Intermission3 「ある男」

 


 ――海辺。

 岩場が多くある場所で、ひとりの少年が怪獣に追われている。

 怪獣……緑を基調とした異世界の住人といった趣きである。切っ先鋭い剣を手にしている。大股で闊歩し、少年に迫る。

 少年は涙目になりながらも、必死に逃げ惑うが、岩場に突出した石に毛躓き、その場に転倒する。

 怪獣は、奇声を発するとその歩みを早める。遂に少年に追いつく。怪獣を見上げる少年の顔に剣を突き出す。

 少年の覚悟の表情。恐怖の表情が大写しになり、「助けて、助けて……」と懇願する。

 当然怪獣がそんな懇願を聞き入れるわけもなく、剣を大きく振り上げて少年に斬りかかろうとする。

 少年、瞑目。

 ……そこに躍りかかる赤の戦士!

 怪獣に跳躍した赤の戦士が蹴り倒す。怪獣は吹っ飛ぶ。

「トライレッド!」

 少年が起き上がり、叫ぶ。

 トライレッド、と呼ばれた赤の戦士は少年に「ケガはないか、早く逃げるんだ!」と言う。少年は「うん!」と大きく頷いて、そのまま向こうに駆け出す。

 そして次々に黒い戦士、青い戦士、黄色い戦士、桃色の戦士が現れる。

 赤の戦士は怪獣に向かって、「ようやく見つけたぞ、ダルメス!」と叫ぶ。

「お前の好き勝手にはさせん!」

 ダルメスと呼ばれた怪獣はよろよろと起き上がると、口を大きく開けて炎を吐き出す。

 その炎を浴びる五人の戦士。周囲の岩場で次々と爆発が起きる。吹っ飛ぶ五人の戦士。

 ダルメスの周りに、民族衣装っぽいいでたちの異形の兵士がどこからともなく集まってくる。

「いくぞ!」 

 赤の戦士は拳を突き出すと、他の四人の戦士も「おう!」と応える。そのまま他の戦士たちと跳躍して、五人が横並びに勢ぞろいする。

「トライレッド!」

「トライブラック!」

「トライブルー!」

「トライイエロー!」

「トライピンク!」

 五人の戦士はそれぞれ、ポーズを決めて怪獣ダルメスたちに名乗りを上げる。

 そして赤の戦士は「電撃戦軍!」と叫ぶ。

「トライフォース!」

 五人の戦士は声を揃えてそう叫ぶ。背後でその色の戦士と同じ色のセメントが爆発して……。



 ――リモコンの停止ボタンを押すと、画面が真っ黒になった。時刻が午前二時を回っていて、明日の仕事に差し支えがあると思ったので、今夜はこのあたりでやめておこうと思った。

 男は背もたれに深く身を預けると、うーん、と大きく身を伸ばした。

 それにしても、この回だけで何回一人で鑑賞しただろう。正直三十年前の映像だから今の作品と比較してもやや迫力不足の感は否めないし、またフイルムで撮影されているので画像の粒子もやや粗い。

 それでも面白いものは、面白い。

 昔の作品ならではの良さもある。たとえば、あの海辺のシーン。知人から聞いた話だが、今はもう撮影許可が下りないロケ地だそうで、ロケーションが最高だけに単純に映像として貴重。また、ガソリン爆発もCGではない、ホンモノの良さがあった。セメントやナパーム爆発もいまでは到底この場所で撮影することはできないだろう。

 懐かしい。

 いろいろな意味で、懐かしい。

 男はソファから立ち上がると、ふうと大きく息を吐いた。

 ……三十年前。

 あの日の記憶は今も鮮明に残っている。

 そして、今。

 二〇一四年の今。

 男は「……戻りたい、あの日に」と一人、静かに呟いた。

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