異世界転生系短編集(になるといいなあ

@youki39000

次の日に金属バットを買ってきた

「はっぴばーすでーとぅーみー♪

はっぴばーすでーとぅーみー♪

はっぴばーすでーでぃあおーれー

はっぴばーすでーとぅーみー♪」


「お誕生日おめでとー、かんぱーい」


 独りぼっちで始めた誕生日の宴は既に三次会に突入していて、コンビニで買い足した発泡酒のプルトップを開けながら16回目の乾杯。

 いや、18回目だったかな。よくわかんねーや。酔っぱらいに数を数えさせんなってー話だ。


 アルコールにはわりと強い方だと思っていたのだが、それが災いした。弱かったらこうはならなかっただろうな……等と一見冷静な評価をしているのだから俺はまだ酔ってないのかもしれないし、酔っているのかもしれない。

 酔っぱらいはみんな「俺は酔ってない」というので、酔ってないと思うならきっと酔っているし、酔っていると思えば酔っているのだから、つまり俺は酔っているのだ。


「なんだこれ。もしも俺の思考を読み取れるヤツがいたら、酷い酔っぱらいだって言うぞこれ。言わないかな。まあどっちでもいーや」


 突然平衡感覚を失うのを感じた。ああ、酔ってるわ、べろんべろんに。こりゃこのまま意識失って気がついたら明日の朝ってやつですよ。あー……せめて良い夢見たいなあ……。


「おいお前、名前は?」


 おっ、いきなり美少女登場ですか。女子高生かな。こりゃ良い夢の予感。ひさびさだよなあ、こんな若い女の子に話しかけられるなんて。


  ◆◇◆


 目が覚めると翌朝である。

 お前らみんな死んじまえ♪ 世界は全部壊れて終わっちまえ♪ とがなりたてるアラームをとめる。


 ああ、頭はいたくないけど気持ち悪い。仕事いきたくねー。

 いきたくねーけど、いかねー訳にはいかねー。


 やっとついたぜ駅。みんな朝からごくろーさん。ああ、人多すぎだろ。うんざりすんだよなあ。なんでみんな同じ時間に出勤すんだよ。バカじゃねーの。俺バカじゃねーの。

 ああ、もうやだー。仕事いきたくねー。

 とか思ってたら、平衡感覚を失うのを感じた。うわあ、アルコール抜けてないな、これ……。


「やれ、たかゆき! 貴様の力を見せてみろ」


 はい……?


 突然のことに俺の頭は判断するのを停止していた。

 わかってんのは、目の前にはヤバイ皮膚病にかかってそうな気持ち悪い小さい人が何人かいて、そいつらみんな手入れのしてなさそうな包丁を片手にこちらへ向かって走って来ているってことだ。それがどういう意味なのかはわからない。少なくとも電車がホームに入ってきた感じではない。目が合った。


「何をボーッとしてるんだ、早くやれー!」


 怒鳴り声がするので振り返ると、昨日の夢で見た金髪ツインテールの女の子がいた。


「ちょっと待って、なにこれ」

「なにこれじゃない、早く、お前の、魔法をもって、ゴブリンを、蹴散らせと言ってるんだ!」


 チョコレート色のセーラー服に身を包み、なんか雰囲気のある魔法の杖っぽいのを持ったその子は、その魔法の杖っぽいもので俺の後ろを指した。


 どうやらあの顔色のヤバイ小人がゴブリンで、そいつらに襲われているところらしい。そして俺には魔法を使って戦うことが要求されている。


「いや、無理でしょ」

「なっ……に、逃げろー!」


 彼女は絶句したあと、一目散に走り出した。マジ必死な雰囲気に俺も怖くなってそれを必死に追いかける。ぐわー、気持ちわりい……。

 ただでさえ気持ち悪いの我慢して全力疾走してんのに、さらに平衡感覚が失われていく。これ、あれだ。残ってたアルコール回って来たやつだ。うえぇえ……気持ち悪い。


 我慢できず地面にへたりこんで、ゲーゲーと嘔吐した。

 吐いてる真っ最中は苦しいけど、吐いた直後はキモチイイ。

 ハッとして振り返ると、ヤバイものを見たって顔した男女が二、三人、こっちを見ていた。そんで素早く視線を逸らした。


 駅のホームじゃん、ここ。

 ゴブリンいないし。電車いった後だし。なにこれ。どうなってんの。

 俺、白昼夢ですか。酔いが覚めてませんか。覚めてませんね。

 ああ、仕事いきたくねー。つーか、間に合うのか。電車乗り損ねてんじゃねーか。


  ◆◇◆


 昨日はさんざんな目にあった。

 朝から気持ち悪いし、駅のホームで吐くし、それを汚物を見るみたいな目で見られるし。いや、汚物を吐き出してましたけどね。そんで会社には遅刻するし、それをネチネチ怒られるし、帰ったら家の中は空き缶だらけだし、汚ねーし。

 で、今日はたまの休みだってのに、財布の中身はほぼ空っぽだし、相変わらず胃の調子は悪いし、朝から雨降ってて洗濯もできねーし、ふてくされて酒でも飲んで寝るかと思ったら買い置きのアルコールはみんな飲んでたし、ああもう寝よう。ぐう。


「おきろぉぉ!」


 今度はなんだ。夢の中まで俺の邪魔してくるのか。いい加減にしろよ、クソッタレ。いやこの声、聞き覚えがある。あの子だ。やった、可愛い女の子とお話できる。夢だけど。夢だけどってところに哀しさあるけど、この際良いだろ。夢だから良いだろ。儚いもんだよ、夢なんて。


「起きた」

「なんで寝てるんだよ!」


 そういえばこの子、いつも怒鳴ってるよなあ。元気ありあまってる感じでいいなあ。


「おい、聞いてんのか!」


 頭に激痛が走る。例のねじねじと木が絡み合った魔法の杖っぽいやつで叩かれた。


「いってーなあ、聞いてるよ」

「聞いてるなら答えろ!」


 彼女は魔法の杖っぽいやつ――いやもうとりあえず杖でいいか――を振り上げで、もう一発お見舞いしてくれる準備を整えた。やめて、それ痛いから。


「暇だから寝てたんだよ。悪いか」

「悪いに決まってるだろ!」


 頭に激痛が走る。


「いってえええ!」

「反省しろ、このバカ!」


 頭に激痛が走る。


「痛てえって言ってんだろ、やめろこのやろー!」

「おやめくださいだろ。しもべなら言葉遣いにも気をつけろー!」


 頭に激痛が走りまくる。


「いたっ、いたっ、いたいっ、いたいから、やめっ、やめて、やめてくださいてっ、おやめくださいっ、やめて、やめてくだっいたいって!」


 やっとやめてくれた。

 可愛い顔してとんでもないな、こいつ。容赦ってもんが一切ないぞ。血も涙もないぞ。てか血がでてんじゃねーかこれ。いや、出てんじゃん。頭から流れてんじゃん。手についたよ、血が。うおおお?


「なにしてくれやがりますか、このやろー!」

「うるさい、黙れ。しもべの癖に言葉遣いがなってないから教育してやったんだ。ありがたく思えー!」

「ちょっと待って、なによ。そのしもべってなによ、いったいなんなのよ」

「なにって、契約しただろ」

「知らねーよ!」

「今さらしらばっくれても召喚契約はなくならないからな。だいたいなんなのか聞きたいのはこっちだ」

「はぁ?」

「お前、自分は魔法使いだと言っただろう。30年にわたる辛い修行を耐え抜き遂に魔法使いになったと。なのに何だ、あの体たらくは。お前のせいで試験落ちちゃったじゃないか。召喚魔法の単位落としちゃったじゃないの。もーなんなのよ、信じらんない。ゴブリンの相手すらできないとか、ばか、ばか、ばか、ばか!」

「えっと……なんかごめん」

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