第4話
オリエンテーリングの翌日からは地図を片手に学園内を散策し、地理を頭に叩き込んだ。――というのは建前で、ほぼ観光気分で歩き回っていたというのが本当のところだ。
何せゲーム中では背景として一部が表示されるだけなのだ。そんな場所に自分がいるとなれば、興味を惹かれるままにあちこちを巡ったとしても仕方のないことなのではなかろうか。
そして十月一日、この世界の新年度にして授業開始の朝がやってきた。
少し早起きして真新しい制服に袖を通す。交付された制服は一般的なブレザータイプで、基礎課程コースの生徒は茶色である。学科を選択して専門課程に入ると同じブレザーでも各学科ごとに異なる色となり、誰がどの学科なのかが一目でわかる仕組みだ。
配布された時間割を筆記用具と共に鞄に詰め、朝食を取るために部屋を出た。
食堂に着くとカウンターで朝食の載ったトレーを受け取り、テーブルへと向かう。授業の開始時間を見越してか、食堂にはわたしと同じ茶色のブレザーに身を包んだ生徒の姿が多数あった。
どこに座ろうかときょろきょろと周囲を見渡していると、不意に一角から手が挙がり、大きく振られた。
「ルーシャ! こっちおいでよ、一緒に食べよう?」
満面の笑みを浮かべてそう呼びかけてくるのはメルヴィンだった。見知った顔にわたしも笑みを浮かべる。
メルヴィンも無事に試験に合格していたようで、同じ予科生の立場にある。わたしはまったく気づかなかったのだが、オリエンテーリングの班分けの時に彼はわたしを見つけていたらしい。その日の昼に食堂で声をかけられて以来、一緒に食事を取ったり学園内を見学したりとよく行動を共にしている。
呼ばれるままにそちらに向かうと、メルヴィンの向かいの席に座った。
「今日から授業が始まるね。なんかドキドキするよ」
スプーンを口元に運びながらメルヴィンが告げる。けれど、その顔に緊張はなく、どこか楽しげだ。それに小さく笑い、そうだね、と返事をすると、いただきますと手を合わせてからスプーンを手に取った。そのまま口に運ぼうとするが、ふと視線を感じて手を止める。顔を上げると、メルヴィンがこちらをじっと見つめていた。
「……どうかした?」
わずかに首を傾げてそう問うと、メルヴィンはハッとしたように頭を振った。
「あ、ごめん、何でもないんだ。ただ、その……食べる前にいつもそうするなって思っただけ」
その言葉にさらに首を傾げると、お祈り、と言われた。食べる前に手を合わせるのがそんなに珍しいのだろうか、とそっと周囲を見やると、胸の前で手を組み、目を閉じて祈る少年の姿が目に飛び込んできた。ほかにも同じような仕草をしている人がいるので、どうやらああするのがこの世界では一般的らしいと悟る。
食前に手を合わせるというのは日本ではごく当たり前な風習だが、こちらの世界ではどうやらそうではないようなので改めるべきなのだろうかと考え込んでいると、どこかあわてたようにメルヴィンが声を上げた。
「いや、あの、ほら! 風習なんて地域によって違うものだし、そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな!?」
それより早くしないと遅れるよ、との言葉にうなずき、わたしは朝食を平らげることに集中した。
寮を出てすぐの頃は、色とりどりのブレザーを身にまとった生徒が通学路を歩いていたものの、分岐路ごとに数人が抜け……ということを繰り返すうちに、校舎へと着く頃にはほぼ茶色一色となっていた。
真新しい制服に身を包んだ基礎課程の生徒が列をなして向かうのは、校舎一階の奥にある大講義室だ。特に席は決まっていないらしく、【好きな場所に座るように】と黒板に大きく書いてあった。その指示もあり、生徒たちは皆思い思いの場所に陣取っている。最前列、その中でも教卓の真正面の位置だけ見事に空いているのは、ある意味当然と言えるのだろうか。
「どこに座る?」
メルヴィンの問いかけに、わたしは緩く握った右拳を口元に寄せながらぐるりと教室内を見渡した。大半の生徒たちが座っているのは真ん中あたりから後方にかけてで、その次に多いのが教室最後部。教室前方にはまばらに人影があるだけで、そのどれもが互いに距離を取って一人ずつ座り、持参したと思しき本やオリエンテーリングで配布された資料などを読んでいる。そんな彼らの様子からは、他者とのコミュニケーションよりも授業第一、といった雰囲気を感じた。
「先生の声が聞こえなくても困るし、前の方に座らない? あんまり後ろだと黒板も見づらそうだし」
そう言って教室前方を示すと、メルヴィンは小さく困惑したような声を上げつつもイヤだとは言わなかった。それを同意と受け取ると、わたしはすり鉢状になった教室前方に向かって階段を下りていく。
前から三列目の右側、やや中央よりの席に座ると、すぐ隣にメルヴィンも腰を下ろした。本を読む周囲に遠慮したのか、それとも授業を想像しているのか、メルヴィンにしては珍しく緊張したような面持ちで口を開かない。わたしもまたわずかな緊張を覚えながら、鞄から筆記用具を取り出して授業に備えた。
しばらくすると授業開始を告げる鐘の音が聞こえてきた。日本の学校のチャイムや時報のそれらではなく、大きさの違う複数の鐘を一斉に鳴らしているかのような複雑でどこか神秘的な音色だ。その音源は校舎上にある時計塔なのでどこか
鐘が鳴り終わるのと同時に、ガラリと音を立てて教室の扉が勢いよく開かれた。カツカツと高く靴音を響かせながら一人の女性が階段を降りていき、やや遅れてその後ろを三人の男性が付き従う。それぞれ色は違うものの、全員が同じ型の詰め襟服を着ていることから教師であることがわかる。そのうち女性は左腕に紫色の腕章を着けていた。
階段を下りきると、男性たちは黒板近くに控えるように並んで立ち、女性のみが教壇へと上がる。青い詰め襟服を身に纏い、豊かな金髪をうなじで一つにまとめた彼女はニーナ・キャメロンだ。この場にいるということはおそらく彼女が座学を受け持つのだろうが、ならば背後に控える男性教師たちはどういうことなのだろうか? 教材配布などの助手役にしては荷物がないのが不自然だ。生徒の人数を考えれば、補助教員ということもないだろう。
そんなことを考えながら、わたしは教師たちに視線を注ぐ。
教壇に立ったものの、キャメロン先生は一向に口を開こうとはしなかった。胸の前で腕を組み、教室内へと視線を巡らせている。始業の合図が鳴ったことにすら気づいていなさそうな中列から後列の生徒たちや、教師の存在に気づいて視線を前へと向ける前列の生徒たちの上を通り過ぎていくその眼差しは、観察と言うよりは選別とでも言うべき鋭さがある。けれども藍色の瞳はどこか愉快そうな光を浮かべており、腕組みした指先はリズムを刻むように肘を叩いている。
あまりにもじっと見すぎていたのだろうか。教室内を一周した視線がわたしの上で止まった。正確には、行き過ぎようとして目が合ったと言うべきか。合わせてしまった視線を逸らすわけにもいかず、小さく会釈すると彼女もまたほほえんで会釈を返してくれた。その拍子に束ねた髪が胸元へと流れていく。彼女はそれを背に払うと、生徒たちの注目を集めるように大きく手を打った。それでようやく大多数の生徒たちは教壇に立つ教師たちに気づいたらしい。あわてて居住まいを正す物音が教室内に響いた。
教室内が静まるのを待つと、キャメロン先生は教壇に手を突いて大きく身を乗り出した。
「はじめまして、あたしはニーナ・キャメロン。後ろの先生方と共に、座学を担当することとなります。よろしくね」
愛嬌たっぷりにウィンクすると、キャメロン先生は黒板のそばに控える男性教師たちを手で示した。それぞれ順に一歩ずつ前に出て挨拶をする彼らが、色違いの同じ顔であったことを語るのは今更であろうか。
男性教師たちの挨拶が終わると、ふたたびキャメロン先生が口を開く。
「一言に座学と言っても種類があります。この都市の成り立ちに関する歴史、遺跡に関する知識、探索に関する知識、
そこでいったん言葉を切ると、キャメロン先生はニヤリとどこか人の悪い笑みを浮かべた。
「ちなみに教本なんて物を用意する気はないので、授業内容は各々ノートに記録すること。わからないことがあれば随時質問は受け付けますが、内容そのものに関しては答えないのでそのつもりでね」
その言葉に一気に教室内がざわついた。声を上げているのは、主に教室後方に陣取る生徒たちだ。【テストなんて、配布される教本を暗記すれば余裕】とか考えていたのが、当てが外れて慌てていると言ったところだろうか。
「ルーシャの言う通り、前の方に座ってて良かったねー」
すごーい、と小声でメルヴィンが賞賛してくれるものの、正直そんなに大層なことでもないのでどこかむず痒い。何せ座学の最後に待っているのはペーパーテストなのだ。おおむね板書された内容から出題されるというのは、現代日本の学生ならば誰でも察することができるだろう。そもそも板書の内容そのものが、授業の要点をまとめたものなのだから。
「はい、それじゃ授業を始めるわよー」
ぱんぱんと手を打ち鳴らして騒ぐ生徒たちを静めると、キャメロン先生は教壇から降りた。入れ替わりにその場に立ったのは、右端に立っていた男性教師だ。彼を残し、ほかの三人の教師は教室から退出する。
戸惑いの気配を残しつつも、生徒たちは教師を注視した。それぞれ筆記用具を|携《》たずさえ、その一言一句を聞き漏らすまいと集中する。わたしとメルヴィンもまた彼らの例に漏れず、教師へと視線を向けた。
ガランガランと、まるで聖堂のような鐘の音が鳴り響く。それと同時に教師がパンと手を叩いた。
「ではこれで講義を終わります。十分間の休憩を挟んだ後、次の授業が始まります」
そう告げると、教師は軽やかに階段を上って教室をあとにした。教師の姿が見えなくなると、ほう、と教室のあちこちからため息がこぼれる。
強ばった体をほぐすように伸びをしていると、不意にガタンと大きな音がした。一つではなく立て続けに起きる音に何事かと思ってそちらへと顔を向けると、教室後方に陣取っていた生徒たちの大移動が始まっていた。最前列に陣取る者、黒板の文字がギリギリ見えるであろう位置に陣取る者、実に個性的な位置取りである。
そうこうしているうちに鐘が鳴り、次の講義を担当する教師が壇上に上って授業の開始を告げる。生徒たちは皆筆記具を手に、身を乗り出して教師の声に耳を傾けるのだった。
配布された資料によれば予科生の授業は一コマあたり五十分授業で、十分間の休憩を挟んだ計四コマ。午前八時から一限目の授業が始まり、午後には終了となる。
ちなみにこの世界のカレンダーは元の世界にほぼ準拠しており、七日で一週間、三十一日で一ヶ月、十二ヶ月で一年という周期だ。曜日や月名も同じである。
カリキュラムとしての一ヶ月は四週間で計算し、余った三日間で習熟度の判定を行うらしい。
この都市では基本的に休日という概念はなく、土日でも普通に授業があれば店舗も営業している。習熟度判定期間が唯一の休みの日、と言ったところだろうか。これが現実世界のように全日授業であれば辛かったかもしれないが、午後は自由時間であるのが救いだった。とは言うものの、講義内容は大変興味深いものばかりで、仮に全日授業であったとしても苦痛を覚えることはなかったかもしれない。
歴史や遺跡に関する授業にしても、世界観設定として知っている以上のことが語られるのである。ただでさえシナリオ成分の薄いゲームだったのだから、ストーリーの一部に関わるであろう授業内容は楽しかった。
わたしが何よりも一番心待ちにしていた授業は、探索に関する知識だった。この授業では、探索時に遺跡内でどう行動すべきかという指針や心構えを学ぶ。具体例を挙げれば、それは地図の作り方であったり、探索中にほかのパーティと遭遇した時にどう対応すべきか、などの一種のマナー講座であったりもした。
これから行われるのも探索知識に関する授業なのだが、一見するととてもそうは思えない光景だった。簡潔に教室内の状況を説明するならば【マグロの解体ショー】である。
本来教壇があるはずの場所には高さ・奥行き八十センチ、幅二メートル強の巨大な台が設置され、その上に台と同じくらいの大きさの物体が載せられている。黒い斑点のある茶褐色の体は流線型だが全体的に平べったく、ずんぐりとした手足がかわいらしいと言えなくもない。
ソレは【オオサンンショウウオ】という遺跡内に生息する魔物だった。現実世界に存在する同名の両生類とよく似た外見をしているが、こちらの世界のオオサンンショウオはかなり巨大で、体長は一メートルから二メートルほどになる。ゲーム序盤でよく遭遇する魔物であり、初めて全滅させられた魔物の一位として名前が挙げられる。
ちなみに台に載せられているのは、当然ながら死体である。今からこのオオサンンショウウオの死体を使って解体実習が行われるのだ。
予科生時代は入学時に支払ったお金で授業料を始めとするすべての費用が
どの部位が素材として買い取ってもらえるかを知る必要もあるのだが、傷の少ない素材ほど売却額が高くなるという実利面もあって、解体方法を見学できるこの実習は大変重要度が高いと思われた。そのため、わたしは筆記用具を手にいそいそと最前列に陣取ったわけであるが……なぜだかほかの生徒たちは皆一歩引いた位置に立っていた。女子はわからないでもないが、男子までもがそうなのである。
それも疑問だったが、何だかさっきから妙に生徒たちの注目を集めている気がするのが不思議でしょうがなかった。なぜだろうかと首を傾げていると、隣に並んだメルヴィンが小さくため息をこぼした。
「キミってさ、何て言うか……、……強いよね」
ものすごく言葉を選んだと思われる沈黙の末、メルヴィンはそうつぶやいた。
「何が?」
きょとんと首を傾げて問い返せば、彼は言葉に詰まったかのように視線を泳がせた。
「動じない、って言えばいいのかな……」
ごにょごにょと言葉尻を濁しながら、メルヴィンは視線をわたしの後ろへと投げ、すぐにそらした。その視線を追うように振り返り、ようやくわたしは何のことを言われているのかを理解する。
「ああ、オオサンショウウオ? だってもう死んでるし、この授業は重要だからちゃんと聞いておくようにって先生も言ってたでしょ?」
「それは……そうなんだけど……」
うなずくメルヴィンの顔色はあまりよくない。できるだけオオサンショウオを視界に入れたくないのか、直視しないようにと視線は左に寄っている。
「無理にわたしに付き合わなくてもいいんだよ? 端っこの方で先生の講義だけ聞いてれば、最低限の知識は得られるだろうし」
あとでわからないところを教えてあげることもできる。そう言おうとしたのだが、メルヴィンは強い調子で首を横に振った。
「ううん、大丈夫。だって、いずれ本科生になって遺跡を探索してれば魔物と戦うことになるんだもの。その時に苦手だとか言ってられないから。今のうちに、少しでも慣れておかなくちゃ……」
自分に言い聞かせるかのように、メルヴィンは何度も「大丈夫」と繰り返しつぶやいた。強く握りしめられて白くなった拳が小刻みに震えている。いつかのように、わたしはその拳に自分の左手を重ねた。
「うん、がんばって」
どこか強ばった顔で、それでも懸命に笑みを浮かべたメルヴィンがうなずいた時、授業開始の鐘が鳴った。同時に勢いよく教室の扉が開けられ、この授業を担当する教師が入ってくる。
「はい、それじゃあ授業を始めるわよー!」
手を打ち鳴らしてそう言ったキャメロン先生が台の前に立つ。その横には助手役なのだろうか、いつもは
「昨日言っていた通り、今日は魔物の解体実習を行います。遺跡探索に魔物との戦闘は付き物。その魔物から得られる表皮や牙などは武器の材料となるだけでなく、生態系や習性などを知る手がかりとなります。何よりも、この都市で生きていくための資金源は魔物から得られる素材です。そのためにも、どの部分が素材として有用なのかや、解体方法をキッチリ覚えておくように!」
首を傾げながら男性教師の手にしたまな板(仮)を凝視していたわたしだったが、キャメロン先生の声に我に返って慌ててそちらへと視線を向ける。たしかに彼が手にする物も気になるが、授業をおろそかにしていたのでは何のために最前列に陣取ったのかわからない。
キャメロン先生は生徒たちを見回すと、台の上に置かれた魔物について軽く説明を始めた。魔物の名称、外見的特徴、遺跡のどのあたりで遭遇するかなど、一通りの説明が終わるとキャメロン先生は助手役の男性教師からナイフを受け取り、ケースから抜いた。それは刃渡り三十センチはあろうかという大振りのもので、峰の部分には
「オオサンショウウオで最も注意すべき部分は尾です。この先端部分には針があって、毒が分泌されています。主な症状は麻痺や呼吸困難。症状の進行は早いけれど、解毒剤を投与すれば中和することが可能よ。刺されないのが一番だけど、解毒剤は常に持ち歩くようにした方がいいわね」
言いながら、キャメロン先生はオオサンショウウオの後ろ足の付け根あたりから尾を切り落とした。ちょうど尾の真ん中を通るように縦にまっすぐ切れ目を入れ、二つに割るように手で押し広げる。すると中から鋭い針と、そこに繋がった袋が現れた。キャメロン先生はナイフの先端で袋を示すと、これが毒を生成する器官だと説明した。
「この毒腺から解毒剤が作られますが、下手に触ると潰れて毒液が出てくるので、尾全体を素材として扱います。ちなみにオオサンンショウウオの毒は、尾針で刺して注入するほかに直接吐きかけてくることもあります。ですがこちらの毒は皮膚に炎症を起こす程度で、余程のことがない限り死には至らないので安心していいわよ」
あんまり安心できないことを言いながらウィンクしたキャメロン先生は、切り落としたオオサンショウウオの尾を男性教師が持つ板の上に置いた。どうやらアレは解体した素材を取り分けるために用意されていたらしい。
続いてキャメロン先生はオオサンショウウオの足をすべて切り落とすと、そのうちの一本を手に取り裏面をこちらへと見せた。胴体に比べるとその足はひどく小さく、指の先には大きな吸盤が付いていた。プニプニとしていて、ちょっとつついてみたくなるような色艶をしている。
「オオサンショウウオはこの吸盤を使って遺跡内の壁や天井に張り付いています。姿が見えないからって油断しないようにね」
そう言って切り落とした部位をすべて板の上に移すと、オオサンショウウオの口の横にナイフをあてがった。そこから尾の方へと向かって一直線にナイフを引いていく。反対側も同じように口から尾へと向かって刃を入れると、元のようにナイフをケースに納めて台の上に置いた。そして尾の部分の切れ目に指をかけると、手慣れた様子で皮を剥ぎだした。上半分を剥ぎ取ると、ひっくり返して裏面に取りかかる。それもまたあっという間に終わった。
手足を落とされ、皮を剥かれたその様は食用の肉を思わせた。頭部が付いたままというのがアレだが……。
「表皮、尾、足……これらがオオサンショウウオから取れる素材となります。特に重用されるのが尾、その次に表皮です。キレイに皮を剥ぐのは難しいと感じるかもしれないけれど、コツさえ掴めば簡単よ。慣れの問題だから、数をこなすのが一番ね」
そう言って笑うと、キャメロン先生は授業の終わりを告げた。その日の最後の授業だったこともあり、生徒たちは一目散に教室を出ていく。筆記用具を鞄にしまうと、わたしもメルヴィンと共に教室をあとにした。
その後も解体実習は何度か行われた。検体となる魔物の死体が用意できた時はそれを使って、なければ解体図や
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