳が分からない。
佳子がソファから身を乗り出して言った。
「その占い師の占いはね、100%はずれるのよ!」
「は? 100%はずれる?」
「そう、つまりその占い師に『絶対、どこの大学にも受からない』って言われたってことは、確実にどこかの大学に受かるってことなのよ!」
「……マジ?」
私は真剣に考えた。もし本当だとしたら、それはある意味スゴイことである。100%はずれるということは、裏を返せば、正反対のことを100%当てるということだから。
秘められていた私の野望が、めらめらと音を立てて燃え上がり始めた。
「その占い師ってのはどこに居るのよ」
さりげない風を装って聞いた。
「結局お姉ちゃんも見てもらうの?」
ニヤリと笑う桂子。
「まさか」
私はこわばった顔を作って言った。
「そんなインチキ占い師の顔ってのを一度拝んでやろうと思ってね。はずれたら文句の一つも言ってやるわよ」
「えぇ~文句言うんだったら教えないよ~」
しまった。演出過剰だったか。
「いや、じゃあ、遠くから眺めるだけにするから」
「だったらいいけど……」
私は占い師の居場所を聞き出し、メモ帳にメモッた。駅前のビルの地下の寂れた一角である。
佳子が終始クスクス笑っていたのは気になるが、これは人生に二度と訪れないかもしれないビッグチャンスである。
今まさに、私は人生の転機を迎えたのだ!
私はコートを羽織ると、早速その占い師の元へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます