サンタクロース

「サンタクロースはいると思うの」


 丸テーブルを二人で囲み、ショートケーキを食べている時に、彼女はそう言った。彼女のケーキの上にはサンタクロースの砂糖菓子が乗っていた。


 十二月二十四日――クリスマスイブの夜。僕はストーブを稼働させた暖かい自分の家で、恋人である彼女と二人で過ごしていた。イルミネーションを見たりするために出掛けても良かったのだが、外は雪がちらつく程冷え込んでいたし、彼女はそれらにたいして興味を示さないため、僕の家でまったりとすることにしたのだ。


「この歳になってもまだサンタクロースなんて信じるんだ」


「『いない』よりも『いる』って信じた方が楽しいじゃない」


「そうかな?」


 僕は内心、疑問符を浮かべた。まあ『いる』と信じた方が夢があるとは言えるだろう。


 もっとも……。


 僕は彼女を見つめる。真っ赤な肩出しセーター。鎖骨にかかるぐらいの髪が色っぽさを引き立てている。


 僕個人としてはそんな彼女との聖夜を、サンタクロースなんかに邪魔されたくはない。


「それに、サンタクロースは太ったおじいさんとは限らないわ」


「どういう意味だい?」


 僕は訊き返した。彼女の発言は時々ユニークで、理解できないことがある。けれどそんな彼女の言葉は、僕が考えもしないことに気づかせてくれるから、聞くのは楽しいのだ。


「サンタクロースは子供達を喜ばせるためにプレゼントを贈るでしょう」


 彼女はサンタクロースの砂糖菓子だけを残し、ケーキを食べ終えると脇でごそごそし始めた。


「はい、コレ」


 そしてその言葉と笑顔と共に彼女が差し出してきたのは、クリスマス用にラッピングがされた品物。


「ね、私はあなたのサンタクロースになるでしょう」


 いきなり飛躍した結論に僕は目を点にしながらも、それを受け取った。


 片手で持てるぐらいの長方形の箱型のプレゼント。


 彼女が僕のサンタクロースだと言う意味。


「それって僕が喜ばなかったら成立しないんじゃないのかい?」


「も、もしかしていらない?」


 不安そうに瞳を揺らし、彼女はうろたえる。


「そんなことないよ。君は確かに僕のサンタクロースになれているよ。もっとも、僕は子供じゃないけどね」


 僕はそんな彼女を安心させるために笑みをこぼしながら言った。僕も用意してきたのに先を越されたから、ちょっといじわるしてみたくなったのだ。


 出遅れたと思いつつ、僕も彼女へ渡すプレゼントを取り出した。


「はい、僕からも君にコレを。僕は君のサンタクロースになれているかい?」


 僕は彼女にプレゼントを渡し、尋ねてみた。 サンタクロースは子供を喜ばせるためにプレゼントを贈る。だから彼女の概念によると相手を喜ばせるために、相手を喜ばせるプレゼントを贈れれば、その相手のサンタクロースとなるようだ。


「なれているわ! ありがとう」


 彼女は目を丸くした後、満面の笑みを浮かべ、太鼓判を押してくれた。


 そんなに喜ばなくてもわかるのに。


 オーバーだなと思いつつ、僕はそんな彼女を眺める。


 赤いセーターを着た僕のサンタクロースである彼女を。


 そういえばサンタクロースは赤い服を着ていた。


 そうか。


 彼女は情熱的に見せるためではなく、サンタクロースを模して聖夜を過ごす服を選んできたんだなと、僕は今更ながら気がついた。











END.

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