星が監視者になった夜
星。
星が見ていた。
真冬の荒野は、乾いた土の臭いを漂わせていた。
氷河を
山肌から吹き下ろす風は、地表から巻き上げた雪で冷たく
はぁ……はぁ……。
天の川に見下ろされた彼女は、押し潰されたように膝を着いている。限界まで背中を丸め、顔を地面に寄せた姿は、必死に頭を下げ、許しを
眼前に
ざっ、ざっ、ざっ……。
それ以外忘れたように手を動かし、彼女は十字架の根元を掻きむしる。
硬く凍り付いた土は、容赦なく彼女の指を傷付けていく。
一回掻くごとにヤスリを掛けたような音が鳴り、大粒の砂利が彼女の指紋を削り取る。一〇回も掻かない内に爪が割れ、
白っぽい砂埃を追い、掘り出された土が舞い、彼女の小脇に積み上がっていく。
霜焼けを通り越し、青白くなった肌を見る限り、痛覚や触覚が麻痺しているのは間違いない。目を閉じ、視覚を遮断しただけで、手と手首が繋がっているか判らなくなるだろう。
はぁ……はぁ……。
冷え切った汗と混じり合い、薄くなった血が、一滴、二滴と細い顎を伝う。地面に落ちたそれが次々と砕け散り、薄く張った霜を緋色に染めていく。
ざっ、ざっ、ざっ……。
彼女は血を拭うこともせずに、ひたすら十字架の根元を掘り続けた。
粉っぽく巻き上がる土煙が、純白の頬を茶色く濁らせていく。
それでも、彼女の耳にお
十字架の根元には、果てしなく沈黙が埋まっている。
あと五分、五分だけ寝かせてくれ――。
昨日までは布団を取り上げるだけで、彼女の耳に届いた泣き言。
今、彼女が心の底から望むその言葉は、地球の底よりも遠くにあった。
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