てるてるエージェント

めらめら

てるてるエージェント

「あらまあ、本当に降ってきた!」

 駅を出て、商店街を歩き出したスーツを叩き始めたスコールに、その女性が思わず感嘆の声を上げると、

「いかがです? これが当社のサービスです!」

 傍らを歩くエージェントの私は、得意満面で彼女にそう答えた。

「明日は、自分ととの特別な日。絶対に晴天で迎えたいの!」

 そう言って数日前、彼女が駆け込んで来たのが、国内では唯一の我が「晴天保障サービス会社」だったというわけだ。

 約束の日の前日に、ここ御珠市の上空から飛行機から雨雲にヨウソ銀を散布して、無理矢理雨に変えてしまうのだ。

 こうすれば、次の日は晴天確実。

 かかる費用は莫大なのだが、どうやら相当な資産家の娘らしい。

 支払いは一括でよいそうだ

「素晴らしいサービスですねサニーさん。これで明日が晴れなら、早速お約束の金額を口座に……」

「ご満足いただけて、何よりです!」

 彼女の礼に、私も笑顔で頭を下げる。それにしても……。

「明日は披露宴ですか? それとも何か、特別なセレモニー?」

 客の事情を詮索するのは禁物だが、ふとある事が気になって、私が彼女に尋ねると、

「いいえ違うわ。でもここ何年もずっとフラれていたでしょう……我慢できなくて。何しろ一年に一度の事だもの!」

「……あ!」

 何かに思い至って声を上げる私の前で、フワリ、彼女の体が浮き上がった。

 満足そうな表情で灰色の雨空の向こうに消えて行く彼女を、私は茫然と見送る。

 私が立ち尽くした商店街。店先のそこかしこで揺れる鶸萌黄の色。

 笹の葉にあしらわれた色とりどりの短冊が、夕暮れに雨粒を滴らせている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

てるてるエージェント めらめら @meramera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ