出来事の中にあるもの
シイタ
第1話 出会い
高校の入学式。
新入生の多くが不安や緊張、期待などの様々な感情を持ちながら、自分たちが入学する高校を眺めて歩いている。
そんな生徒たちの中、一人だけ自分の入学する高校にさして興味がないかのように淡々と歩いてる生徒がいた。
めんどくさいな……。
桐谷秋斗はこれから始まる入学式……ではなく、高校生活のことを考え気をだるくしていた。
学校の校門を抜けると玄関前に多くの新入生が集まっている。そこには新入生のクラス分けが書かれている大掲示板があった。
秋斗もその大掲示板に向かった。
大掲示板にはクラスがA組からF組まで分けられていて、五十音順に名前が書かれている。
秋斗は自分の名前を探そうとA組から順番に見ていく。
これで最後の方だったらめんどうだな。
そんなことを考えているとB組で自分の名前を見つけ、A組から見ていって正解だったとホッとした。
自分のクラスも分かったので、B組の教室に向かうことにした。
校舎は四階建でできていて、二階が一年生、三階が二年生、四階が三年生となっている。ちなみに一階は職員室や図書室などがある。
B組の教室に着きドアを開くと、教室にいた生徒が何人かこちらを見てきた。
秋斗は向けられた視線をを気にしないように教室内を見渡してみる。
机に座っている生徒の前後が空いていたり、ほとんどの生徒が後ろの席や壁際に座っているところを見ると、どうやら席は自由に座っていいようだ。
窓際の後ろから番目の席が空いていたので、そこに座りもう一度教室内を見渡してみる。他の生徒は机で静かに座っていたり、友達作りに精を出していたりしていた。
次に窓の外を見ると校門から多くの生徒が歩いているのが見えた。
***
用を足して教室に戻ってくると、先ほど自分が座っていた隣の席に金髪の男子生徒が座っていた。
髪を染めている高校生=ヤンキーという考え方は偏見なのかもしれないが、髪色が金髪で派手だということと周りの生徒の反応もあり、席に戻るのをためらってしまう。
入り口の前でそうこうしていると金髪の男子生徒がこちらに気づき、手を上げながら……
「アッキー!!!」
と元気よく中学時代の呼び名を叫んできた。
その呼び名と声ですぐにその生徒が誰か分かり、ため息をつきながら金髪の生徒の隣にある自分の席に戻った。
「おいおい、中学時代からの親友の挨拶を無視かよ~」
「俺の知り合いに金髪のやつはいない」
そう答えながら、秋斗は席に着いた。
「高校デビューだよ。高校デビュー!」
「…………」
このテンションの高い男子生徒の名前は天海天晴。初めの秋斗に対する挨拶や高校デビューという理由で髪の毛を金髪に染めているなどのことから、いかにも頭の悪そうな生徒に見えるが外見とは裏腹に成績は優秀で、中学の成績はいつもトップであった。
金髪に染めた理由に心底呆れながら、天晴の座っている席の机を見てみると、上にも下にもある物が置かれていなかった。
「天晴……」
「なんだいアッキー?」
「鞄は?」
「……ん?鞄とは?」
「通知に書いてあっただろ。教科書配布などがあるから、新入生は学校指定の鞄を持ってくるようにって」
説明しながら机に置いてある自分の鞄に手を置く。
「あー、……忘れちゃった!」
笑顔で親指を立てる天晴に呆れる秋斗であった。
***
その後も二人で話していると入学式が始まる15分前になった。
ふと後ろの方を見ると一人の女子生徒が席に座らず、キョロキョロと周りを見ているのに気づいた。
何をキョロキョロしてるんだ?
女子生徒の行動を疑問に思い、女子生徒のように周りを見てみた。
……あれ?席が一つも空いてない。
もう一度よく見渡してみても全ての席が生徒や鞄などで埋まっていた。
少し考えたが学校側のミスだろうと思った。しかし、目の前にいる天晴の方を見て、席があいてない理由がすぐ分かった。
女子生徒を呼ぼうとそちらの方を見ると、女子生徒もこちらを見てきて視線が合った。
………………
時間が止まったかのように周りの声や音が聞こえなくなった。
ハッと我に帰り、すぐに目を逸らした。
「どうした秋斗?」
秋斗の行動を不審に思ったのか、天晴が聞いてくる。
「いや……なんでもない」
そう言って、もう一度女子生徒の方を見るとまた視線が合った。
今度は初めのような事は起こらず、秋斗は手まねきで女子生徒をこちらに呼んだ。
女子生徒は驚き、周りに誰もいないことを確認すると「私?」と聞くように自分を指差した。
秋斗が頷くと、女子生徒は渋々という感じでこちらに歩いてきた。
天晴は秋斗が女子生徒をこちらに呼んでいるのを見て、「え、なになに?」という顔でこちらを見てきている。
「えっと、何かな?」
女子生徒が呼ばれた理由を聞くと、秋斗が天晴の席を指差し、
「君の席ここだよ」
と言った。
驚く天晴と困惑する女子生徒。
すると天晴が驚いた顔を一変させ、ニヤリ顔で
「なんで分かった?」
と聞いてきた。
説明するのも面倒だったが、女子生徒の方もこちらを見ているので仕方なく説明することにした。
「まず初めに玄関前のクラス分け表に天晴の名前を見かけなかったこと、五十音順で一番初めにくる苗字で天海天晴なんて目立つ名前、見落とす方が難しい。次に鞄を持っていないこと、まあこれは中学時代ほとんど忘れ物なしのお前が高校の入学式で忘れ物をしているということに、ちょっと違和感を感じただけだけどな」
「アッキー!それだけでは、俺がこのクラスじゃないという理由にはほど遠いと思うけど。クラス分け表は見落としているのかもしれないし、鞄はさっき忘れたって言っただろ」
余裕な顔を見せながら、反論してくる天晴。
その顔にイラっと感じ、天晴の言うことももっともであると思いながら核心に迫ることにした。
「天晴?」
「なんだいアッキー?」
「なんで俺の隣の席に座ってるんだ?」
「なんでって、それは秋斗の隣だからじゃないか」
「なんでこの席が俺の隣ってわかったんだ?お前が教室に来た時に俺は用を足しに行っていて、教室にいなかったと思うが」
秋斗の問いに言葉を失いかけた天晴だったが、秋斗の机の上にある鞄をチラッと見て、言った。
「……鞄だよ。鞄!鞄を見てアッキーの席だと分かったんだよ」
「鞄を見てどうやって、俺のだと分かったんだ」
「それはその机の上にある鞄を見て…………あっ」
天晴は秋斗の机の上にある鞄を指差して、気づいたようだ。秋斗の鞄は学校の指定鞄で他の生徒も同じ鞄を使っている。キーホルダーなどを付けるか中身を見ない限り、外見だけで誰かのだと見分けるのは無理だということに。
「…………参った、天晴れだ。流石だよ秋斗」
天晴はそう言うと席を立ち、女子生徒に謝って教室を出て行った。
「ありがとう」
女子生徒が席に着き、笑顔でお礼を言ってきた。
「こっちこそ知り合いが迷惑をかけた」
「いいよ。そのおかげでさっきの推理が聞けたんだから」
「別に推理というほどのものじゃ……」
「僕、雨宮咲。これからよろしくね!」
笑顔で自己紹介をしてくる雨宮。
これが桐谷秋斗と雨宮咲の出会いであった。
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