【十秒シアター】やつはここにいる

二石臼杵

催眠動物園

 催眠動物園にやってきた。

 ここには檻も柵もない。ゾウもキリンもライオンも、みな人と同じように園内を歩き回っている。

「どうです、いい眺めでしょう」

 園長が言う。

「ここにいる動物たちには、自分が人間であると思い込むよう催眠術をかけているのです。だから共食いも脱走も、ましてやお客を襲うなんてこともしません。モラルがありますからね」

 知っている。だから私はここへきたのだ。

 催眠術師である自分の腕を試すために。

「もしも私がその催眠を解いたらどうなると思います?」

「ははは。強力な催眠術を施しているのでまず無理でしょう。できるものならやってごらんなさい」

 では遠慮なく。

「動物諸君。これからきみたちの催眠を解いてあげましょう。ワン、ツー、スリー」

 私が指を鳴らすと、それまで大人しく歩いていた動物たちが一斉に吠え、思い思いに暴れだした。園から脱走するものも少なくない。

「どうです、本当にできたでしょう?」

 私は園長を抱きかかえる。

 園長はただ「にゃあ」と言うだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る