三人寄れば文殊の知恵
「……
そう、本物の腕ではない。その言葉に衝撃を受け、また次の瞬間には見て衝撃を受けた。
手袋を外した明海の腕は、鋼と鉄が腕の形に丸まって動いている機械の腕。脈の代わりにモーター音が響き、内部を動く電気と熱が、体温の代わりに腕に温もりを与えていた。
さて、と言葉を置いて、明海は生徒達の顔を見渡す。
光輝や
だが明海は溜め息を軽く漏らすと、バイクの座席をパンパンと叩いた。教壇に立っているときに、生徒の注目を集めるために出席簿を叩く姿と重なる。
「はい皆さん、解散。御覧の通り、関係のない人がわざわざ関係するなんてバカなこと、しない方が身のためです。それでも参加したいというなら、止めませんが」
光輝の言葉には反論出来た。だが担任である明海の言葉までは否定出来なかった。その場にいた全員の発言がないと見限り、明海はまた座席を叩く。
「さっさと解散なさい。それとも、神を見つけられなかったウジ虫の言葉は、聞けませんか?」
言葉を詰まらせる生徒達。座席を叩く音が、もう一度だけ大きく響いた。
「どうなんだ」
何も言わず、静かにその場を去っていく。全員がいなくなるのを見届けて、明海はバイクにまたがった。バイクのエンジンを再びかけて、光輝達に微笑みかける。光輝の力んだ手から、力が抜けた。
「先生……」
「長かったですよ、私が寝ていた時間は。どういうわけか死に損ねた私は、どこか知らない場所で寝かされてましてね。気付けばすでに、四肢の右側が変わっていました」
「今の状況は……」
「把握しています。私を襲った警察と言う組織そのものが無くなるとは。予期せぬ展開と言えましょう。しかも、最悪の展開といえます。世間は神と、参加者達に不満を抱く人ばかり……発足したばかりの純警隊で、押さえ切れるかと聞かれれば、答えはNOでしょう」
「でも、俺達は神を見つけなきゃいけません」
「そうですね。私はどうやらアイフォンを無くしてしまったようですが……今からショップに行っても、売ってくれる確率は低い。自力で探します」
「じゃあ先生、僕達の電話番号教えておきますから。もしケータイが手に入ったら、連絡をお願いします」
自分と光輝のケータイの番号を書いたメモ用紙を、彩は明海のポケットに突っ込んだ。ポケットを義手で擦って、明海が鼻で笑う。
「二人共、純警隊の
「先生はどうするんですか?」
「とりあえず、私なりにメール参加者から探してみます。二人は……もう、危険な目に遭って欲しくはありませんが……」
明海の腕が、二人の体を抱き締める。まるで子供を抱く父親のように、強くも優しい力で、二人をしっかりと抱きしめた。
「いいですか。先生がいない間、危険なことは必ず二人で乗り越えなさい。大人がいたら、出来ない事は大人に任せなさい。そして、もしも耐えきれないような辛いことがあっても、忘れないでください。今年担任になったとき、私が言った事を」
「……はい」
光輝が頷くと、明海は義手でアクセルを回し、バイクで颯爽とその場から去って行った。彩は光輝の脇腹を肘でつつき、耳打ちする。
「ねぇ、転校生は先生の言葉、知らないんだけど」
「……三年のクラス、実は一人も明海先生とまともに話したことなかったんだ。で、クラス発表で担任が発表された日に教室で……」
『皆さんは、もう一八歳になる三年生です。これからの進路も行動も、自分で決めなければなりません。ですが、一人で悩めとも言いません。相談ならいつでも乗ります。先生はいつでも、
頭の中で、明海が教卓のまえでそう言った勝手な回想を流し、彩はクスッと笑った。言葉が意外だったらしく、少し長い。やっと笑いが治まると、またニッと笑った。
「さて、じゃあ行こうか」
「二界道さんのとこ、行く前に荷物まとめていこうよ。Eメールを見ると、しばらく帰れそうにないみたいだし」
「そだね。じゃあまずは僕の家から。ってなわけで、一緒に来てくれ」
「わかった」
その頃、二界道は部下の
「親の話では荒らされた形跡もなく、抵抗出来ぬまま連れ去られたのかと」
「……すぐに純警隊の一個部隊を使って探しだせ。必ず、見つけ出すんだ」
西崎とわかれ、車に乗り込む。タバコをくわえ、頭を抱えた。
「どこへ行った、Dメール」
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