レッツ、クイズ!

 テーブルの上に人形が三体座っている。

 三体は野菜の着ぐるみを着ていて、それぞれの人形の目の前にはお皿が置いてある。


 ニンジンを着たウサギの前に赤い皿

 キュウリを着たネコの前に黄色い皿

 ナスビを着たタヌキの前に青い皿



「人形たちはお皿を用意して、シュークリームをいまかいまかと待っています」


 神様が白い厚紙の箱を開けると、その中にはシュークリームが七個。

 赤・橙・黄・緑・青・藍・紫……カラフルでまずそう。


「この子たちがシュークリームをお皿に置けば、この先を通してあげましょう」


「なーんだ! 簡単じゃない! ポイントはお皿の色ね。この子たちは、お皿と同じ色のシュークリームが食べたいのよ」


 兄さんは迷いない手つきでシュークリームをお皿にのせていく。

 赤い皿に赤、黄色い皿に黄色、青い皿に青。


「はい終了。早くきくみちゃんに会わせなさい」


 すると、人形たちがガバリと口を開き、声をそろえてこう言った。


『コレじゃなーい!』


 おそろしいことが起こった。

 まるでロケットのように、いきおいよく兄さんへ突撃。そしてガジガジとかみついてきた。


「きゃああ! 頭突きしてくるなんて聞いていないわ!」

「ハズレだと人形が怒るんだよ。気をつけてね」

「言うのがおそいわよ!」

「ごめんね」


 神様が皿のシュークリームを箱にもどすと、暴れていた人形がもとの位置に戻った。


「答えが簡単すぎると、通せんぼの意味がないよね? イタルくんの答えは、さすがにないよ」


 クスクスと楽しそうに笑っている。

 誰かのお願いとはいえ、クイズで行く手をはばむなんて、迷惑な神様だこと。


 天井戸町の人が積極的にクイズに挑む理由がようやくわかってきた。

 神様の考えたクイズに巻き込まれたとき、正解を見つけるチカラが必要だからなんだ。


「フン。ためしただけよ。実はもう一つ、答えがあるの」


 イタル兄さんは涼しい顔で言った。まだ余裕がある。


「この人形たちは可愛らしい着ぐるみを着用しているわ。オシャレのため? いいえ! これこそヒントだったのよ!」


 ビシィ! と、人差し指を人形に突きつける。


「ニンジンはオレンジ、キュウリは緑色、ナスビはムラサキ……つまり、食べたい色をあらわしていたのよ!」


 なるほどね。

 なんで着ぐるみを着ているのかフシギだったけど、ちゃんと手がかりだった。じゃあ皿の色はひっかけなのか。


『コレじゃなーい!』

 違うのかーい。

 

「なんなのよー! ぜんぜんわかんないわよ!」


 兄さんはひざをついてうなだれてしまった。皿の色やかぶっている野菜にヒントがありそうなんだけど、さっぱり答えが思いつかない。


「むずかしいクイズだからね。あきらめたほうがいいんじゃない?」


 からかうようなトーンで言う神様。

 しかし兄さんはまだ引き下がるつもりはないようだ。


「まだよ! こっちには切り札があるんだから!」


 おや、なぜぼくのほうを見ているんだ?

 そのまなざしは、心なしか自信に満ちているような……。

 まさか、切り札って……。


「ね、ハルちゃん。他の回答はあるかしら」

「ぼく?」

「うん。もうハルちゃんしかこの問題は解けないわ」


 そんな。あきらめが早すぎる。

 てっきり兄さんがクイズに正解するだろうと思っていたから、なんにも考えずに見守ってた。


「じゃあ、とっさに思い付いた答えを一つ」

「さすが切り札だわ」

「ハズレかもしれないよ。それでもいい?」

「やったぁ! 教えてちょうだい」


 なんで勝利が確定したような反応なんだろう? 

 自信のないぼくまで、つられて強気になってしまいそう。


「その前に質問。兄さんは絵の具で絵を描いたことはある?」

「え? まあ、小学生の図画工作の授業で、絵の具で絵で描いていたもの」

「絵の具っておもしろいよね。色を混ぜたら違う色に変わるんだから」

「うん……」


 いきなり絵の具の話を持ち出したせいか、兄さんは明らかに困っている。

 ちゃんとクイズに関係しているからね。もう少しだけつきあって。


「オレンジ色って、何色と何色を混ぜたらオレンジになるか、知ってる?」

「赤と黄色でしょ」

「緑は?」

「黄色と青」

「じゃあムラサキ」

「青と赤」


 よし。

 それさえ知っていれば十分だ。


「ぼくは着ぐるみ、お皿、シュークリーム、この三つに着目してみたんだ」


 頭の中で問題を思い出す。


 ニンジンをかぶったウサギの前に赤い皿。

 キュウリをかぶったネコの前に黄色い皿。

 ナスビをかぶったタヌキの前に青い皿。

 箱の中には赤・橙・黄・緑・青・藍・紫のシュークリームが入っている。


「ぼくならウサギに黄色のシュークリームをあげるよ」

「理由を聞いてもいいかな?」


 ワクワクしている神様。ぼくは説明する。


「赤い皿に黄色いシュークリーム。赤と黄色を混ぜたら、着ぐるみと同じオレンジ色になるでしょ」

「皿とシュークリームの色を混ぜた色が着ぐるみの色……! ハルちゃん天才だわ!」


 兄さんの表情が明るくなった。

 そう。絵の具のくだりは、答えを確信づけるために必要なポイントだったんだ 

 ぼくの予想だと、こういう回答になる。

 

 ウサギ(ニンジン)赤い皿……黄のシュークリーム

 ネコ(キュウリ)黄色い皿……青のシュークリーム

 タヌキ(ナスビ)青い皿……赤のシュークリーム


「よーし! 今度こそクリアよ!」

「そうだと嬉しいんだけど……」

 

 実をいうと正解する自信はなかった。

 イタル兄さんは二回も間違えたけど、理由がわからない。

 この問題はイヤな予感がする。今朝の塾にはっていた仲間はずれのクイズのように、答えは一つとは限らないかもしれない。


『コレじゃなーい!』


 人形が動きだす前に、ぼくはシュークリームへ手を伸ばした。


「ごめん兄さん。やっぱりぼくでは役に立たないようだ」

「おかしいわね。ハルちゃんの考えは一理あると思ったのに……」

「いったん引き返そう。というか、諦めた方がいいかも……」


 悔しそうな兄さんに説得を試みる。

 答えが分からないのなら、他の人の知恵ちえをかりて、ふたたび挑戦すればいい。

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