第6話忘れられない本

 ふと流れていたのを聞いて、耳に残った洋楽の曲。

 もう一度聞きたいけど、曲名もアーティストもわからない。最近の曲か昔の曲かもわからない。調べようがない。

 でも、聞きたいよう。

 チクショー、ラジオで偶然流れてこないかなあ〜。


 私はこういうことがよくあります。


 それと同じで、もう一度どうしても読みたい、忘れられない本というのも一冊あります。

 でも調べようがない。


 その本は小学校の図書室にありました。

 外国の児童文学で文庫本。表紙はオレンジだったと思います。

 子供向けの江戸川乱歩シリーズの上の棚にひっそりとありましてね。

 まあ、誰も読んだことがなくて、借りたのは私が初めてだったということも覚えています。


 その本を読んで。

 私は我を忘れる程夢中になり、貪るように一気に読む、という経験を初めてしたのです。


 題名は多分、「銀のスプーン」だったと思うのですが、勘違いかも。調べても出てこないので。

 その本のあとがきにて、作者は外国の詩人であり、原文は吟味された宝石のような言葉を使っているので、訳すのが勿体無かった、というようなことを訳者が書いていたのも覚えているのですが。


 この歳になっても、いまだその本に再会出来ずです。


 その本がどんなストーリーかと言いますと。


 時代は第二次世界大戦の最中。

 ユダヤ人の子供たちの、ナチスドイツからの逃亡劇です。子供たちだけで逃げるのです。

 映画の「大脱走」並みのハラハラドキドキ、スリル満点エンターテイメントでしたね。

 見つからないよう、列車の下にしがみついて結構な距離を移動したり。

 最後はボートで河に逃げて国境を越えたような。


 メインは長女を始めとした兄弟たちですが、逃亡途中で不良っぽい男の子が一人、加わります。

 その子はそれまでたった一人でナチスから逃げ続け、生き抜いてきました。だから、ちょっと荒れてます。

 兄弟たちに、逃亡の的確なアドバイスをしてくれるのですが、やっぱりなんだか乱暴者。

 しかし、長女だけには叱られると大人しく従うという可愛いところが。


 ラストで、この彼は戦後も長女のことを母のように慕い、長女にしか懐かなかった、と書かれていたのも覚えているのですが。


 すごく面白そうな話でしょう?


 ここまで鮮明に覚えているのに、いまだ読めずじまい。

 ああ、死ぬ前にもう一度、読みたいよう。


 まるで忘れられない恋人のようだな、と時折思い出しては考えたりします。






 ※追記

 調べたら

 ヤン セレリヤーという英国の詩人作家で

「銀のナイフ」という作品が出てきました。


 表紙は緑色。



 第二次世界大戦中のユダヤ系ポーランド人家族の離散と再会劇だそうです。

 うん、これだ(笑)

 途中で戦災孤児の少年が一人加わって大変なことになる、とあらすじ紹介文に。

 本国でテレビドラマ化もされたとか。


 判明してスッキリしました。

 しかしそれにしても、記憶は当てになりません(笑)

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