天国つうしんぼ

バンブー

これで終わりにしようか……

第1話 死ぬのです

 母さん、


 女手一つで、ここまで育ててくれてありがとう。


 でもゴメン、もう限界なんだ。


 あのブラック企業に追い込まれ、それでも頑張ったのに、最後は会社を自主退社させられて……


 彼女も作らず、趣味も作らず、真面目に勉強して、ただただ頑張って来たのになぁ……


 努力しても報われないこんな世の中で、生きている意味が見いだせなくなりました。


 もう、いい加減疲れた……


 ごめんなさい。


 津久田テルオは、29年の人生にピリオドを打ちます。


 先立つ不幸をお許しください。


                           津久田 テルオ より




 PS:俺のパソコンのハードディスクの中身は、見ないでそのまま捨ててください。お願いします。





 この世に一人残す母へ宛てた手紙を、脱いだビジネスシューズにえて、きちんとそろえた。群青色の空を漂う綿飴のような白い雲達が、白いシャツに赤いネクタイを締め、目の下にくまの張ったの背後へと流れて行く。

「風が、まるで俺の死をこばんでいるみたいだ……」

 彼の住む街で一番背の高い30階建てマンションの屋上にて、津久田つくだテルオは人生最後の余韻よいんに浸っていた。穴の開いた靴下を履いた彼は、屋上のへりに立ち、このコンクリートジャングルの世界を見下ろす。

「……」

 テルオは息を整える。何度も死のうと思い至り、何度も未遂で終わってしまった。

 しかし、今回は確実に死ねる方法を彼は選んだ。この高さから落ちれば、何かイレギュラーが起ころうとも生きれる要素がない。

「……俺は飛べる」

 緊張を振り切るように、テルオは呟く。

「俺は飛べる!」

 今までの臆病な自分を振り払い、大きな一歩を踏み出す。

「アイ!キャン!フゥラアアアアアアイ!!」

 彼は力いっぱい縁を蹴り、下へ落ちていった。

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