キスしてみせて
「キスしてくれないかい?」
「え!? キ、キス!?」
二人でソファーでくつろいでいる時、ふと気まぐれにそう僕が甘えてみると、彼女は激しく狼狽した。
先程まで普通だった顔を今は赤くしている。
「わ、私があなたに……ってこと?」
動揺からか、しばらく言葉を失っていたが、彼女は俯きがちになった顔をそのままに、上目遣いで僕を窺うように見つめ、そう訊き返してきた。
「そうだよ。いつも僕からしてるし、たまには君の方からして欲しいなと思って」
さらりと僕は言う。
はたして純真でお淑やかな彼女はどうするだろうか?
「……どうしても私にキス、して欲しい?」
内心ワクワクしている僕をじっと見つめたまま、尋ねてくる彼女。
「うん」
「わかったわ……。じゃあ、顔、前に向けて、そ、そのまま座っていてね」
そう告げると彼女はソファーから立ち上がる。
僕は言われた通り彼女の方へ横へと傾けていた頭を正面に戻す。
僕の真正面に来ると彼女は膝を床につける。
そして目線を合わすと僕の肩を掴んだ。
少しの間僕を見つめた後、ギュッと勇気を振り絞るかのように脣を引き結ぶと、彼女はその身を乗り出した。
近づく僕と彼女の顔。
そして脣に触れるもっちりとした柔らかい感触。
予想通りといえばそれまでだが、恥ずかしがっていた彼女からの口づけに少なからず興奮する。
「っ」
口内に温かいものが侵入してきて僕は不覚にも驚いてしまう。
彼女がディープキスを仕掛けてくるとは想定外だった。
たどたどしいながらも舌を絡み合わそうとするから、僕はリードされたままそれに応える。
主導権は握られるより握る方が好きなのだが、彼女からというのが新鮮で、これはこれで悪くないと思ったからされるがままにされてみる。
「意外だね。君のことだから唇に触れるだけかと思ってた」
お互いの唇が離れた後、僕は正直にそう口にした。
「だって、あなたはこれくらいしないと全然動じないもの」
なんだかんだで恥ずかしかったのか顔を赤く染め、僕から視線を逸らす彼女。
僕はそんな彼女を抱きつかせるように腕の中に収めた。
突然のことにビクッとなる彼女の肩。
今みたいにちょっと抱きしめるだけでいまだに動揺する癖に、彼女は時々妙に大胆だ。
それだけ僕のことを愛そうとしてくれているのがわかるから嬉しかったりするのだが。
僕は彼女の天然パーマだという少しウェーブがかかった長い髪を指で軽く梳くと、腕を緩め少しだけ身体を離した。
そしてすぐさまその唇を奪う。
「んっ」
彼女は声を上げかけるが、僕が口を塞いでいるためその音は消える。
唇に触れるだけでは済まさず、先程彼女がしたのと同じように舌を絡める。
ただし、彼女よりもさらに深く、長く、口内を犯す。
やっぱり彼女に迫らせるよりも迫っていく方が僕は好きだ。
END.
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