第14話 養殖始めました
いつ見ても大きな借家だ。
ハッキリ言って、屋敷と言い表しても過言ではないだろう。
目の前には、レンガ調の二階建ての洋館がドンッと建っている。
これこそ豪邸。東京だと一億程度では手に入らないだろう。
エルザがこれを選んだ時、「なんで、こんなデカい屋敷が必要なんだ」と、不満を口にしたのだが、今となっては、これが正解だったと言わざるを得ない。それが少しばかり悔しい。
ロマールで保護した元奴隷娘たちを連れて、ドロアにあるそんな豪奢な借家まで無事に帰って来た。
ああ、行き掛けに盗賊を討伐したお蔭か、帰りの道は静かなものだった。
「お帰りなさい」
「思ったより早かったですね」
玄関の扉を開くと、ルミアとマルセルの二人が、嬉しそうに出迎えてくれた。
ここまで嬉しそうにしてくれると、思わず顔がニヤケそうになる。
なにしろ、二人とも可愛い女の子なのだ。嬉しくない訳がない。
「ああ、何もなかったか?」
「「はい!」」
二人は元気よく返事をするが、直ぐに後ろの四人に気付いて首を傾げる。
「ラティは、分かるのですが、他の方々は?」
「それについては、中で話そう。それと風呂の用意を頼めるか」
「はい。急いで沸かしますね」
マルセルに風呂の準備を頼み、連れてきた四人の娘達を居間に引き入れた。
因みに、風呂には二つの魔道具が取り付けられている。マナを注ぐと注水と風呂焚きの両方が簡単に行える優れモノだ。とても便利だと言えるが、マナの注入量を間違えると水が浴槽から溢れ出たり、熱湯になったりするので気を付ける必要がある。
奴隷生活と長旅で疲労と汚れの溜まった娘達に風呂を勧め、時間的にも昼時となったので食事を済ませる。
それにしても、幼女を含む少女が七人とか、男としては、異常に居辛いんだけど……
全員が食事を終えたところで、今更ながらに娘達の自己紹介を含め、これからの方針について話すことにした。
「みんな聞いてくれ」
娘達に話しかけると、全員の視線が集中する。
ちょっとだけ、その圧力にギョッとしたが、平静を装って話し始める。
「ラティのことはもう紹介したから置いておくとして、こっちの二人はマルセルとルミアだ。ルアル王国出身だが、境遇はお前達と同じだ。仲良くしてくれ」
マルセルとルミアは、その言葉だけで理解したようだ。
「マルセルです。よろしくお願いします」
「ルミアです。仲良くやろうね」
マルセルとルミアが、にこやかに挨拶を済ませる。
「じゃ、磯崎から頼む」
ロマールで保護した娘達の中から磯崎に、自己紹介を頼む。
「私はロココニャン、見ての通りの猫人族で十歳ニャ。ルアル王国の西にあるガルス獣王国出身ニャ。住んでいた村が襲われて行商人に雇ってもらったニャ。でも、盗賊に襲われて奴隷に落とされたニャン」
マルセルとルミアが、「本当に私達と同じだ」とか言っている。
てかさ、相変わらずロココなのかロココニャンなのか分からんわ。てか、彼女にいったい何が起こったんだ?
「磯崎、お前のことは、ロココと呼べばいいのか?」
「うんニャ」
お、おい、それは肯定か否定かわからんぞ。
「それより、磯崎ってなんですピョン?」
なんですピョン……てか、前にも思ったが、ピョンって鳴き声じゃないだろ!
ウサ耳少女から尋ねられて、少しばかり焦ってしまう。いや、それよりも、彼女が発する語尾を不自然に思う方が大きい。
「き、気にするな、俺の知ってる女によく似ていたんで、勝手にそう呼んでただけだ」
『柏木くんのバカニャン』
磯崎、もとい、ロココが伝心でバカ呼ばわりにしてきたが、バカニャンと言われても、全く馬鹿にされている気がしないのが不思議だ。
「あ、忘れていたが、俺のことはユウスケと呼んでくれ」
俺の名前を聞いて、娘達はにこやかに頷く。そして、ウサ耳少女が進んで自己紹介を始めた。
「私はアレットピョン。兎人族の十四歳で、ロココ達とは違う村で、盗賊のところで出会うまでは、面識はなかったピョン」
サクサクと自己紹介をしてくれるのは良いのだが、さすがに語尾が気になる。
「なあ、ちょっと聞きたいんだが、お前達の語尾は変更可能か?」
「無理ニャ」
「できないウサ? あっ、できないピョン」
ちょ~~~、ピョンじゃないのか? 今、ウサって言ったよな? 絶対に言ったよな?
磯崎に続けてアレットが首を横に振るが、かなり怪しいと感じてしまう。
まあいい、もう語尾に関しては、聞き流すことにしよう。
こうして全員の紹介が行われた。
残る二人の人間族の少女達だが、実は姉妹だった。姉がクリステル十六歳、妹がエミリア十歳だ。
出身はミストニア王国の男爵家の生まれだったが、陰謀で実家が取り潰され、二人は国外追放となったらしい。そして、国を出るところで盗賊に襲われたそうだ。
なんとも、世知辛い世界だ。てか、これが全て策略だったら、国ごと潰してやりたくなるぜ。
「父は、このところ不穏な王国の行動が、他国に悪影響を及ぼすのではないかと危惧しておりました。そして、ある時、国王や重鎮の密談を耳にしてしまったのです。その所為で有りもしない容疑をかけられ、冤罪によって処刑となりました……父は、捕まる前に申しておりました。近いうちにミストニア王国は、他国を侵略するだろうと――」
ミストニアは侵略戦争を起こすつもりらしい。もしかして、その武器として勇者を召喚したのかもしれない。
「クリステル」
「ユウスケ様、私のことはクリスとお呼びください」
クリステルの名前を呼ぶと、彼女は既に家名を失った身であるため、今後はクリスとして生きると告げてきた。
「分かった。クリス、ミストニアで勇者召喚が行われてるとか、聞いているか?」
「はい。詳しくは存じませんが、勇者召喚の儀により約四十人の若者を召喚したようです」
『柏木くんニャ?』
『その話は、また後にしよう』
『わかったニャ』
勇者召喚の話を聞いた途端、磯崎が伝心で問い掛けてくるが、それについては、落ち着いて話したかった。
「ところで、ユウスケ様は、これからどうされるおつもりですか?」
自分の話を終えたクリスが、逆に問い掛けてくる。
「お前達を鍛えて、みんなが自立できるようになったら、のんびり楽隠居したいな」
「そうですか……」
何を考えているのかは分からないが、クリスは少し落ち込んだようだ。しかし、気にすることなく話を進める。
「保護した時にも話したが、お前達には一人で生きていける力を身に着けてもらうつもりだ。だから、暫くダンジョンに入ってもらうが、問題ないか?」
村は襲われ、盗賊に捕らわれ、奴隷に落とされる。そんな経験から、俺の意向に反対する娘はいなかった。
これからの方針を伝えられた娘達は、このあと冒険者ギルド登録やダンジョン攻略の準備をして、ドロアでの初日を終えた。
プルルンが弾け、キャタピが倒れ、黒い魔素に変わっていく。
現在は、ダンジョンの地下一階だ。
メンバーは、俺、ラティ、マルセル、ルミア、ロココ、アレットの六人だ。
色々と考えた結果、俺、ラティ、マルセル、ルミアの四人は固定として、残りの四人を二人ずつ交代で連れてダンジョンに入ることにした。
その理由は、新米をぞろぞろと連れて入っても、フォローに困るだけだと考えたからだ。
「えいニャ!」
「やあピョン!」
ロココとアレットの掛け声が狭い洞窟の中で反響する。
初めの頃は、二人ともおっかなびっくりだったが、何度かの戦闘で慣れたようだ。
ダンジョンのモンスターは、血を撒き散らすこともなければ、死体を残すこともないので、恐怖感が薄れ易いのだろう。
「どうだ? 慣れたら下の階層に行きたいが」
「大丈夫ニャ」
「問題ないウサ」
二人は長槍を持って、楽しそうにしている。つ~か、語尾が変わってるぞ、アレット。
『これってゲームみたいニャ』
「ここはまだ地下一階だ。これから、どんどん敵が強くなるから気を抜くなよ」
ロココからゲーム発言があったので、すかさず釘を刺す。
ぶっちゃけ、俺とラティが居れば、こんな低階層で問題なんて起きるはずもないが、それが当たり前になってもらっては困るのだ。
そうはいっても、初日ということもあって、数が多い時は、古参が間引きながら新人の戦闘を繰り返し、地下二階を一通り回ったところで、本日のダンジョン攻略を終了した。
戦利品をギルドで売却して屋敷に戻ると、クリスが庭で長槍を使った鍛錬をしている。なぜか、彼女は戦闘力を身に着けることに執着していた。
鍛錬を続けるクリスをやり過ごし、屋敷の扉を開ける。
「ただいま」
「お帰りなさい」
帰宅したことを伝えると、エミリアが出迎えてくれた。
人間族であるエミリアは、クリスと姉妹揃って赤味がかった金髪で、瞳の色はグレー色だ。二人とも色白で、見るからに白人種特有の雰囲気を持っている。
「悪いが、エミリアも庭に来てくれるか?」
「はい」
エミリアに声をかけ、予定していた格闘訓練を行うために、中庭へと移動した。
別に、彼女達を鍛えぬくつもりではなく、飽くまでも護身のためだ。
というのも、相手が盗賊やモンスターならそれほど問題はない。だって、サクッと始末すればいいからだ。
ただ、街中などで絡まれた時は、そういう訳にもいかない。ナンパしたという理由で、あの世に送る訳にもいかない。それこそ、こっちがお縄になってしまう。
だから、もしものための備えなのだ。
娘達が揃うのを待つ間に、全員の基本レベルチェックを行う。
ユウスケ:基本レベル41
ラティ :基本レベル51
マルセル:基本レベル23
ルミア :基本レベル22
ロココ :基本レベル5
アレット:基本レベル5
クリス :基本レベル2
エミリア:基本レベル1
俺とラティに関しては、盗賊との戦闘と今日の戦闘でレベルが上がった。俺の固有能力ランクが『D』になり、新たに瞬間移動も使えるようになったのだが、その話はまたの機会にしたい。
ロマールから連れてきた新人の四人だが、ロココとアレットの二人は今日の戦闘でレベルが上がり、クリスについては男爵家に居た時に上げたものだと思われる。
全員が揃ったところで、みんなに準備体操から教える。そして、体が温まったところで、空手の護身術の型を教えていく。この辺りは自分がやっていたので慣れたものだ。
「はっ」「やっ」「ニャ」以下省略。
思ったよりも、みんなが真剣に取り組むのでビックリしてしまう。
特にクリスは、他の者達よりも気合いが入っているみたいだ。
だが、蹴りを教える前に、ズボンに着替えさせるべきだった。パンツが丸見えだ……
クリスのパンツにはドン引きしたが……うむ、みんな筋が良い。これなら直ぐ身につくだろう。よしよし。
こうして「冷麺はじめました!」のノリでスタートした養殖の一日が終わった。と思いきや、ステータスを確認したところで、ロココが固有能力持ちだと判明した。そんな訳で、のんびり休息できなくなってしまった。
おい! エルソル、固有能力って本当に超レアなのか? 間違いないんだよな?
入浴や食事を終え、新米冒険者の初日が終わろうとしている。
そんな中、磯崎ことロココを自分の部屋に呼んだ。
彼女が猫娘となってこの世界に居る理由を知ること、それと、固有能力についての話があるからだ。
因みに、部屋は多めにあるのだが、俺以外はみんな共同部屋だ。二人で一部屋を使っている。
不思議に思って尋ねてみると、一人で居るのは不安だという理由だった。
まあ、これまで酷い目に遭ってきているし、色々とトラウマがあるのかもしれない。
「か、柏木くん、えとニャ、まだ早いと思うニャン」
恐る恐る部屋に入ったロココの第一声が、これだった。
何を想像していたのか、分からなくもないが、分かりたくもない。
だって、今の磯崎は十歳なのだ。
「あのさ、俺はロリコンじゃないぞ」
「え~~ニャ、こんなに可愛い耳と尻尾が生えてるのにニャ」
ロココは黒い耳をピクリとさせ、長くしなやかな尻尾をクネクネと動かしている。
てか、嫌なのか、やりたいのか、どっちなんだよ。まあ、間違ってもやんね~けど。
「因みに、ケモナーでもないからな」
「ちぇっニャ」
ロココは耳と尻尾をシュンと下げた。
『そんなことより、なんでこの世界にいるんだ?』
いつまでも相手をしていられないので、さっそく本題に入ることにした。その内容については、あまり周りに聞かれたくなかったので伝心を使う。
『柏木くん、いつきたニャ?』
『俺は~、かれこれ一ヶ月前くらいかな』
『そうじゃないニャ、向こうの時世でニャ』
『あ、日本のことか、それは夏休みが終わって、二学期が始まったころだ』
『じゃぁ、あたしが死んだことは知らないニャ?』
『ああ、って、えっ!? お前、死んだのか?』
『そうニャ、気が付いたらこの世界に転生してたニャ』
このあと、自分にあったことを事細かに話してくれた。
ただ、その話の内容は、聞くに堪えないものだった。
というのも、磯崎は実の母に殺されたらしい。
どうやら、磯崎は学校での虐めだけではなく、家庭でも
夏休みも終わりが見えてきたころに、実母が連れ込んだ男に犯されそうになったらしい。
磯崎は必至で暴れて難を逃れたが、それを知った母親は何を血迷ったのか、自分の男を横取りしたと勘違いして発狂したという。
もう、呆れて物が言えない。
結局、そのことで口論となり、母親から包丁で刺されて他界したという。
悲惨なんてものじゃない。それこそ最悪の結末だ。それを聞いた時、暫くなにも言えず呆然としてしまった。
それでも、動揺から立ち直ったところで、今度は自分の話を磯崎に聞かせた。これに関しては包み隠さず、エルソルにチート装備をもらったことも教えた。
『じゃぁ、奴等がミストニアにいるニャ?』
『おそらくな』
『関わりたくないニャ。でも、報復したいかもニャ』
生まれ変わると、これほど変わるものだろうか。磯崎として生きていた時は、嫌がらせをしてきた相手に、間違っても報復したいなどと言わない娘だったはずだ。
『俺としては、わざわざ報復するのも面倒だ。ただ、俺達に害を及ぼそうとしたら、その限りではないがな』
『それよりニャ。柏木くん、チート勇者ニャン』
『それは勘弁してくれ。勇者になんて成りたくないんだ』
『ニャハハハ』
この話は内緒で頼むと伝えて、二人のこれまでの経緯についての話を終わらせた。
経緯についての話が終わったところで、もう一つの話に取り掛かる。
『お前、固有能力って知ってるよな』
『知ってるニャ』
『お前も持ってるぞ?』
『ニャンだって!』
ニャニャンなし語尾きたー! てか、語尾に付かないパターンってこれしかないのか? つ~か、本当は普通に話せるだろ!? まあいいや、話を進めよう。
『お前、精神制御って固有能力を持ってるぞ』
『それって、どんな能力ニャン?』
『そのまんまだな。平常心を保ったり、精神攻撃を無効化できたりするみたいだ』
ヘルプで得た情報をそのままロココに伝えてやる。
『ニャ~~~ン、もしかして、私が自分の心を殺すことができるのは、それのお陰かニャン?』
心を殺す? どういうことだ? それって何かメリットがあるのか?
ロココが自分の心を殺すことに、何の意味があるのだろうと頭を捻っていると、オートヘプルが発動した。
ああ、別名で言うと、エルのお節介というやつだ。
『アイテムボックス内にある呪いの武器ですが、過去にそれを使っていた使用者は、同じ効果の能力を持っていたようです』
ああ、あれか……
ヘルプの内容を聞いて、アイテムボックスから呪いの武器の入った箱を取り出す。
そして、それをアイテムボックスから取り出した。
『ニャンニャ?』
目の前に現れた古びた箱を目にして、ロココが首を傾げる。尻尾がパタパタ左右に振られているのは、興味を抱いている影響だろう。それはそうと……もはや、言葉にすらなっていないじゃんか!
ロココの台詞に呆れつつも、鍵を取り除いて箱を開ける。
そして、露わとなった二振りの短剣を彼女に見せる。
『なあ、精神制御を有効化して、この武器を抜いてくれ』
『大丈夫かニャ?』
『多分、大丈夫だと思う』
『多分かニャ……でも、やってみるニャ』
俺の返事に不満を抱いたのだろう。ロココは半眼を向けてくるが、なにを思ったのか、一つ頷いて鞘に入った刃渡り三十センチはある短剣を手に取る。そして、そっと剣を鞘から抜く。
ああ、猫人族とはいえ、もちろん、その手には五本の指があり、人間と全く変わらない。強いて言うなら、爪がやや尖っているようだ。
『何ともないか?』
『ないニャ』
心なしか、ロココの反応が薄い。というより表情が全く変化しない。だが、特に精神異常が起きている風でもない。
『じゃ、仕舞ってくれ』
ロココは無表情を顔に張り付けたままコクリと頷く。そして、抜くときと同様に、そっと短剣を鞘に戻した。
呪われていることもあり、これまで鞘から抜くことすらできなかったので、どんな武器かもわからなかった。だが、今回のことで、この武器がダガーという両刃の短剣だということが分かった。
『このダガーを握るとニャ、コロシタイニャ、コロシタイニャって聞こえてくるニャン』
いつもの表情に戻ったロココが、少し困った面持ちで、ダガーを手にした時に感じたことを口にした。
『ちょ、おいおい、それで大丈夫なのか?』
『ニャンともないニャ』
さすがは呪われた武器だけあるな……てか、問題ないならロココに使わせようと思ったんだが、本当に大丈夫なのか?
ニャンともないと言われたものの、ロココに呪いのダガーを使わせることを
というのも、別にダンジョンで戦うだけなら普通の武器でも問題ないのだ。危険を冒してまでこのダガーを使う必要はない。ただ、そこで、ふと疑問を抱く。
『ところで、お前は今後をどうしたい? どうするつもりなんだ?』
『あたしは、ずっと柏木くんと一緒に居るニャン。というか、責任を取ってくれるニャ?』
責任って……尻が切れただけだろ? それって、俺の責任になるのか? それに、ずっと一緒と言われてもな~、まあいいや、そのうち、やりたいことも見えてくるだろうさ。
結局のところ、呪いのダガーに関しては保留とし、明日に向けて就寝したのだが、その夜はラティだけではなく、ロココまでベッドに忍び込んだことで、寝るどころの話ではなくなってしまった。
幼女少女祭りという養殖を始めてから、なんだかんだと問題が起こりつつも、早くも一ヶ月が経った。
ああ、問題と言っても、それは命に関わるような大問題ではなく、日常的な困りごとだ。
例えば、幼女少女が風呂に乱入してきたり、ラティとロココが張り合うように甘えてきたり、といった嬉し恥ずかし的な困りごとだ。
そんな日々を過ごしている中、ロマールから届いた手紙では、エルザ、ミレア共に何事もなく過ごしていると書かれていて、少しばかり安心している。
なにしろ、一応は大人しくすると約束してくれたものの、奴は自分からトラブルに首を突っ込むような性格なのだ。
まあ、何事もなくやってるならいい。こっちも、それなりに順調だしな。
こっちの養殖の成果についてだが、俺やラティの戦いで発生する膨大な経験値をチュウチュウと吸ってお陰で、交代制でのダンジョン攻略にも関わらず、予想以上にスクスクと育っている。
ユウスケ:基本レベル51
ラティ :基本レベル57
マルセル:基本レベル38
ルミア :基本レベル37
ロココ :基本レベル20
アレット:基本レベル20
クリス :基本レベル21
エミリア:基本レベル20
ほんと、育ち盛りは素晴らしいと思う。俺やラティのレベルの上昇に比べて、異様に早い。
あと、ここまでの戦闘で分かったことがあった。
それは、種族における特性だ。
例えば、同じ基本レベルであったとしても、獣人族は人間族より運動能力が勝っていて、高い戦闘力を持っている。その反面、獣人族は魔法適性が低く、マナの保持量も異常に少ない傾向にある。
それ故に、獣人族は直接戦闘向きで、人間族は後衛や支援が向いていると言わざるを得ない。
もちろん、固有能力などを持っていれば話は別だ。そう、これは飽くまでも一般的な話だ。なにしろ、魔族だけど魔法が使えないラティのような存在も居るのだ。
それはそうと、昨日のダンジョン戦闘で全員の最低レベルが、目標としていたレベル20に達した。
そんな訳で、本日は休息日とし、みんなにはこれからについて考えてもらうことにした。
「みんな、お疲れさま。よく頑張ったな」
幼女少女を前にして、これまでの苦労を労い、惜しまぬ努力を褒めると、なぜか、彼女達はパチパチと拍手している。
彼女達は、いま各自リラックスした様子で注目している。
全員がテーブルを囲むように置かれたソファーに座っている訳だが、なぜか、ロココとラティが俺の左右を占有している。
まあ、ここ最近では、当たり前の光景となっているので、誰も文句を言わない。
そんな中、全員を見渡して話を続ける。
「今のお前達なら、その辺りで男に絡まれても、バッタバッタとなぎ倒せるだろう」
ぶっちゃけ、男としては喜ばしいことではないがな。
「ありがうございます。これも、ユウスケ様をはじめ、みんなのお蔭です」
クリスが代表で言葉を返してきた。
「そうだな。自分自身の努力とみんなの協力のお蔭だな。本人が頑張ったのは当然だが、自分の努力だけだとは思わないことが大切だ」
少し説教臭い台詞になったが、誰もが頷いてくれる。
どうやら、みんな心身ともに成長しているようだ。
「今日集まってもらったのは他でもない。お前達の未来についてだ。これから、お前達がどうしたいのかを聞かせてくれ。ああ、別に怒ったりしないから、正直なところを聞かせてくれ」
誰もが少し困ったような表情を見せる中、一番初めに口を開いたのは、マルセルだった。
「私はユウスケ様に助けてもらって、本当に感謝してます。そして、今の想いは、ユウスケ様の意に反するかもしれませんが……私の村を襲った盗賊を討伐したいです」
おいおい、全員かよ……
そう言い出す者がいるのではないかと思っていたのだが、この場に居る娘達全員が頷いているのを見て絶句する。
もしかしたら、彼女達だけで話し合っていたのかもしれないな。
「お前達の気持ちは分かった。それについては少し考えさせてくれ」
賛成はしなかったが、頭ごなしに反対しないことに満足したのか、全員が頷いている。どういう訳か、ラティまで頷いている。
「それ以外は?」
次の主張をと尋ねると、クリスが凄い勢いで立ち上がった。
「私は正義を行使する存在と成りたいです」
これまた、分からんでもないが、極端なパターンだ。
溜息を漏らし、自分の意見を述べる。
「正義なんてやめとけ」
「なぜでしょうか」
「正義って……クリスは、何をもって正義とするんだ?」
「そ、それは、悪を退ける……」
正義の判断基準を尋ねると、クリスは言い淀んだ。
「正義や悪なんて、人それぞれだろ。そもそも、絶対の正義なんて存在しないだろ」
「それでも、弱い者が虐げられ、不条理な力で押し潰されるのは、悪だと思います」
クリスは正論を
「それは分かるが、万民が平等で幸せな世界なんて作れないぞ? もし作れたとしても、それはきっと幸せでない人が大勢生まれると思う」
「では、弱き者を見捨てろと?」
クリスが即座に反論してくるが、少しばかり論点がズレてきた。
「弱き者を救うのと正義は関係ないだろ。俺はお前達を解放したけど、自分が正義だなんて全く思ってないぞ?」
「では、ユウスケ様の行ったことは何なのでしょうか」
「ん? そうだな~、ただの自己満足だ」
そう、俺の行為はただの自己満足でしかない。でも、それで良いと思っているし、自慢したいとも思っていない。自分の力で自分の好きにしているだけだ。文句があるなら俺を倒せばいい。ただそれだけの話だ。
「……」
クリスは押し黙ったまま、すとんと椅子に戻った。かなり脱力しているようだ。
多分、頭の中を整理しているのだろう。
彼女に関しては、暫くそっとしておく方がいいと判断して、視線を他の少女達に向ける。だが、誰も意見を口にする者は居なかった。
おいおい、一人くらいは、「洋裁を覚えたい」とか、「料理を覚えたい」とか、普通っぽい意見はないのか?
「お前等な~、家事を覚えて好きな人と幸せな人生を送りたいとか、普通にお店を開いてみたいとかないのか? 別にずっと冒険者をやる必要はないんだぞ?」
思ったことをそのまま口にすると、マルセルが口を開いた。
「私達のような経験をすると、弱い者は生きて行けないという考えが身に染みてしまって……それに回復職である私ですら、ダンジョン攻略は有意義だと思ってます」
周りの様子を覗うと、一人を除いて全員が同意のようだ。
そして、その一人がおずおずと手を挙げた。
「あ、ちょっと、すみませんピョン」
「ん? どうしたんだ?」
「だいたいはマルセルピョンの言う通りピョン。でも、私は……ダンジョン攻略は、程々でいいピョン」
やっと真面な意見が生まれたぞ。というか、これを待ってたんだよ。
喜び勇んで、アレットの発言を続けさせる。
「それで、アレットはどうしたいんだ?」
「家事を任せて欲しいピョン、というか、ユウスケ様にメイドとして雇って欲しいピョン。お給金はなくてもいいピョン」
おいおい、メイドって……給料ナシとか、それで幸せなのか?
確かに専業で家事をしてくれる者が居ると助かるが、本当にそれで良いのだろうか。日本で生まれ育ったこともあって、彼女の考えが理解できない。
理解不能な要求に、どうするべきかと頭を悩ませていると、今度はクリスが手を挙げた。
「私達を戦闘班と家事班に分けるのはどうでしょうか?」
「戦闘班……まあ、いいんだが、外に出て行きたい者はいないのか?」
誰もが首を横に振る。「いやニャン」「嫌です」といった感じで全員から拒否された。
「はぁ~、分かった。じゃあ、家事班になりたい人~」
すると、マルセルとアレットの二人が手を上げたが、マルセルに関しては、ダンジョンにも行くとのことだった。
結局、俺とラティはデフォルトとして、マルセル、ルミア、ロココ、クリス、エミリアが強化メンバーということになった。
それにしても、自由になりたいと思う者がいないのはどういうことだ?
みんなの意見を聞かせてもらったあと、全員のスキル取得を行った。
アレットは獣人族ということもあって、身体強化や知覚系のスキルを取得することになった。
ラティは相変わらず魔法が嫌いとのことで、身体強化と弓術強化を取得した。これでラティの弓術強化はMAXとなった。
マルセルだが、彼女は支援役を望み、回復系や聖壁、毒解除や石化解除のスキルを取得した。そして、マルセルの回復魔法は、俺を上回ってレベル4となり、『ハイヒール』や『エリアヒール』まで使えるようになった。
ルミアは念願の付与魔術を取得した。まだレベル2だから、付与成功率20%で効果は10%だが、火属性付与も取得できたことから、彼女のお気に入りの銃『キキ』と『ララ』で属性攻撃が可能になった。
ロココについては、やはり獣人族であるため、身体系と知覚系のスキルを取得したのだが、悩んだ末に例の呪いのダガーを持たせることにした。
どうやら、僅かばかりだが、ロココは呪いのダガーと意思疎通ができるようで、ダガーの銘が判明した。黒いダガーは『断裂』、赤いダガーが『炎裂』らしい。効果のほどは、今後の戦闘で確認することにした。
クリスは弱き者を守る存在と成りたいらしく、防御系のスキルを取得し、エミリアは魔法を使いたいということで、魔法スキルを取得した。
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名前:ユウスケ
種族:人間族
年齢:十五歳
階級:冒険者
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Lv:51
HP:1100
MP:2200
SP:10
-------------------
<固有能力>
空間制御:D [アイテムボックス][浮遊][飛翔][瞬間移動]
伝達制御:D [伝心]
状況把握:D [マップ]
取得経験値増加:D
補助機能:MAX [ヘルプ機能]
言語習得:MAX
<スキル>
生活魔法
火属性魔法Lv3
[ファイアーボール]
[ファイアーアロー]
[ファイヤーボム]
神聖魔法Lv2
[スモールヒール]
[ミドルヒール]
剣術強化Lv3
身体強化Lv5
回避力向上Lv2
気配察知Lv4
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名前:ラティーシャ
種族:魔人族
年齢:十六歳
階級:冒険者
-------------------
Lv:57
HP:1480
MP:122
SP:21
-------------------
<固有能力>
獣化:D [地1][地2][空1]
<スキル>
生活魔法
剣術強化Lv3
弓術強化Lv5
身体強化Lv4
回避力向上Lv2
危機察知Lv3
気配察知Lv3
視覚向上Lv3
体力回復向上Lv5
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:マルセル
種族:人間族
年齢:十二歳
階級:冒険者
-------------------
Lv:38
HP:430
MP:800
SP:14
-------------------
<スキル>
生活魔法
神聖魔法Lv4
[スモールヒール]
[ミドルヒール]
[ハイヒール]
[エリアヒール]
[ホーリーシールド]
[ホーリーウォール]
[毒解除]
[石化解除]
身体強化Lv2
防御力向上Lv1
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:ルミア
種族:人間族
年齢:十歳
階級:冒険者
-------------------
Lv:37
HP:482
MP:82
SP:3
-------------------
<固有能力>
マナ回復強化:MAX
<スキル>
生活魔法
付与魔法
[基本付与]
[付与成功率Lv2]
[付与効果率Lv2]
[火属性付与]
気配察知Lv2
視覚向上Lv3
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:ロココ
種族:獣人族
年齢:十歳
階級:冒険者
-------------------
Lv:20
HP:670
MP:24
SP:4
-------------------
<固有能力>
精神制御:MAX
<スキル>
剣術強化Lv2
身体強化Lv2
回避力向上Lv2
気配察知Lv2
視覚向上Lv2
聴覚向上Lv2
嗅覚向上Lv1
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:クリステル
種族:人間族
年齢:十六歳
階級:冒険者
-------------------
Lv:21
HP:360
MP:260
SP:38
-------------------
<スキル>
槍術強化Lv1
盾術強化Lv2
身体強化Lv2
防御力向上Lv2
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:エミリア
種族:人間族
年齢:十歳
階級:冒険者
-------------------
Lv:20
HP:250
MP:335
SP:9
-------------------
<スキル>
生活魔法
水属性魔法Lv3
[ウオーターボール]
[ウオーターランス]
[ウオータープレス]
身体強化Lv2
防御力向上Lv1
マナ回復向上Lv1
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固有能力ランクが上がったことで、俺の固有能力も拡張されている。
[空間制御]
・アイテムボックス:60種類×50個
・浮遊:高度五十メートル
・飛翔:飛行距離500メートル/高度は浮遊高度依存
・空牙(攻撃能力):直径五十センチ球体/単発/目視距離
・瞬間移動:一メートル範囲
[状況把握]
・マップ機能:探索範囲一キロメートル範囲
[伝達制御]
・伝心:半径十メートル範囲
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
因みに、ラティとロココ以外の者には、俺の固有能力について教えていないが、『飛翔』については、ロマールで使用したので知られている。また、伝心についても、ラティとロココのみが知っている状況だ。
ということで、今後の方針決めやスキル取得を終わらせたところで、明日のダンジョン攻略に向けて、今日はゆっくりと休むことにしたのだが、相変わらずラティとロココの二人が、争うようにしてベッドに潜り込んで来たのは、敢えて言うまでもないだろう。
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