シェアハンド

カミハテ

某テレビ局の催促かと思ったら手が届いた

 益谷のところに宅配便が来たのは、午後四時半のことだった。その日は日曜日で、益谷はインターホンが鳴ったとき、てっきりNHKの受信料を払えという催促がやってきたんのだと思って、アパートのドアは開けずにベッドの上での惰眠を続行しようとしていた。益谷の部屋にテレビはなかった。そのことを説明するのも、益谷には面倒なことだった。


「宅配便でーす、留守ですかー?」


 ドアの向こうからそう聞こえてきてから、益谷はようやっと目を開き、ベッドから起き上がった。しかし益谷はまだN〇Kの催促を疑ってかかっていた。まさか宅配便だと偽ってドアを開けさせるようなことは〇HKはしないだろう。しかし益谷の友人の旭は、益谷に以前、「携帯電話はワンセグですよね? 受信料払って下さい」とNH〇に言われたのだと呆れたように語っていた。

 益谷はそのことから、N〇Kというのは何がなんでも受信料を払わせようとする、悪質な借金取りのようなことをする団体だと思い込んでいる。益谷は警戒しながらドアを開けた。

 

 ドアの向こうにいたのは気だるい表情をした若い女性で、その女性は青と白の縞々の服を着ていた。宅配サービスのヤマ〇運輸の制服である。益谷はようやく警戒をとき、「ああはい、寝てたもんでスイマセン」と言って荷物を受け取った。

 益谷はハンコを所持していない。ヤ〇トの女性は自身の胸ポケットからボールペンを取り、益谷に渡した。益谷が受け取り票にサインすると、「あざっしたー」と言ってヤマトは去って行った。


 益谷が受け取った荷物は白いダンボール箱で、ひんやりと冷気を放っていた。クール便かよ、と益谷は呟き、伝票を見た。伝票に差出人の名前や住所は書かれていなかった。益谷は眉間に皺を寄せながら、荷物を床に置いた。通学用に使っているリュックから筆箱を取り出し、さらにそこからカッターナイフを取り出す。白いダンボール箱はガムテープで頑丈に封がしてあり、益谷はカッターナイフを使って荷物を開封しなければいけなかった。


「うぁああああああああぁあああ!?」


 ダンボール箱から出てきたものを見て、益谷は叫び声をあげた。空中に放り出されたカッターナイフが床に落ち、回転しながらフローリングを滑って壁に刃をめり込ませた。益谷は顔中に汗を滴らせ、荒い息を吐きながらも、開封されたダンボール箱の中身を凝視した。


 それは他の何物でもない、人間の『手』だった。


肌の色は白くて、全体的にピンクがかっているようで、ハンドクリームでも塗ったようにつやつやと輝いていて、あまり骨ばっていないようでそれでいながら華奢なようで、桜貝のような爪がまぶしく光っていた。益谷は唾を飲みこみ、全身を震わせながら箱から『手』を取りだした。何度もつまんだり撫でたりして、その『手』が剥製や作り物ではないことを確かめる。小一時間ほどして、益谷は「信じられない」と呟いた。


「手だ! そよかぜちゃんの手だァアアアア!」


益谷は立ち上がり、『手』を掴んだまま高校時代に体育の授業で習った謎のダンスを激しく踊った。


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