第63話 王都ミスラ 


 ミストニア王国軍は、間違いなく悪夢を見たのだろう。

 誰もが恐れ戦き、我先にと逃げ帰った。

 十万を超える軍勢が脱兎の如く逃げ去るのだ。それは、まさに雪崩を思わすような光景だった。

 しかし、ローデス王国軍はそれを嘲笑う訳でもなければ、歓喜の声をあげることもなかった。

 彼等は無傷での勝利を得たものの、決して勝者ではないのだ。

 もしかしたら、慌てて逃げ出すミストニアの兵と変わらぬ畏怖を心に植え付けたのかもしれない。


 少なからず戦は回避された。

 ただ、どこか寂しさを覚える。

 なにしろ、少なくない死者が出ているのだ。それも、俺達の手によって……

 中には、戦いたくない者も居たかもしれない。それを考えると、やりきれない気分になるのも当然だ。


 俺達が割り込んだお蔭で、ローデス王国軍は戦うことなく戦闘終了となってしまった。だが、彼等が暇を持て余している訳ではない。

 戦場となった国境付近に散らばる死者――ミストニア兵の対処に追われている。

 これに関しては、彼等の静止もあったが、手伝うことにした。

 なにしろ、それを為したのは、誰でもない俺達なのだ。

 本来であれば、急いでミストニア城へ向かうべきなのかも知れない。

 しかし、既にミストニア王国は、何らかの方法で報告を受けていることだろう。そう考えると、一分一秒と急ぐ必要はないと思えた。

 どのみち、正面から正々堂々と駆逐するつもりでいるし、どれだけ防御を固めようとも、それは無駄であり無意味だと考えたからだ。


「安らかに眠ってください。神の慈悲……あなたに幸せな来世が訪れますように」


 マルセルが死者の一人一人に祈りを捧げている。

 神で言い淀んだのは、神の姿を知っているからだろう。

 まあ、それも已む無しだ。だって、ソファーに寝っ転がって、ポテチを食いながらアニメを鑑賞しているような奴だもんな。


『大きなお世話よ!』


 エルソルの苦言に関しては放置するとしよう。

 ミストニア兵の遺体を前にし、その悲痛な死に顔を目にして、少しばかり人間の有様について考えさせられる。


 本当に、これが人の有様なのだろうか。

 人とは、こんなに愚かな生き物なのだろうか。

 確かに、人間とは、怒、憎、楽、欲、ありとあらゆる理由で人を殺める精神を持ち合わせている。

 だが、それだけではないはずだ。だって、人は、愛、喜、哀、という感情も持っているのだ。もっと人に優しくできるはずだ。

 それに、楽や欲だって良い方向に進めば、決して悪い感情ではない。

 ただ、己を戒め精進する必要があるのだ。だが、悲しいかな、良いことに向ける精神力が脆弱なのだろう。

 結論からすると、結局は善がれば悪がある訳だ。逆に悪があってこそ善もあると言えるだろう。

 できるなら、誰もが善を目指して欲しいものだ。

 まあ、これを為した俺が偉そうに言えることではない。


 俺も気を付けないとな……


 己を戒めていると、義経がやってきた。


「ユウスケ、いつ出発するのだ?」


 直ぐにでもトキシゲを討ちたくてウズウズしているようだ。


「もう直ぐだが、ちょっとマリアを迎えに行ってきたい」


 義経が少し首を捻っていたが、直ぐに思い出したのだろう。その表情は納得のものだった。


「彼女にミストニア王国を任せるのか?」


 考えを先読みした義経が、先々のことを尋ねてくる。


「ああ、彼女は王女だし、俺はミストニアにとって死神だからな」


「あはははははははは!」


 死神発言が悦に入ったのだろう。義経は愉快だとばかりに笑い声をあげる。


「あの口上は最高だったぞ。私も我が国の重鎮達に言って聞かせた」


 なにを言って聞かせたのだろうかと首を傾げると、義経は構わず続ける。


「あの言葉は、ミストニアにだけ向けられたものではない。この大陸全ての者に向けられた言葉だと、そして、我が国が悪行を為せば、今度は我が国が滅ぼされるだろうとな。そう言ってやったら、奴等は震えあがっておったわ。くくくっ」


 そうだな。義経の言う通りかもしれない。

 今回は偶々ミストニアが対象となったが、悪行が目に余れば、それがどこの国であれ、暴れることになるだろう。

 なにしろ、それが性分だからな。


 少しばかり自分の在り様について考えていると、義経が表情を硬くした。


「お主のような者が、征夷大将軍となるべきだった。いや、帝にこそ相応しいかもしれんな。さすれば……」


 どうやら、鎌倉時代のことを思い出しているようだ。

 俺にとっては古事だが、義経にとっては苦い思い出なのだろう。


 その後も、粛々と戦死者の対処を行い。あらかた済ませたところでマリアを迎えに行くことにした。









 ワープを使ってマリアを連れて戻ってくると、天空城の意匠が変わっていた。

 戦死者の埋葬を行っている間に、綾香がごそごそとやっていたのは、これだったのだろう。


「まるでドラキュラの城のようですわ」


 以前と打って変わった城の姿を目にした麗華が、その端正な眉を片方だけ吊り上げた。

 確かに、その通りだ。その通りなんだが、なぜ黒い雲まで周りに取り巻いているのだろうか。


「暗黒城ニャ!」


 それこそ、ロココの感想が的を得ている。だって、これでは魔城だ。でも、魔の表現は、クルシュからクレームがきそうだ。

 そう、そこにある天空城は、雰囲気が黒っぽいイメージに変わり、三本の高い尖った塔がそびえ立つような洋風の城となっていた。

 まあ、中は異空間だから、全く外装に関係ない造りだったりする。


「不気味なんちゃ」


「そうね。悪くはないけど。ちょっと不気味かしら」


 ラティに続いて感想を述べたエルザも、あまり好みではないようだ。

 ところが、姉のアンジェはかなり気に入ったようだ。


「いいじゃね~か。悪者にはお似合いだ」


「確かに、完全に悪を象徴していますね」


「私としては、寺院のような建物の方が……」


 楽しそうにするアンジェの言葉に頷くマリアだが、自分の好みとは相反しているようだ。あまり嬉しくなさそうだ。

 それに、マルセルに関しても少しばかり不満があるのだろう。少し残念そうな表情で溜息を吐いた。


「どうせ中は変わってないピョン。だって、アヤカが造る建物の内装はワンパターンピョン」


 見透かしたようなアレットが肩を竦めると、クリスが自分の要望を口にする。


「私としては、もっとどっしりとした城が良かったです」


「お姉様、我儘を言ってはダメですよ。天空城の存在だけで贅沢だというものです」


 妹のエミリアとしては、天空城の優位性を考えているのだろう。形に拘る姉を窘める。


「私は、お風呂さえ広ければ、何の異論もありません」


 ミレアが怪しい発言をし始めた。もしかしたら、エロモードが復活してきたのかもしれない。


「そんなことよりも、私の武器を作って欲しいと頼んでおいたのに……」


 通常状態となったルミアは、天空城よりも己の武器のことを気にしている。


「さあ、城の形についての議論はまたにしましょう。それよりも、皆さん参りましょう。義経様の我慢も限界のようですから」


 サクラの言葉を聞いた全員が視線を向けると、そこには煙管キセルを片手にイライラと紫煙を撒き散らす義経の姿があった。

 そんな義経を目にして、誰もが溜息を吐きながら、天空城に乗り込んだ。









 全員が乗り込んだことで出発した天空城は、一路ミストニアの王都へと向かう。到着までには二日程度かかる見込みだ。

 その間はのんびりと寛ぐつもりでいたのだが、なぜか綾香が操縦を交代しろと言ってきた。

 それについては、特に問題ないので変わってやったのだが、心配しているのは、奴が操縦しない間に行うことだ。

 まさかとは思うが、ここに来てまたアフォな物を作り出すのではないかとヒヤヒヤとしている。


 誰の所為かは分からないが、この世界に来てから、やたらと心配性となってしまった。

 そんな俺のところに、ロココと麗華がやってきた。


「いま、大丈夫かニャ?」


 ロココが上目遣いで話し掛けてくる。


 この目は、怪しい、何か良からぬ頼みごとにきたに違いない。

 だが、彼女達が口にした願いは、俺の不安とは全く異なるものだった。


「村上とその取り巻きは、わたしにやらせて欲しいニャ」


 彼女の願いは、至って単純なものだった。

 奴は前世で彼女が虐められる原因を作った男だ。自分の手で成敗したいと考えるのも不思議ではない。

 その願いに対して返事をする前に、麗華も自分の願いを伝えてきた。


「召喚者の対応と処遇は、わたくしに一任して頂けませんか。もちろん、ロココの、いえ、磯崎さんの邪魔はしませんわ」


 二人の間では、既に話が出来ているのだろう。

 そんな二人に返事をしようとしたところで、綾香が乱入してくる。


「麗華。生温いのはダメですよ。きちんと処分してください」


 綾香は虐められたこと、佐々木佳代の死、それを今でも胸に刻み込んでいるのだろう。


「もちろんですわ。でも、あなたに関しては、わたくしにも罪があります」


「麗華のことはもういいのです。アルベルツの三人も。でも、私に娼婦となれとか、身体を売って奉仕するべきだとか言った奴等は許せない」


 麗華が申し訳なさそうにすると、綾香は仲間になった者達を不問としたが、許せない存在が居ると伝えてくる。

 そんな綾香の言葉に触発されたのか、ロココが眦を吊り上げる。


「ユウスケ、ううん、柏木君、わたしがどうして学校に行かなくなったか知ってる?」


 実際、彼女が登校拒否を始めた理由は知らされていない。だから、黙って首を横に振るしかない。


「わたしね。学校へ行こうにも、もう何も無かったのよ。教科書も、カバンも、ノートも、筆箱も、上履きも、体操服も、制服すらボロボロだったの。辛うじて残ったのは、私の身体と純潔だけね。だから、学校に行きたくても、もうそんな状態じゃなかったの。柏木君、あの頃のわたしの髪が、日に日に短くなっていたのを知ってる? 入学した時は長かったのに、最後はショートヘアだったわ」


 あの頃の実情を語るロココ、いや、磯崎の言葉を聞いて、麗華と綾香が項垂れる。


「だから、わたしの人生を台無しにした奴等が許せない。唯一、奴等に恩赦があるとしたら、奴等のお蔭で、ユウスケ――柏木君と仲良くなれたことだけ。訳だから、麗華が何と言おうとも、村上とその取り巻きは、絶対に許さないわ」


 可愛い猫耳と尻尾を立てたロココが、猫のような縦割れの瞳を潤ませながら己の心情を伝えてくる。

 ロココの心情を察したのだろう。申し訳なさそうな表情をした麗華が頷く。


「解ってますわ、磯崎さん。あなたの行動を邪魔したりしませんわ。ただ、殺めてしまうのはどうかと思うの。生きて罪を償わせた方が良くないかしら」


「……」


「でも、あんな奴等に生きる資格があるのですか? 佳代が持っていたメモ帳に酷い仕打ちが書かれていました。誰にも言えないような仕打ちが。私は絶対に許せないです。ユウスケ、この城の遠隔装置を追加しました。だから、私もミストニア城では戦います」


 麗華の尤もな意見でロココは押し黙ったが、綾香が強い反発した。


 恐らく、佐々木は誰にも言えず、誰にも相談できず、誰も頼る者も居ない中で、独り戦いへと放り出されたのだろう。

 それぞれの想いが理解できる。だからこそ、どうしろと言えないでいた。

 しかし、このままでは戦闘に支障がでるだろう。

 それもあって、心を鬼にして三人に自分の考えを伝える。


「俺はロココの気持ちを全てとは言わないが理解できる。なぜなら、俺自身が虐めの対象だったし、磯崎と接していた唯一の存在だからだ。だが、麗華の気持ちも分かる。それは人として持つべき考えだからだ。そして、綾香の気持ちも分かる。佐々木の死を目の前にして怒りに震えた。彼女もあんなことをしたかった訳ではないだろう。きっと、その背景には、人には語れない苦痛や悩みがあったはずだ。だから、俺としては、どうしろと言えない。戦闘前までに三人で話し合って決めてくれ。もし決まらないようなら、俺が召喚者と戦う。今の状態でお前達を戦わせるのは心配だからな」


 もしかしたら、三人はケンカを始めるかもしれない。

 だが、それはそれで良いことだろう。

 だって、人との関わり合いを深めれば、想いや考えの違いから必ず衝突は生まれる。そして、それを避けて通ることは、関係を止めてしまうのに等しい。

 これからも関係を続けるならば、お互いが本気であるならば、きちんと話し合って解決する必要があるのだ。


 三人が項垂れたまま部屋を後にしたのは言うまでもないだろう。

 その後も色々なやり取りがありつつも、遂にミストニア王都に辿り着いた。









 ミストニア王国の首都ミスラでは、民衆たちが大変な騒ぎを起こしていた。


 まあ、それも仕方なしか……


 なにしろ、王城と対峙するように、彼等の頭上に怪しい空中城が現れたのだ。世紀末現象に思えても当然だろう。

 まあ、この世界に世紀はないんだけどな。

 離れた場所からこの天空城を目にした者達は、口を揃えて魔王城だの悪魔城だのと騒ぎ立てているようだ。

 これから起こる事態に不安を抱いているに違いない。


「やっぱり、この城の方が恐怖を与えるみたいだな……」


「私の作戦が成功しました。さすがは、私」


 眼下の民衆を眺めながら、天空城についての感想を述べると、綾香がやや頼りない胸を張って自画自賛した。


 いや、民衆に要らん心配を与えているだけだけどな……まあ、相手を威圧するのも作戦としては悪くないか。


 気を取り直して、ミストニア王族に宣戦布告を行う。


「我は死神だ。このトルーア大陸のあちこちで悪行を行ってきたミストニア王国だが、あまりの悪行が目に余る。故に天罰を与えにきた」


 やや神がかった話にしたのは、少しでも相手を恐れさせることで、戦う者を減らそうと考えたからだ。


「ミストニア王国王族の行為は、他国で盗賊を装い村々を焼き、人々を死に至らしめ、捕まえた女子供を売る。更には、他国で死人の街を作り、多くの死者を恥ずかしめ、何の意味も無い戦いを起す。もはや、人間の所業とは思えない。よって、死神である我が天誅を与えることにした。だが、この国に使える全ての者が同じ心根だとは考えていない。己は違うと思う者が居るのであれば、直ぐに城から退去すべし。さすれば、天罰を受けることにはならないだろう。しかし、もし戦う心積もりであるならば、死神の洗礼を受けることを覚悟しろ。三十分の猶予を与えよう。それまでによく考えることだ」


 王城にいる者達への宣戦布告をそこまでにして、チラリと街に目を向けると、逃げ惑う者、最後の時だと絶望して勝手気ままに人を襲う者、様々な者の姿が目に映る。

 さすがに、悪行を黙って見過ごすことはできない。


「王都ミスラに住まう民衆たちよ。我は死神でありミストニア王族に天罰を与える者なり。されど、民衆に死を与えるものではない。だが、これを好機とみて悪をなす者はその限りでは無い。最悪の死を持って罰するであろう」


 忠告を余所に、若い娘を襲っていた男が地に倒れた。

 それを目にした民衆が、悲鳴を上げる。

 なぜなら、その男の頭がきれいさっぱり無くなっているからだ。

 そう、空牙でその男の頭を消し去ったのだ。


 襲われていた女は、頭の無くなった男の死体に驚きつつも、直ぐに自分が助かったことを知ると、引き裂かれた衣服を正しながら、天空城に向けて跪いた。

 その周りで慌てふためいていた民衆も、それにならって膝を折り、額を地に着けて祈り始める。

 その祈りは、打ち寄せる波の様に広がっていき、いつの間にか目に映る民衆の全てが、地に伏せて祈りを捧げていた。


「もう、完全に神ですね」


 そんな言葉を口にしたのは、聖女であるマルセルだが、横に立つエルザが肩を竦める。


「死神だけどね」


「何であろうが、神は神だ」


 妹に反論するアンジェは、やたらとご満悦だ。

 どうやら、このノリがお好みらしい。


 三人のやり取りを小耳に挟みながら王城に視線を向けると、城門から続々と侍女や兵士が逃げ出しているのが見て取れた。


「これで良いだろう」


 自分に言い聞かせた言葉だったのだが、それを聞き付けた麗華が満面の笑みを浮かべた。


「さすがは、わたくしの夫ですわ。なんて慈悲深い死神でしょうか」


「でも、約束は、約束です」


 できるだけ人を殺めたくないという気持ちに賛同する麗華に、綾香が取り決めた約束について念を押している。


「分かってますわ」


 麗華が表情を硬くしながら頷くと、ロココも便乗した。


「それならいいニャ」


 ロココの表情は、いつもの明るいものに戻っているが、きっと、心の中では私怨が渦巻いているだろう。


 まあいい、三人が話し合って決めたんだ。口を出す必要もないだろう。


「そろそろ時間だな」


 ヘルプ機能で時間を確認し、作戦開始を伝える。

 ここに居る仲間は、ローデスの戦に参加した十三人――十三使徒とマリアを追加した十四人。それと、義経だ。


「じゃ、行くぞ」


 竜化ラティに乗り、ミストニア王城に向かう。


『向こうに着いたら、直ぐ解除するけ~ね』


 前回の戦闘に参加できなかったラティが念を押してくる。


「ああ、解ってる。ラティ、あの中庭に頼む」


『わかったちゃ』


 そんな他愛のない会話をしながら、いつもの調子で王城に舞い降りるのだが、これから起こる戦いは『死神の断罪』として歴史に刻まれることになる。









 美しい中庭だった。

 奴等の心根もこれくらい美しければ、こんな事態にはならなかっただろうに……


「綺麗な中庭ね」


「奴等の所業とは、似ても似つかんな」


 エルザが中庭の美しさを称賛すると、姉であるアンジェが皮肉を口にする。

 マルブラン姉妹の発言を尤もだと感じつつも、周囲に視線を巡らせると、すぐさまフル装備の騎士達がガチャガチャと鎧の音を鳴らしながら現れた。

 どうやら、騎士達の後方には、召喚者もいるようだ。

 傍に居るロココから、憤怒のオーラが吹き出すのを感じる。


「ついにきたニャ」


 ロココは怒りと喜びが入り混じるニヒルな表情で、綾香特製のボーガンを構える。

 ただ、既にそのボーガンは呪いの所為で、綾香特製では無くなっているようだ。いまや、歪な形状に変わっている。


「ユウスケ、約束ですよ」


 念を押してくるのは綾香だ。


「ああ、解っている。だが、ここを抜ける必要があるからな。それに、麗華の気持ちは、俺も同じだが、手加減してこっちがやられるのは間抜けだからな」


 少しばかり釘を刺すと、麗華、エルザ、アンジェ、ミレア、クリス、ルミアが『任せてくさださい』と声を上げる。

 幾らなんでも能力者相手に、ロココ、綾香、麗華の三人で戦うのは不安を感じる。

 だから、ファルゼンの所に向かうのは、俺、義経、ラティ、サクラ、マルセル、エミリア、アレット、マリアとなった。


「突破口は、私が……エアープレス!」


 エルザが突破口を開くために、百人は居るだろう騎士達に向けて魔法を発動させる。


「くっ。やっぱり、能力持ちみたいね」


 魔法を食らった騎士達は、片足を突いたがなんとか持ちこたえている。

 恐らくは、ファルゼンから能力を分け与えられているのだろう。


「間違いなく、固有能力を持っているぞ。油断するなよ」


「抵抗するなら、容赦せんちゃ!」


「さあ、食らうニャ!」


 呼応するかのように、ラティが速射で矢を放ち、その横ではロココもボーガンで強力な矢を撃ち放っている。


「死神様のいうことが聞けない奴は、冥府に行きな!」


 まだ一発も撃ってないはずなのだが、ルミアが早くもトリガーハッピー発動させている。

 その横では、口上なんて垂れる暇なんてないですとばかりに、綾香が機関銃で弾丸をバラ撒く。


「特製の弾です。痛いだけではすみませんよ」


 彼女達の攻撃は、始めこそ効果を見せて騎士達を薙ぎ倒したが、直ぐにその攻撃が敵に届かなくなる。


 どうやら、守りの能力を発動させたようだな。


「例の絶対聖域か……」


 屋敷を強襲してきた奴等が使っていた能力だ。


「そういや、この能力を調べるのを忘れてたぞ……」


「確か、結界系を得意にしている生徒がいましたわ」


 なるほど、きっと、それも複写や転写済みなんだろうな。


 麗華の返事を聞いて納得するが、その障壁を作っているのは騎士達のようだ。


「エミリア!」


 名を呼ばれた彼女は力強く頷くと、俺の思うところを理解したのか、即座に魔法を発動させる。


「アースクエイク!」


「ぐあ!」


「うぐっ!」


「うぎゃーーーー!」


 エミリアの魔法を食らった敵が、呻き声を漏らしながら倒れる。


 そう、障壁系の力は、不思議なことに足元を守ってくれない。

 地から突き出された尖った土槍で串刺しとなり、騎士達が次々と倒れて行く。


「お主の嫁は、とんでもない者ばかりだな」


 彼女達の力を目にした義経が、瞳を見開いて驚きを露わにする。


 まあ、伊達に十三使徒を名乗ってないからな。ほんと、世界最強の嫁だよな。


「最高に美しい最強の嫁達だ。まっ、俺が唯一自慢できるものさ」


 思わず自慢してしまうと、義経は片方の眉をピクリと動かすが、直ぐに笑顔で応じてくる。


「最強は良いが、尻に敷かれそうだな」


 うぐっ……否定できん……


 どうでも良いやり取りをしていると、マリアが助言してくれる。


「ユウスケ様、右側の障壁を崩してください。そこから謁見の間に続く通路があります」


 この城のことを熟知しているマリアの一言で、次の行動が決まった。


「空牙!」


 右側の障壁を空牙で消滅させると、そこには別の庭があり、城の内部に続いているようだった。

 それを目にして、義経や潜入隊と頷き合う。


「あとのことは頼むぞ。俺達は先に進む。あんまり無茶をするなよ。何かあれば伝心で連絡してくれ」


「任せるニャ」


「もちろん大丈夫ですわ」


「安心してください。軽く殲滅しておきます」


「奴等に目にもの見せてやるぜ」


「お掃除はメイドの務めですから、お任せあれ」


「主様、ご武運を! エミリア、お父様とお母様の敵は任せる」


「さあ、ガンガンぶっ放すぜ! おらおらおら! 逝きな!」


 一応は釘を刺してみた。

 すると、ロココ、麗華、エルザ、アンジェ、ミレア、クリス、ルミア、七人が笑みを見せた。

 最後に、少しばかり呆れた表情のエルザが肩を竦める。


「敵より、味方の統率の方が大変そうね」


 何言ってんだ。俺はいつもそれを何とかしてるんだぞ?


 溜息を吐くエルザに心中で反論しつつも、最後の決戦に向けて足を踏み出した。

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