間話

第16話 とある一日(ミル視点)

 私はトオルさまのメイドのミルです。今、とっても幸せなの。


 おひさまの光が差す窓辺。ほのかに香る暖かい匂い。これだけでも幸せなのに、目の前には、


「クス、かわいいです♪」


 わたしの目の前に、主であるトオルさまがいいるのです。いつものお姿もいいけど、寝顔も可愛いな~。


 実はこっそり、部屋から抜け出してトオルさまの部屋のベッドに潜り混んだのです。

 トオルさまは、暖かくて優しい匂いがするんだ~。もう、耳が疼いて仕方ないです。


 今、どこにいるのかって? 今は宿屋の『眠り小屋』なのです。ここは、おサイフに優しくて料理も美味しいからステキな宿屋なんだぁ。


 特にお魚を使った料理が美味しくて、思わず泣いちゃいました。考えるだけでヨダレが......


 しばらく、トオルさまの寝顔を眺めて癒されてから行動開始です。

 さて、トオルさまが起きる前に特訓しなくちゃ。


 えへへ、トオルさまエネルギーが満タンだから今日も頑張れるぞ~。


 私はトオルさまを起こさないように、こっそり抜け出します。宿泊出来る部屋は宿屋の二階にあるから静かに降りるのです。

 よいしょ、しのびあし、しのびあし。


 一階では、宿屋の女将がいます。いつもいい匂いをしながら料理の準備をしてるの。うー、お腹空いてきちゃう。


「あら、ミルちゃん今日も早起き? 偉いね~」


「うん、特訓なの!」


「そうかい、頑張るんだよ。朝ごはんは魚の料理を出してあげるから」


「本当?! なら、はりきっちゃうぞ」


 そして女将さんと別れ、宿を出て早足で町から出たところにある森に行きます。


 そこには金髪のエルフ、同じメイドのアリシアちゃんが待ってました。

 彼女が私の特訓の相手。同じ主を持つ者として守れる力を持っていないといけないから。


「遅いですよ、ミル。三分の遅刻です」


「時間なんてわからないよ~」


 アリシアちゃんは、完璧過ぎるぐらいのメイドです。

 掃除は私より上手で、いつもトオルさまに意地悪してるけど、一番支えているのもアリシアちゃん。本当に凄すぎます!


 だから尊敬する反面、超えてみたいと思う気持ちもあるのです。


「さて、始めましょうか」


「うん、やろう。じゃあ、行くよー!」


 私とアリシアちゃんは向かい合って構えます。お互い得意な武器、私は刀を。アリシアちゃんは鞭を持って。


 実は完璧なアリシアちゃんに唯一勝てることがあります。それは、戦闘技術です。


 今もアリシアちゃんの振る、鬼のような鞭の嵐を軽く避けます。


「さすがですね、ミル」


「アリシアちゃんも凄いよ!」


 でも、これは特訓。手を抜いてなんかいられないのです。だから、私も攻撃を仕掛けます。


 刀を横に構え、一気に距離を詰めます。脚力に自信がある黒猫族なら一瞬です。


 これは、『黒猫流剣術』の技のひとつ。産まれて直ぐに刀を握らされ、身に付けた技術です。

 この剣術は速さで敵を追い詰める剣術で、私はバカみたいに動き回りません。

 ここぞと言うときに攻めるのが、この剣術なのに他の使い手達ときたら......


 いきなり、目の前に現れた私にアリシアちゃんは驚き、一瞬動きに迷いが生まれます。これがまず、ひとつ目の狙い。


 そして、その迷いの間に、刀を構え直してアリシアちゃんの喉に向けます。

 それを遅れて回避しようとするアリシアちゃんに真っ直ぐ突き刺すのです♪ もちろん、寸止めだけど。


「......参りました。ミルは強すぎますね」


「えへへ、でもアリシアちゃんも強くなってきてるよ」


私とアリシアちゃんは笑い合いながらまた、武器を構えます。これを三セットしたら終了です。


「今日もありがとね、ミル。私は強くないから」


「そんなことないよ。アリシアちゃんは充分強いよ」


 これがいつもの会話。戦闘に関しては、いつも弱気なの。

アリシアちゃんは中距離特化のタイプだからなかなか相手にするのはきついんだけどな~。何が不満なんだろ?


「それより、早く戻ろ? トオルさまが起きちゃう」


「そうですね、戻りましょうか」


 私達は、少し休憩してから宿に戻り始めました。これがここ最近の毎朝の日常です。

 いい感じにお腹が空いて朝ごはんが美味しくなるから、朝の特訓は大好きなのです。


それより、疲れた。早く戻ってトオルさまと、朝ごはん食べよう♪


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る