あれ? 通せんぼ?
まあまあ形が整っている三個を箱に入れて、塾を出た。
なぜかぼくもタマガさんの家に向かっている。兄さんに頼まれたからだ。一人だけで行くのは心細いらしい。
「二人は友達なんだから、部外者のぼくが一番気まずいんだけど」
「そんなことないわよ。それに、家に上がって長話をするつもりはないわ。玄関で済ませるつもり」
「本当かなあ? 女の人の会話って長いよ」
「シュークリームを渡すついでに顔を見れば満足だから」
それだけなら、ますますぼくがいなくてもいいような気がしたが、イタル兄さんはどうしてもと手を合わせた。
「アタシ一人だったら、途中で行くのやめていたかもしれないから。見張ってほしかったの」
「兄さんが緊張するの? 友達に会いにいくだけなのに」
「まあね……。あ、ここがきくみちゃんのお家よ」
兄さんは心配そうな目で一軒家を見上げた。顔はこわばり、ためらいがちにチャイムを押した。友だちに会いにきた顔つきではない。
『はーい』
イヤホンから明るい女の子の声が聞こえた。この子がタマガさん?
「こんにちは。香取です。きくみちゃんのお見舞いにきました」
『あー! 今日きくみちゃんの家に訪問する約束をした子だね。カギは開けてあるから入っておいで』
プツンと通話がきれて、ぼくはすかさず兄さんにきいた。
「ねえ、さっきの声ってダレ? なんだか、おかしくなかった?」
少なくともチャイムにでたのは、タマガさんのお母さんではない。
もし姉妹だとしても『きくみちゃんの家』なんて言う?
イタル兄さんは首をかしげて考えこんでいる。
「きくみちゃんに妹がいるなんて聞いたことがないわ。それにあの声どこかで聞いたことがあるのよね。……とにかく行きましょう」
ぼくたちはモヤモヤを抱えたまま玄関に向かった。
「え。なんだこれ」
◆
ドアを開けたぼくは、目の前の光景に目をうたがった。
普通の家だったら、靴を脱ぐ場所があって、リビングにつうじるドアや二階へあがるための階段が見える。
ところが、ドアを開けるとそこはいきなり部屋だった。
窓はない。ぼくらが入ってきたドアが、たった一つの出入り口だ。
部屋の中央にはテーブルが置いているだけで、テレビも食器棚も見あたらない。
「二階建ての家にしては狭すぎるね」
「いやいや! こんなのおかしいわ! きっとあいつのしわざよ」
異変に気づいたイタル兄さんはキョロキョロと室内を見渡した。
「ハルちゃんは知っているかしら? 天井戸神社にはイタズラ好きの神様がいて、よく人をからかうのよ」
なるほど。じゃあ目の前の部屋は、その神様のしわざなのか。
「近くにいるんでしょ! 出てきなさい」
「はっはっは! ワタシのしわざだと気づくとは、さすがイタルくんだ!」
ヒョコッと、テーブルクロスの下から女の子があらわれた。
女の子は、はかまを着ていて、キツネのお面をかぶっている。
身長はぼくと同じくらい。小学生くらいの見た目だけど髪の毛の色は真っ白だった。
「人の願いがあるところに、神はいる。ドーモ、クイズの神でーす」
女の子はキリッと決めポーズをとった。
神っぽいオーラをちっとも感じない。
元気な女の子にしか見えないけど、本人が神様だと言うのなら神様なのだ。
「なによここ……。きくみちゃんをどこへやったの!」
「きくちゃんは自分の部屋にとじこもっているよ。これは神様パワーで作り上げたクイズのお部屋なのです」
神様は両手を広げた。
窓も家具もない、他の部屋につながらない不思議な空間を見わたすように、くるりと一回転した。
「順番に説明するね。この部屋は、ある人の願いをもとに作り出したんだよ。その結果イタルくんが入ってきた時だけ、ここにつながります」
「え? アタシ?」
とつぜん自分の名前がでてきてイタル兄さんは戸惑っていた。
ぼくも驚いたけど、今は説明を聞くことに集中する。
「昨日、ある人にたのまれたの。香取イタルくんが、田勾きくみちゃんにシュークリームをわたそうとしているから、ジャマしてほしいんだって」
「つまりこの部屋は、イタル兄さんを通せんぼするためにつくったのか」
「ピンポーン! だから仕事から帰ってきたお父さんは家に入れるし、郵便配達の人は何事もなく家の人に郵便物をわたせるよ」
「他の人なら問題なく生活できるんだね」
「そしてアタシだけが家に入れないのよね。理不尽じゃない!」
自分だけ冷たい対応をうけて、イタル兄さんはくやしそうだった。
「ちなみにぼくは通れるの?」
「イタルくんがそばにいなかったら、きくみちゃんに会えます」
「なるほど」
お菓子をわたしにいくと約束したからには守らないといけない。しかし兄さんは家に入れない。
なら、ぼくが兄さんのかわりにシュークリームを届けに行けば問題解決だ。とりあえずシュークリームをわたす方法はある。
通せんぼには驚いたけど、約束を破ってしまう心配はない。
「うん、よかった……」
「全然よくないわよハルちゃん! どうしてアタシだけのけ者あつかいされなくちゃいけないの!」
肩をつかまれ、激しく揺さぶられた。
うおお。視界が上下にズレる。
「ちなみにクイズをとけば、イタルくんはきくみちゃんに会えるよ」
神様があっさりと別の解決策を教えてくれた。意外と親切だな。
「今の状況をたとえると、二人はカギのかかったドアの前にいるんだよね。カギを見つけてロックを解除すれば先に進めるってわけ」
「完全に通せんぼしているわけではないんだ」
「神様まだ未熟だから。知恵で突破されちゃう」
神様は恥ずかしそうに頭をかいた。
「つまり兄さんがシュークリームを届けるためには、クイズの答えれば」
「フン。こんなクイズをすぐに解いてやるんだから!」
兄さんは鼻を鳴らすと、ズンズンと部屋に入っていった。
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