凛として
もう朝……寝た気がしない――!
部屋に入り込む朝日でもなかなか頭が起きない
う、動けない……。
一七年生きてきて、こんな経験はない。どうすれば良いのか分からず、光輝はまた寝ようとするが、驚きで完全に起きてしまって寝れそうにない。
結衣を起こさない様に抜けようとも試みたが、少しずれただけで結衣の寝言が聞こえて抜け出せなかった。何と言っているかは、分からなかったが。
緊張で変に汗を掻いてきた。今気付けば、結衣の手まで自分の手に重なっているではないか! 余計に緊張してしまい、気付いた事を後悔する。
「ん……んあ? あ、光輝さん……おはようございます」
結衣が起きた事に安堵し、光輝は挨拶を返した。何故結衣が隣にいるのかは分からないが、とりあえず離れられると思った。結衣もこの状況を悪いと思い、すぐに跳んででも離れてくれるとそう思った。
「光輝さん……脚、痺れちゃいました」
ここで麻痺?!
思わぬ事故に光輝は動揺する。とりあえずこの状況を脱する事で、光輝の頭はいっぱいだった。
「えぇっと……とりあえず、俺が離れ――」
「今離れたら、倒れちゃいます」
「そ、そっか」
あっさり作戦失敗してしまった。冷静に考えれば、結衣は腕が使えるので倒れる訳はない。だがそんな事も分からなくさせるほど、光輝は焦っていた。故にその隣で、結衣がはにかんでいた事にも気付かなかった。
「おはようございます。お二人共、寝れましたか?」
「はい、ありがとうございました」
事務室でコーヒーを飲み、結衣と光輝は荷物を持った。霧黒が見送りたいと言って、博物館の入り口まで付いて来てくれた。
「お二人が私と同じ参加者だとは驚きましたが、やるべき事は変わりません。神を見つけると言う責務のもと、見つけ出すま――」
カーペットがずれていることに気付き、修正する。霧黒の神経質は絶対に変わらないと、二人は確信した。
「また新しい情報がありましたら、お願いします」
「えぇ、勿論です」
光輝と霧黒が握手を交わす。これにもこだわりがあるのか、霧黒は自分の腕が真っ直ぐ伸びるように半歩下がった。
「では白川様、お父様によろしくお伝え下さい」
「はい、霧黒さんもお元気で」
霧黒に見送られ、二人は博物館を後にした。バス停までの道の途中、結衣が話しかける。
「昨日、警視庁の方から情報を聞いていましたよね?」
「……いたの?」
「はい、気になって」
光輝が頭を掻いて言葉を探していると、結衣は笑顔で光輝の方を向いた。
「私、結構前からいたんですよ? だからその……光輝さんのかっこいいところも……はい、見てました」
「別にかっこよくないよ。話して分からないからって、暴力で片付けただけだから」
真っ直ぐ前を見て言う光輝に、結衣は見惚れる瞬間があった。すぐに行く先を見つめ、笑って誤魔化す。
「これって、本当にゲームだったんですね」
「辛いよね」
「はい、辛いです」
「……意外に正直に言うなって、思っちゃったよ」
結衣はまた笑って誤魔化した。富豪のゲームに付き合わされ、死ぬ思いをした結衣が辛くない訳はない。だがそれを慰める術を、光輝は持っていなかった。こんな時に限って、Eメールは役に立たない。
「神様、見つけられると――」
「見つけられますよ」
結衣の即答に驚く。結衣はそのまま俯いて続けた。
「二六人もいれば、絶対に」
「全員が……神を捜そうとしてる訳じゃないかもしれないよ」
実際光輝は捜したくない方である。
飛び掛る火の粉は払っても、自ら火の海に飛び込もうと言う気はさらさらない。光輝の本心を知らない結衣には、裏切りと映るかもしれない。
「結果的に捜し出します。皆、それぞれの目的とか考えが、神様に向いて行くと思います。私だって、神様に文句言いたいですもの。だから、見つけ出せます」
凛とした態度で言い切った。自分を巫女だと名乗ったあの時もそうだったが、結衣の言葉には力を感じた。光輝は空を見上げ、息を漏らす。
「そうだね。きっと」
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