死んだ魚の眼



  死んだ魚の眼


 けもの道が続く漆黒の森の中

 少女は眼を凝らし必死に歩いている

 腕には折れた木で傷ついたのか

 血が流れ こびりついている

 足にはヒルが食いついており

 それをひき剥がすと結構な血が噴き出す

 それでも少女は歩くのをやめようとしない


 暫くして 月明かりが眩しい木々の隙間

 暗順応では眼に染みて

 少女は足を止め 瞳を閉じる

 再び瞳を開けてみると

 そこには綺麗な水の池があり

 少女は眼を細め覗いてみる

 死んでいるのかいないのか

 白濁した魚の眼がこっちをみている

 少女はそっと手を伸ばす

 すると水の奥から声が響き渡る


 「その魚はもう死んでいる!

  この池は浅く見えて深い!

  それ以上近づくと

  ひきずり込まれるぞ!」


 少女は後ずさりして

 再び歩き続ける

 本当は少女は知っているのだ

 あれは池なんかじゃない!

 鏡だったのだ!


 死んだ魚は私だったのだと

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る