アドレス交換

「ってな訳で、遊びに来ましたぁ」


 学校終わり、彩は結衣と待ち合わせて結衣の家に来た。結衣の姉が笑顔で迎える。


「あら? いつも隣にいた男の子は?」


「あぁ、光輝くんですか。彼はちょっと、補修を喰らっちゃって。本当は彼も呼ぶ積りだったんですけど」


「あら、そう……」


 居間に通されると、彩は思い出したように結衣に話しかけた。


「そうだ、結衣ちゃん。せっかく友達になれたんだし、メールアドレスを教えてよ。交換しようじゃないか」


「あ、えと……お姉さん」


 部屋を出ようとした姉が立ち止まり、振り返る。


「私のケータイ、今朝から見当たらないのですが……知りませんか?」


 姉は暫く黙ったままでいると、笑みを見せた。


「もう、昨日充電したままだったわよ。持ってきてあげるから、待ってなさい」


「あ、ありがとうございます」


 姉が部屋から出て行くと、彩は結衣に親指を立てて見せた。結衣が声を小さくして訊く。


「光輝さんは……ホントに補修なんですか?」


 結衣の問いに、彩は笑みを浮べた。口の前で人差し指を立てる。


「実際、彼の方が頭いいんだよねぇ。結構僕も自身あったのにさ」


「じゃあ……」


「うん、勿論嘘さ。理由は……後でね」


 結衣は笑みを返す。何故かその笑顔に、彩は安心させられた。


 暫くして、姉が持って来たケータイを受け取り、結衣と彩がメールアドレスを交換する。その間ずっと、姉の目が自分達を見ている事に彩が気付いていた。彩は暫く結衣のケータイを貸して貰い、何かを見る。そして結衣に返すと、自分のケータイを振った。


「これでメル友だね、結衣ちゃん」


「はい!」


「……結衣」


 笑顔だった結衣から笑顔が消える。消したのはただの姉の一言だった。姉に呼ばれた結衣が姉の方に向かうと、姉は笑顔で結衣のケータイを取った。


「お姉さん?」


 おいおい……顔と行動が一致してないぞ、あの人!


「ちょっと借りるだけよ。すぐに終わるわ」


「は、はい……」


 姉がそう言って姿を消してしまった。結衣は震える自分の腕を押さえ、止めようとする。彩が立ち上がり、結衣の背中に優しく触れた。


「何? これ……」


 結衣のケータイに来たメールを見て、姉は震えた。


『死人宣告。白川結衣、御門彩、斉藤光輝――』


「結衣が……死ぬ? 結衣が死ぬ?」


 最初は震えていた姉だったが、直に治まって笑みを浮べた。


 彩と光輝って、あの子達の名前ね? 調度いいわ。結衣と一緒に死んでくれれば、もうこのメールを誰にも知られずに済むでしょうし……。


「私が巫女よ」


 姉はケータイを閉じ、自分の部屋へ入ってしまった。


 その頃、植物園


「で、俺に相談事か? 光輝」


 後ろから聞こえてきた足音に気付き、聖陽が振り返る。光輝が頷くと、聖陽は開いていた本を閉じて座った。


「まぁ、座れ」


「……ごめん、兄さん。少し急ぎなんだ」


「うん? 何があった」


「兄さんに、助けて欲しいんだ」


 暫く続く沈黙。聖陽は立ち上がってバッグの中から眼鏡を取り出してかけた。橙色の髪を掻き、目に入らないよう退かす。


「さて、何から教えてあげようか?」


「出来るだけ、俺がたくましくなる方法から頼むよ」

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