⑥Just The Beginning
ふぅぅ……。
拳法を彷彿とさせる息遣いを披露しながら、シロは肩幅に足を開く。加えて左手を引き絞り、シロは正拳の構えを取った。
ひゅっ!
髑髏の仮面から漏れ出たのは、吹き矢を吹くような鋭い呼気。
しなやかに
〈
今までは都市伝説だと思っていたが、本当かも知れない。どこの馬の骨とも知れないシロですら、一瞬、視界から拳の姿を消すのだから。
矢のごとく鋭角の残像を引き連れた鉄拳が、モグラの懐に潜り込む。瞬間、まんじりともせずに攻防を注視していたはずのタニアは、自販機ほどもあろうかと言う巨体を見失った。
シロの正面、そしてモグラの背後に
だらしなく舌を垂らした巨体が、水面に投げた石のようにバウンドしていく。短くしかし着実に積み重なっていった放物線は、地平線上のヤルダンにモグラを叩き込んだ。
重く鈍い地鳴りが世界中を
「雨に打たれようが風が吹こうが、お兄ちゃんの作った〈シュネヴィ〉は消えない」
愕然とする〈
「さあ、どいつもこいつもおねんねの時間です」
〈
ふとモグラの空けた大穴から突風が吹き込み、ドラム缶の焚き火を揺らす。光源の変化によって、仮面の口角に溜まった影が頬へ伸び上がると、無表情なはずの髑髏がニヤリと笑った。
「やれ、やるんだよ!」
夜泣きのように絶叫し、ギモンはあたふた指を閉じる。冷や汗で滑り落ちようとしていた鞭を握り直すと、彼女はそれを破れかぶれに振り回し始めた。
ド、ドリュー!
無理矢理絞り出したのが見え見えの咆哮を発し、モグラたちが駆け出す。他の四匹より素早く動いた一匹は、両足を地面に叩き付け、自らを
双眼鏡が必要な高度まで上り詰めたモグラは、空に突き付けていた脳天を地面に向ける。
ドリュ!
引力が役目を思い出したのか、上昇一辺倒だったモグラが自由落下を開始する。にわかに打ち上げ花火を逆再生したような風音が轟き、剥がれかけのトタン屋根が大きく
彗星のように尾を引く残像を見たタニアは、思わず木製のバイクにしがみつく。急造の隕石が床に達したなら、猛烈な衝撃波が地表を一掃するだろう。不運にも直撃を食らったなら、ペースト状の肉片になるのは疑いようもない。
にもかかわらず、衝突予測地点に立っているはずのシロは、頭上を
まともに吹き下ろす暴風がコートを踊らせ、髑髏の仮面をカタカタ震わせる。瞬間、タニアの視界に
ドリルと化したオールが肋骨型の胸当てを
――とシロの胸が人並みに膨らんでいたなら、モグラの攻撃は致命傷を負わせていただろう。だが双方にとって残念なことに、モグラが狙ったのはまな板以上に野菜が切りやすそうな部位だった。
シロの胸すれすれをモグラが過ぎ去り、ドリルのように重なった手が地面に突き刺さる。たちまち落盤事故のような轟音が轟き、爆発的な縦揺れがドラム缶を弾ませた。
モグラを中心にして円状の突風が吹き荒れ、室内を薙ぎ払う。鉄砲水のような砂煙は他のモグラを呑み込み、壁際まで押し流した。
だが二㍍超の巨体が小石のように
逆立ちのモグラを見下ろす髑髏は、頬骨や顎に砂を溜めている。たった今掘り出されたような迫力は、モグラの目玉を小刻みに震わせていた。
ド、ドリュ!
我に返ったように吠え、逆立ちのモグラが大きく膝を前後させる。そうやって反動を付け、モグラは天井に向けていた足をシロに振り下ろす。
オーバーヘッドキック調の一撃をシロは見極め、見極め、見極め、軽く背中を反らす。モグラがつま先の尖った靴を履いていたら、完全に顔面を潰されていただろう。
仮面の残像が消える間も与えずに、モグラの足がシロの頭上に降り注ぐ。オールの生えたつま先がシロの鼻先を
渾身の一撃を
正面からモグラを
五本指に分かれたブーツがモグラの
フライ性の打球を悠々見送ると、シロは胸元の
カチッ!
シロが
カチッ! カチッ!
〝
お
〝
「ハッ!」
勇ましく掛け声を入れ、シロは前方の映像を潜り抜ける。たちまち克明に投影されていた化石が消え去り、シロの両腕を紅蓮の業火が包み込んだ。
〝
〝
何と言う種なのかは判らないが、頭骨の先端にはヒレ状の突起がある。またそれこそハサミの持ち手のように、大きな穴が空いているのが特徴だ。刀身に当たる
対して右手は、鎌のような爪を生やした
こちらの持ち主は、恐らくテリジノサウルスだろう。
テリジノサウルスは
想定される全長は一一㍍から一四㍍で、細長い首や頭はダチョウを彷彿とさせる。逆に首から下はどっしりした体型で、尻尾も
そしてテリジノサウルス最大の特徴が、
恐ろしいかぎ爪や二㍍近い
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