⑥バリバリ最強NO.1
「〈アックマーカー〉……」
始めて見る
「さあ、ショーの始まりだ.……!」
まんまとシロの表情を凍り付かせたモヒカンは、邪悪にほくそ笑む。
〝エントリイ 砂漠飛び交う カワネズミ〟
半分ほど
上に向かった光が額に、下に向かった光が股間に行き当たり、モヒカンの身体を光線が縦断する。右半身と左半身の間に輝きを走らせた姿は、身体の中央に白い線を引いたかのようだ。
ぞわ……ぞわ……。
我が目を疑うタニアに更なるまばたきを
光線から禍々しい黒ずみが滲み出し、モヒカンの全身に広がっていく。何らかの文字のようにも見えるそれは、正面のみならずモヒカンの背中までをも真っ黒く塗り潰した。
「〈
シロは前傾し、今にも泣き出しそうな顔で訴え掛ける。
「使ったことのねぇ奴には判らねぇさ! 幾らでも、幾らでもよ、力が湧いてくんだ!」
ベーシストのごとく派手に
〝砂掻く
光線に分割されていた右半身と左半身が
限界以上に辞書を開き、表紙と背表紙をくっつけたような光景――。
あまりにも自然に行われたそれは、タニアに一つの疑問を植え付けた。
無知な自分が知らないだけで、ヒトの身体とは開くものなのではないか?
圧倒され、震える手を動かし、タニアは自身の肉体を調べてみる。
身体の中央は
ドリュリュ……。
イラストの飛び出す絵本、とでも形容すべきだろうか。そう、まさにタニアが目にした現象は、本の中で畳まれていたペーパークラフトが、立体に戻る瞬間にそっくりだった。
表紙に相当する右半身と左半身が開いた途端、奇っ怪な影が飛び出し、くぐもった声を漏らす。鋭く尖った体毛が日差しを浴びると、いぶし銀のようにくすんだ光がタニアを照らした。
反射的に細めた目に映るのは、吸い飲みのように鼻の突き出たモグラ。
つい一秒前まで視界を占拠していたモヒカンは、影も形もない。
ヒトの姿だった時から二㍍近くあった体躯は、一回り以上も膨れ上がっただろうか。不穏に揺らす尾は、明らかに背丈より長い。
ビリヤード
「……〈
忌まわしげにこぼすと、シロは額の汗を拭いながら後ずさっていく。
「〈
あり得ない存在を前にしてしまったタニアは、真っ青になった唇を震わせる。無惨に食いちぎられるモヒカンの姿は、すっかり頭の中から消えてしまった。
シロが口にした〈
〈
逆に言えば、タニアはテレビや映画でしか〈
〈
そもそも人間に戻れなくなるおそれのある〈
「暑いだろォ? 涼しくしてやるぜェ、穴を増やしてなア!」
ぐぐっ……!
膝を縮め、縮め、縮め、モグラは踏み抜かんばかりに大地を蹴る。
狂おしい地鳴りを追い、猛々しい砂塵。モグラの足が地面を離れた瞬間、鮮明に見えていた巨躯が雑な横線に変わる。
ドリュリュ!
銀色の影が腕を振り上げ、クロールのごとく掻く。手の先に備えたオールが光り、シロの肩口に迫る。豪腕が空気を押し
破滅に肉薄されたシロは、
そう、外れた。
少なくとも、オールの残した光でしかその軌道を確かめられなかったタニアには、切り裂かれたのが空気だけだったように見えた。
避けた……!
安堵の笑みを漏らすタニアを嘲笑うがごとく、シロのジャージに斜線状の切り傷が走る。インナーのシャツが覗くと、白い生地は見る見る赤く染まっていった。吸水量を超えた血が裾の部分から
苦痛のあまり
タニアの予想とは裏腹、シロは慣れた様子で傷口を押さえる。加えて三段跳びを逆再生したように後退し、モグラと距離を取った。
余裕の笑みを浮かべ、静観するモグラの代わりに、ぽたぽたと垂れる血痕がシロを追う。動いたことでより激しい痛みに襲われたのか、三段目の着地を済ますと同時にがくっと腰を沈ませ、シロは右膝を地面に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます