最終兵器と番人
ジロジロ
第1話 最終兵器が盗まれた
夢。
夢を見ている。
遠き日の・・・ あの荒野での出来事。
鮮血が舞い、大地が砕け、空が裂けたあの日。
とても、、とても幸せな一時。
胸は高鳴り、脳が踊り、体を切り刻まれた、、あの瞬間。
なのに、何故? 何故、私は・・
気が遠くなるほど昔の話。
私は一人の青年に敗れた。
無敗を誇った私が、唯一敗れた時の出来事、そんな一幕。
夢は覚める。
そこに空しい余韻を残しながら。
▼
私には友がいた。
初めて出来た友。
不器用な私には不釣り合いな好青年。
しかし、どうして・・・ 彼は貧弱な人間だった。
彼は発明家。
若くして、その明晰な頭脳で多くの発明をし、人の社会で大きな成功を遂げた人物。
くだらん。
実にくだらん話だ。
人間の社会などちっぽけ。
私の翼を見ろ! 人間の社会など一撃で吹き飛ばす、この強靭な翼を!
今思うと恥ずかしい・・・
この時の私は、真剣にそう思っていた。
慢心が膨らみ己を見失っていたんだと思う。
ん? どうした?
ああ、翼の事?
勿論、生えてるさ! 当たり前だろ?
変な顔をするな!
私が頭のおかしな奴みたいではないか!
お前に翼は無いかもしれんが私にはある! それだけの事だ! そうだろ?
・・・納得がいかんか?
ならば、仕方ない。
光栄に思え! 我が真の姿! その眼に刻むがよい!
閃光と共に決めるポージング、そして大きな声。
決まった! 満足のいく会心のポーズ。
それは、なにかが報われた瞬間。
あ、元の姿に戻らないと・・・
余韻が冷め、そそくさと変態を始めようとする。
え? そういうのいいから? 早く正体教えろ?
その言葉は私を抉った。
気が遠くなる程の練習の日々が走馬灯の様に駆け巡る。
全てがぶち壊しだった。
だって・・・
だって、練習したんだよ! 真剣に何年もかけて!
いいえ、何十年、いや、何百年かけたかわからない!
彼奴が人間だったから、人の姿になる事を覚えて、今や人の姿でいる事の方が多いし・・・
私にだって決めたい気持ちになる事があるのだ!
こんな、、
こんな、、、私だって・・・
ドラゴンなんだぞ!!
叫んだところで、なにか空しくなった。
私、誰と話してたんだっけ? それが分らない。
・・・でも、話を続ける。
あ、そうそう、彼との出会い。 そこから続けよう。
脆弱な人間が私を見据えていた。
私は誇らしげに翼を掲げ、彼を見下した。
それはいつものありふれた光景だった。
ああ! 勿論、殴り合ったさ!
完勝! 私が負けるわけなかったからな!
ボコボコにしてやった。
それもいつもの事だ。
だから彼もいつもの連中の様に私を恐れ、許しを請う・・・ そう思っていた。
なのに、
「次」彼はそう言ったのだ。
「次は負けない!」そう言い切った顔に恐れなどなかった。
次など無い!そんな世界で生きてきた。
近づく者全てに畏怖を抱かせ、恐怖を植え付けてきた。
なのに彼は「次」を望んだ。
そんな奴、ドラゴンにもいなかった・・・
それからの彼奴は度々私の前を訪れては、負けて帰った。
来る度に違う武装をしては、その威力を確認してる様にも見える。
でも、それに悪い気はしなかった。
改善に改善を重ね、次につなげてきた。
確実に強くなる彼奴に私の心は躍った。
期待を裏切らなかった。
なのに・・・ 最後・・・
最後の最後で・・・
私は生かされた。
そして、彼に託された。
彼が最後に創った兵器を。
彼が創った最終兵器の番人として生かされたのだ。
は!
こんな場所で油を売ってる訳にはいかん。
私には使命がある。
ああ、そうだ! 私は帰らせてもらうぞ!!
▲
延々と一人語りをしたドラゴンの女。
彼女は世界最強のドラゴン(自称)である。
しかし、彼女が守る物は確かな兵器。
今現在、世界に流通している兵器としても破格の扱いを受けるそれらは『ロストギア』と呼ばれた。
そして、その製作者は・・・ 不明とされている。
ドラゴンの女が帰路についた頃、ある場所で異変が起こっていた。
それはとある大きな部屋の大きなテーブルの上に残された書置き。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
親愛なるドラゴン エリス様へ。
私は待つのに飽きました。
貴方に守られ、千年が経ちました。
なのに一向に私のパートナーが現れない。
私は一つの結論に至りました。
貴方は強すぎます。
ええ、本当に反吐が出る程に。
私の失われた千年。
貴方は忘れていませんか?
私を託された意味を。
貴方が一目置けばいいのです。
別に貴方に勝つ必要はないと思います。
そう思いませんか?
恐らく、思わないですよね。
今まで大切にして下さった事には感謝します。
ですがお別れです。
心配しないでください、私は一人でも平気です。
だから、探さないで下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
書置きはすぐにエリスの目に留まった。
しばしの沈黙、そして号泣。
ドラゴンの威厳など何処にもないその泣きっぷりは、今まで守ってきた物がどれだけ大切な物かを物語っていた。
そう、エリスは気付いていないが、彼女にとって彼が残した最終兵器は我が子のような存在だったのだ。
「ひ、ひとりで・・・ 平気・・・ うそ! そんなはずない!
だれ? 誰なのかな? 騙された?
あれは、、、 私の・・ 私のだーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
悲しみは憤怒へと変わり、部屋に淀んだ空気をもたらしす。
この時、エリスは落ち着いて部屋の様子を確認するべきだった。
部屋には荒らされた形跡などなかった。
古来よりドラゴンは財宝を集める。
それはエリスも同じ。
部屋は財宝で埋め尽くされている。
それなのに持ち出された形跡などない。
それは、最終兵器が自分の意思でこの場を離れた証拠に他ならなかった。
でも、エリスは気付かない。
「フ、、フフ、良い度胸だ。 泥棒猫。 生きてる事を後悔させてやる」
勘違いをしたまま動き出す。
ここに、最終兵器と番人の追いかけっこの旅が始まろうとしていた。
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