雷神登場
「警部!」
「
「……
駆けつけた笹山と西崎に
そしてすぐさま上着とシャツを脱ぎ、取り出したライターに火をつけて撃たれた脇腹へと当てる。
火傷をして固まった血で、何とか止血した。
「二界道さん……家族が」
――妻子供がどうなってもいいのかよ。俺の命を身代わりにって?
二界道は脇腹を焼いたライターでタバコに火をつけると、脱ぎ散らかした服を再び着始めた。
「俺にも、家族がいる……学生結婚した一つ下の女と、その後生まれた娘が一人。情けねぇ話だが、俺がメール所持者を探してる間に慙愧の野郎が人質にしやがった」
「今わかってるメールの参加者を、集めるようにと?」
「……すまねぇ。家族のためとはいえ、おまえらに銃を向けるなんざ、することじゃなかった」
「いえ、それでよかったです」
光輝の言葉に、二界道は思わずタバコを落とした。
汗と硝煙で汚れた顔で、ぎこちなく笑う光輝が息を切らして語る。
「だって、二界道さんは家族を守りたい一心だったてころですから。家族って、お互い守って守られてっていうのが一番の理想なんだと思うんです。親が離婚して一人の俺が言うことではないけれど……でも、家族のために動くって、恥ずかしいことじゃないと思うから。勿論、それで犯罪していいってわけじゃないですけれど」
「……そうか。フフッ、そうか、そうだな。犯罪はしちゃあならねぇよな」
二界道の笑い声が響く。
いつもムスッとしてる二界道が大声出して笑うのが、三人には新鮮だった。
床に落ちたタバコを携帯灰皿に押し込み、光輝から拳銃を受け取ると、自分のアイフォンを手にケータイが並ぶデスクへと歩き出した。
「ホラ」
「っとと……」
「ナイスキャッチだ。他にも投げるぞ!」
「え? まっ、待ってくださ――あぁ!」
腹を撃たれた割に随分と余裕を見せる光輝を、二界道はニラんだ。
「おい、おまえ本当は撃たれてないだろ」
「あ……その……はい」
気まずそうに、光輝は答える。
度々超人的な動きを見せる光輝に対してもう驚かないと思っていた二界道だったが、このときまた改めて驚かされた。
「ったく、何使った」
「……よくある防弾チョッキと、誰かの血が入った輸血用のパックです」
「医務室に入ったのか! ってかおまえ、血糊に本物の血を使ったのか?!」
「はい。防弾チョッキは着る時間がなかったので、お腹の前に入れてただけですけど……」
「……すぐ脱げ。重いだろう」
「はい」
銃弾を受けたチョッキと、穴が開いて空になった赤いパックが落ちる。部屋に来た光輝が汗だくだった理由が、何となくわかった。
もっともそれを取りに行った時間がどこにあったのかと思うほど、光輝が来たのは速すぎるのだが。
「ったく……どうだ、メール来てるか?」
「……はい。俺達はここにいた方がいいそうです」
「Eメールは効率上昇だったな。俺のPメールと違って、範囲が広い」
「そう。故にこのゲームでは、要と言えましょう」
突如聞こえた低い声。
その主は入り口ではなく、すでに背後にいた。
白髪の色白男、神の遣いゼウスが。
「ゼウス!?」
「まぁ、落ち着きなさい。私は今日、二つほど用件があって来ただけですから」
思わず構えた四人に対し、両手を上げてゼウスは止めた。
目の前の光輝の額に人差し指を立て、軽く押し返す。
その余裕から出てくる笑みには、敵意などどこにも感じられなかった。
「まず一つ、Eメールに新たな強化プログラムを……渡しに来ました」
コイントスのように指で弾いたデータチップが、手で作った光輝の器へと吸い込まれる。
少し躊躇った光輝だったが、頷くゼウスを一瞥しておもむろに充電部分に差し込んだ。
「で? もう一つってのは何なんだよ、ゼウス」
「物騒ですね、Pメール。銃を下ろしてくださいよ。私は何の武器も出してない」
両手を上げ、ニコニコと笑うゼウスから銃口を下ろす。
笹山と西崎の二人も銃から手を離すのを見ると、フンと息を漏らした。
「情報です。神の策――
「何?!」
「決行日は四月の四日、今から約二ヵ月後。ひと月だけですが、変わったことを報告しようと思いましてね」
「……それだけじゃないんですよね?」
光輝の言葉に一同が固まる。
ゼウスは腕を組むと、光輝の方を見て微笑みかけた。
「何故、そう思ったのですか?」
「ただ情報を伝えてくれるなら、今まで通りメールを使えばいい。それをわざわざ言いに来たということはもう一つ、ゼウスさん自身の用件があるってことじゃないんですか?」
「素晴らしい、
「……褒めても、何もでません。神宿はやめてください……」
「そうですか、それは失礼。では即刻、用件を済ませるとしましょう」
そう言ったゼウスから、笑みが消えた。
細くした目の中で、青い何かが光った気がする。
そして自身のケータイを取り出すと、その画面を見せた。
「……東京駅?」
「
「!」
「気が向いたら来るといいでしょう。でないと神は見つからない」
「ま……待ってください!」
部屋を出ようとするゼウスを、光輝は思わず呼び止めた。
振り返ったゼウスの顔に戻った笑顔が、やけに悲しく見える。
「……な、何で教えてくれたんですか?」
「……神の意向です。それより早く、地下一階のお友達を助けなさい。人間の恥であるクジラが、目を覚ますまえに」
そう言って、ゼウスはゆっくりと歩き、そのまま行ってしまった。
その後に、ほのかに甘い匂いを漂わせながら。
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