⑦POWER to TEARER
じゃり……じゃり……。
両手に古代の凶器を装備したシロは、ハサミと爪を擦り合わせ、細かく火花を散らす。
白かったハサミが爪が見る間に赤熱し、地表の砂がスピーカーでも近付けたように震えだす。シロがダルそうに左腕を垂らすと、地面を擦った刃先が真っ赤な線を引いた。〈
やにわに髑髏の仮面が目を光らせ、顔の上半分を覆うバイザーに二つの円が浮かび上がる。薄く透けた
だらりと両腕を垂らしたシロが、先ほど蹴り飛ばした一匹に歩み寄っていく。二本の足で地面を踏んでいるにしては、ふわふわと揺れる肩――まるで膝から下をこの世ではない場所に置き忘れて来たかのようだ。
ドリュウ!
自らを奮い立たせるように
ハサミの軌道を追い、紅蓮の一閃がモグラの胴体を横断する。肉が裂け、焼ける音が鳴ると、モグラの懐からどす黒い火花が飛び散った。
火花?
いや返り血のように髑髏の仮面を染めたそれは、消しゴムのカスに酷似している。
大ダメージを受け、よろめいたモグラは、のろのろと回転し、ついには両膝を着く。冷徹な骸骨はすぐさまモグラを見下ろし、頭の後ろまでハサミを振り上げた。
「セイッ!」
薪割りのごとく意気込み、シロはハサミを振り下ろす。打ち込みに伴う踏み込みが床を強打し、地面の底がズン! と
両断必至の一撃を目にしたモグラは、泡を食ったように両手を
先端のオールが交差した瞬間、超局地的地震。
地表の砂が目の高さまで跳ね上がり、一瞬、モグラの膝が浮く。靴底を強烈に突き上げられる感覚は、地面の下から鉄球をぶつけられたかのようだ。
交差したオールを直撃したハサミが、モグラの全身に弦を弾いたような振動を走らせる。辛うじてガードに成功したモグラだが、安堵の息を吐く暇はない。無慈悲なシロは容赦なくハサミを押し付け、オールをモグラの頭に押し込む。
哀れなモグラは自らの両腕に押し潰され、地面に額を着けていく。赤熱する刃はモグラの体毛を焼き、泥色の煙を棚引かせていた。
「ふんっ!」
土下座状態のモグラを見据え、シロは無造作に両腕を振り回す。左手のハサミが煙を断ち切り、右手の爪が空気を切り裂き、斬撃の暴風雨が降る。
金属質の衝撃音が鍛冶屋のように連続し、真っ赤な太刀筋が視界を千切りにしていく。モグラの全身から絶え間なく消しカスが吹き上がり、髑髏の仮面を黒く塗る。
フッ!
ティーショットのような一撃で腹這いのモグラを打ち上げ、シロは素早く腰を
流線型の翼竜がシロの正面に走り、テールランプさながら紅蓮の光が後を追う。赤熱した
ぎぎ……ぎぎぎ……。
焼かれた体毛から土臭い煙が棚引き、傷口から黒い液体が滲み出る。たぶん、ダメージを受けた時に飛び散る消しカスと同じものだろう。
ドリュゥー!?
高熱の刃に
シロが人を殺した!?
衝撃がタニアの息を停めたのも束の間、モグラの輪郭に走るさざ波。
吸い飲み型の鼻が、両手足のオールが、末端からあの消しカスに置き換えられていく。タニアの目に映る物体がモグラ型の消しカスに変わると、胸に刺さっていた
変貌の瞬間に
背面跳びっぽくアーチを描くモヒカンに背を向け、シロはハサミにこびり付いた消しカスを
「……〈
胴体をハサミで断たれたはずのモヒカンは、なぜか血も
「〈
目を白黒させるタニアを
講義を終えたシロは、ハサミの切っ先を革ジャンの襟に引っ掛け、モヒカンを吊り上げる。フン! とシロががさつにハサミを振ると、ポイ捨てっぽい放物線と化したモヒカンが、一発でドラム缶の中に収まった。
無抵抗な相手をいたぶった? いや、シロは無防備なモヒカンを、爆炎や流れ弾の及ばない場所に逃がしてやったのだ。
「バ、バカ正直にやりあってんじゃないよ! お前らにはお前らの戦法があるだろ!」
モグラたちを一喝したギモンは、ここに答えがあるとばかりハイヒールで地面を連打する。ドリュ……! と顔を見合わせると、残り四匹になったモグラたちは飛び込みの構えを取った。
ドリュ!
豪快に四本の曲線が跳び上がり、棒高跳びも真っ青の高さから地表に突っ込む。プール役の地面から象牙色の水柱が
砂煙が晴れると共に四本の
シロを中央に捉えた
右折中だった
僅かによろけながらも、シロは虫取り網のようにハサミを振り下ろす。だが空中のモグラは捕まえられない。バタフライのように腕を掻き、滑空のスピードを上げ、憎たらしいモグラはハサミの真下を潜り抜ける。
浅い放物線が地中に逃げ込み、最後までモグラを追ったハサミが
まんまと一撃喰らわせて調子に乗ったのか、モグラたちは息つく間もなく地中から飛び出し、シロに襲い掛かる。
クロールっぽく飛び掛かった一番手がシロの腰を
「いつ飛び出すか判らないんじゃ狙いようがないだろう!?」
興奮したギモンは頭を突き出し、勝ち誇った笑みを浮かべる。言い返すどころか顎を引き、シロはモグラの毛先さえカット出来ないハサミを眺めた。
「……そうですね、〈
肯定すると、シロはまた
〝
口ひげの髑髏から赤い死斑が消え、骸骨の鎧を
〝
再び
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