第35話
走り込みが終わり、道場内での練習に移る。とはいえほとんどのメンバーはこの時点でくたくたになっている。
「ほらほら一年生諸君、これくらいでくたばってちゃダメだぞ」
則夫が笑いながら練習を促すが、部員達は返事を返す余裕もなく荒い息遣いが道場内に響き渡る。
「俺は一年生じゃないのでくたばっててもいいですよね?」
三年生の武光がその巨体を道場内のマットのうえで横たえながら言う。
「いや君三年生なんだからもっとダメでしょ。いくら重量級とはいえ」
「重量級のスタミナ消費量舐めないでください? 普通の奴の倍使うんですからね?」
はぁはぁと荒い息を整えながらいう武光。確かに重量級は体にかかる負担が大きいと聞く。
「でも帆億君は動けてるよ? っていうかその巨体ですごいな帆億君」
「ありがとう……ございます。とはいえ結構きついです」
96㎏あるらしい帆億はその巨体にも関わらず、最後まで走り続けていた。スピードは海生や鏡也に少し劣るが、それでもその体で走り続けるスタミナは大したものだ。
ちなみに紀之は一番最初にばててしまい、動けなくなっていた。
「なんで皆そんなに走れるの……」
道場内のベンチプレスを持ち上げるときの寝台に座り真っ白になっている紀之。
「皆体力つけないとな! では技練習開始するよー」
則夫は容赦なく練習を進めていく。
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技の練習、今まで覚えた技を一通り通して練習した。二人一人組で技にひたすら入るというもので、それが終わるとグラウンドはなしのスパーリングに入った。
すると海生に今までとは少し違う兆しが見えた。スパーリングの相手を則夫が引き受けた時だった。今までうまく入れなかった飛行機投げが決まるようになっていたのだ。
「あれ? 今までうまく決まらなかったのに」
則夫にそのことを伝えると、多分なんだけどという言葉を添えて理由を告げられた。
「海生はタックルに苦手意識があったみたいで、無意識のうちにタックルに入るのを躊躇ってたんじゃないかな。でもここ最近ずっと飛行機投げやその他のタックルも練習はし続けていた」
則夫の説明によるとこうだ。走り込みで疲れ、体に余計な力が入らなくなったために、体に覚えさせた感覚だけで動けるようになったのだという。
「要は余計なことを考えないで、考えるな感じろってことだね!」
「何それ中二病臭い」
四十代とは思えない発言に、海生はつっ込みを入れるが、その反面少し関心もしていた。
確かに練習はしていた。でも確かに昨日まではうまく出来なかったのだ。それが今日則夫の練習でいきなり出来るようになった。
海生は多少感謝しなくはないと上から目線で考えていた。
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