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猫被 犬

過去の後悔をふりきって

第1話


 中学生最後の試合、負けて涙を流すチームメイト達。けれど僕は、涙を流すことが出来なかった。



 ~free style~



「なぁ海生かいせいは中学の頃はバレーボールやってたんだろ?

 高校でもやるの?」


「いや、高校で部活はやらないつもり。放課後は何か好きなことでもしてようかなと思って」


 今日は比嘉海生ひが かいせいが通う事になった沖縄県の高校、通天高校の入学式。入学式やクラスメイトの顔合わせなども終わり、中学生からの友達の下地鏡也しもじ きょうやと帰宅しようと、歩きながら話しているところだった。


「そなんか。何かさっきからチラホラ部活の勧誘で先輩方らしき人達が見えるからさ。俺はサッカー部だったから高校でもサッカーやろうかなぁ」


 今までやっていたスポーツを素直に続けられる鏡也に少し羨ましさを感じた。今の海生に、バレーボールを続けようという気持ちは持てない。

 続けてしまえば、またあの気持ちを味わうことになると思ったから。


「サッカー部かぁ……あっそういえば俺親戚のおじさんにレスリング部入れよとか言われた! なんか通天高校のレスリング部って強いらしくて」


 部活の話が出たことで、レスリングの話をされていたことを思い出した。親戚の伯父さん、比嘉則夫ひが のりおは昔からレスリングをしており、その繋がりで通天高校のレスリング部の顧問の先生と知り合いらしい。


 高校の入学祝いで家に来ていた時に、高校でバレーボールを続けないという話をすると、この話を勧めてきたのだ。


「え! レスリングってアレだろ!? がちむち何とかっていう」


「いや違うよ。お前が言ってるのアレだろ? 動画サイトとかにあがってるやつ」


 鏡也の発言に思わず吹き出してしまった。海生もあまり詳しい方では無いのだが、だいぶ昔に伯父さんが持ってきたビデオを見せられたことがある。


「アレだよ……何か乳首が出てる気持ち悪い服着て、男同士で絡みあうやつ」


 だいぶ昔に見たビデオだったからうろ覚えではあるが、それを覚えていたためレスリングを勧められた時に思った事は、なんであんな気持ち悪い服着るスポーツをやらないといけないのかという、拒否反応を示す気持ちだった。


 そもそも何で乳首が出ていたのだろう?

 乳首が出ていないといけないのだろうか?

 というか男が乳首をだす服なんて誰が特をするのだろう。それならまだ上半身裸の方が良い気がするくらいだ。


 考えていて気づいた。がちむちなんたらっていうヤツとあまり変わらないんじゃないかと。


「何か偏見かもしれないけどホモとかいそうじゃん?」

「確かに」

 境也がそう言ったのに対して海生も同じイメージがあった。さっき話に出ていた動画サイトでついたイメージだろうか。


「さすがにホモはあんまりいないかなぁ?」


 学校の校門が見えはじめ、体育館を通り過ぎようとした時、その会話に割り込んで来た人物がいた。


 その人物はサングラスをかけ、アゴヒゲを生やした強面であり、どうみてもヤクザだった。


「ごめんなさい僕根っからのカタギなのでそっちの道に誘われても無理です」


 とっさに動揺し、思考が妙な方向に進んだ。極道の道に誘われるのかと勘違いし、その言葉を返す。どうして学校にヤクザが……

 すると目の前のヤクザは、見た目に反し丁寧な口調で返答した。


「面白いこと言うなぁ。ちょっと聞きたいんだけど君って比嘉海生くん? 」


 ヤクザが何故か名前を知っていた。最悪だ。ヤクザに目をつけられるような事はした覚えはない。そもそも少し前まで中学生だったのだ。


 隣にいる境也はというと、目の前のヤクザに完全にびびってしまい、何も言えずに立っている。


「どうして僕の名前を……僕は目をつけられるような事は何も」


 警戒は崩さず声をかけてきた理由を聞くと、

「いやさっきそっちの彼が君の名前を呼んでるの聞いてさ」


 ヤクザは境也を指差し理由を説明し、

「レスリング部の顧問の上地光義うえち みつよしだよ。レスリング部に入るって君の伯父さんの則夫さんから聞いてる。今日はもう入学式終わったみたいだし見学だけでもしていきなさい」


 そう笑顔で告げた。

 そのヤクザはどうやらレスリングの顧問らしく、そして海生は何故かレスリング部に入ることになっていた。


 人を殺してしまいそうなヤクザの笑顔に、断ることが出来なかった。入るなんて一言も言った覚えはない。今度伯父さんにあったらぶっ飛ばそうと思った海生だった。


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