あれ? 通せんぼ?

 まあまあ形が整っている三個を箱に入れて、塾を出た。


 なぜかぼくもタマガさんの家に向かっている。兄さんに頼まれたからだ。一人だけで行くのは心細いらしい。


「二人は友達なんだから、部外者のぼくが一番気まずいんだけど」

「そんなことないわよ。それに、家に上がって長話をするつもりはないわ。玄関で済ませるつもり」

「本当かなあ? 女の人の会話って長いよ」

「シュークリームを渡すついでに顔を見れば満足だから」


 それだけなら、ますますぼくがいなくてもいいような気がしたが、イタル兄さんはどうしてもと手を合わせた。


「アタシ一人だったら、途中で行くのやめていたかもしれないから。見張ってほしかったの」

「兄さんが緊張するの? 友達に会いにいくだけなのに」

「まあね……。あ、ここがきくみちゃんのお家よ」


 兄さんは心配そうな目で一軒家を見上げた。顔はこわばり、ためらいがちにチャイムを押した。友だちに会いにきた顔つきではない。


『はーい』


 イヤホンから明るい女の子の声が聞こえた。この子がタマガさん?


「こんにちは。香取です。きくみちゃんのお見舞いにきました」

『あー! 今日きくみちゃんの家に訪問する約束をした子だね。カギは開けてあるから入っておいで』


 プツンと通話がきれて、ぼくはすかさず兄さんにきいた。


「ねえ、さっきの声ってダレ? なんだか、おかしくなかった?」


 少なくともチャイムにでたのは、タマガさんのお母さんではない。

 もし姉妹だとしても『きくみちゃんの家』なんて言う?

 イタル兄さんは首をかしげて考えこんでいる。


「きくみちゃんに妹がいるなんて聞いたことがないわ。それにあの声どこかで聞いたことがあるのよね。……とにかく行きましょう」


 ぼくたちはモヤモヤを抱えたまま玄関に向かった。


「え。なんだこれ」



 ドアを開けたぼくは、目の前の光景に目をうたがった。


 普通の家だったら、靴を脱ぐ場所があって、リビングにつうじるドアや二階へあがるための階段が見える。


 ところが、ドアを開けるとそこは

 窓はない。ぼくらが入ってきたドアが、たった一つの出入り口だ。

 部屋の中央にはテーブルが置いているだけで、テレビも食器棚も見あたらない。


「二階建ての家にしては狭すぎるね」

「いやいや! こんなのおかしいわ! きっとのしわざよ」


 異変に気づいたイタル兄さんはキョロキョロと室内を見渡した。


「ハルちゃんは知っているかしら? 天井戸神社にはイタズラ好きの神様がいて、よく人をからかうのよ」


 なるほど。じゃあ目の前の部屋は、その神様のしわざなのか。


「近くにいるんでしょ! 出てきなさい」

「はっはっは! ワタシのしわざだと気づくとは、さすがイタルくんだ!」


 ヒョコッと、テーブルクロスの下から女の子があらわれた。

 女の子は、はかまを着ていて、キツネのお面をかぶっている。

 身長はぼくと同じくらい。小学生くらいの見た目だけど髪の毛の色は真っ白だった。


「人の願いがあるところに、神はいる。ドーモ、クイズの神でーす」


 女の子はキリッと決めポーズをとった。

 神っぽいオーラをちっとも感じない。

 元気な女の子にしか見えないけど、本人が神様だと言うのなら神様なのだ。


「なによここ……。きくみちゃんをどこへやったの!」

「きくちゃんは自分の部屋にとじこもっているよ。これは神様パワーで作り上げたクイズのお部屋なのです」


 神様は両手を広げた。

 窓も家具もない、他の部屋につながらない不思議な空間を見わたすように、くるりと一回転した。


「順番に説明するね。この部屋は、ある人の願いをもとに作り出したんだよ。その結果イタルくんが入ってきた時だけ、ここにつながります」

「え? アタシ?」


 とつぜん自分の名前がでてきてイタル兄さんは戸惑っていた。

 ぼくも驚いたけど、今は説明を聞くことに集中する。


「昨日、ある人にたのまれたの。香取イタルくんが、田勾きくみちゃんにシュークリームをわたそうとしているから、ジャマしてほしいんだって」

「つまりこの部屋は、イタル兄さんを通せんぼするためにつくったのか」

「ピンポーン! だから仕事から帰ってきたお父さんは家に入れるし、郵便配達の人は何事もなく家の人に郵便物をわたせるよ」

「他の人なら問題なく生活できるんだね」


「そしてアタシだけが家に入れないのよね。理不尽じゃない!」


 自分だけ冷たい対応をうけて、イタル兄さんはくやしそうだった。


「ちなみにぼくは通れるの?」

「イタルくんがそばにいなかったら、きくみちゃんに会えます」

「なるほど」


 お菓子をわたしにいくと約束したからには守らないといけない。しかし兄さんは家に入れない。

 なら、ぼくが兄さんのかわりにシュークリームを届けに行けば問題解決だ。とりあえずシュークリームをわたす方法はある。

 通せんぼには驚いたけど、約束を破ってしまう心配はない。


「うん、よかった……」

「全然よくないわよハルちゃん! どうしてアタシだけのけ者あつかいされなくちゃいけないの!」


 肩をつかまれ、激しく揺さぶられた。

 うおお。視界が上下にズレる。


「ちなみにクイズをとけば、イタルくんはきくみちゃんに会えるよ」


 神様があっさりと別の解決策を教えてくれた。意外と親切だな。


「今の状況をたとえると、二人はカギのかかったドアの前にいるんだよね。カギを見つけてロックを解除すれば先に進めるってわけ」

「完全に通せんぼしているわけではないんだ」

「神様まだ未熟だから。知恵で突破されちゃう」


 神様は恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「つまり兄さんがシュークリームを届けるためには、クイズの答えれば」

「フン。こんなクイズをすぐに解いてやるんだから!」


 兄さんは鼻を鳴らすと、ズンズンと部屋に入っていった。

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