龍の歯医者
龍の歯医者は庵野秀明監督位率いるスタジオカラーのアニメーター育成企画「日本アニメーター見本市」の企画第一弾でした。あの5分程度の映像にこれでもかと情報を詰め込んでふんふんなるほど、多分あれはああ言う意味なんだろうなと頭の中で補完しながら見ていた記憶があります。
そんな龍の歯医者がこの度長編アニメとして制作されました。TVシリーズでも映画でもOVA(これってオリジナルビデオアニメの略だから今は呼び方違うのかな?)でもなく各45分の前後編で。所謂TVスペシャル扱いですね。
で、見ましたよ。あの世界観がきっちり説明されるのかなと期待を込めて。
……結果、90分では語りきれていませんでした(汗)。うーん、奥が深い。
物語を簡単に説明するとその世界には龍がいて、その龍は主人公が属する国だけが扱える代物で、主人公はその龍の歯を守る歯医者をしています。5分版では主人公が龍の歯医者になるまでの話を映像化していました。90分版では龍の歯医者の日常風景を描写しています。
龍を所持する国は他国と戦争をしていて、戦況は膠着状態にあり、敵国は何とかして龍を倒そうと躍起になっていると言う状況です。主人公側の国は日本をモチーフにしていて、敵国のモチーフは……詳しい人は分かるんでしょうけど、私には具体的なモチーフはちょっと分かりませんでした。アメリカでいいのかなぁ?もしかしたらヨーロッパの何処かなのかも。
で、この物語のテーマはその死生観のようです。龍の歯医者は歯医者に選ばれた時に自分の死を見せられます。その死を受け入れられた者だけが晴れて龍の歯医者になれるんですね。やがてやって来る避けられない運命にどう向き合うのかを主題にしているように感じました。
この物語のキーとなる龍なのですが、ヨーロッパのドラゴンタイプでも中国の龍タイプでもなく、クリーチャー然としております。色々設定があってその姿になっているのでしょうけど、物語中には何の説明もありません。この龍は柄杓のようなものを手にしているんですけど、それが何かも作中では一切説明がありません。
龍はとにかく大きくて、その背中にへばりつくように人の作った建物が乗っかっています。
そしてこの巨体は通常は雲が浮かぶような高度を飛んでいます。その高さから攻撃をして眼下の攻撃目標を攻撃すると言う事をしているようです。つまり龍は兵器として人に利用されているんですね。
この龍には軍隊と歯医者と龍を操っている司祭のような人々が乗っています。この3勢力の内、歯医者と軍隊はあまり仲が良くないようです。規律を重んじる軍人と龍の事を第一に考える歯医者は時に衝突をしているみたいです。よくある構図ですね。
龍の歯医者の仕事は文字通り龍の歯の管理です。無敵を誇る龍も自身の歯はウィークポイントで常に歯医者が管理しないとすぐに虫歯にやられて弱ってしまいます。この虫歯菌との戦いが龍の歯医者の日常なんです。
龍は不思議な生き物で、その歯が冥界に繋がっているのか死んだ人の色々なものを吐き出します。90分版の主人公も龍の歯から吐き出されました。彼は敵国の少年将兵だったために立ち位置は微妙でしたが、龍の歯から出たものは龍の歯医者だと強引に龍の歯医者にされてしまいます。
歯医者の仕事が龍の歯の管理と書きましたが、主に行う虫歯菌とのバトルがこの物語の肝なんですね。特に前編はその時間のほとんどをこの描写に費やしています。
この虫歯菌との戦いの描写がエヴァの使徒退治とかぶります。歯医者は虫歯菌と戦う武器を持っているのですが、これが形を変える謎の素材で出来ていて、退治される側の虫歯菌も異形の存在でまるで使徒みたいなんです。
派手なアクションで虫歯菌を退治するとエヴァが使徒を倒した時みたいに派手なエフェクトをかまして消滅していました。
前編の最後に龍の歯医者のひとりの頼れる姉さんが裏切ります。後編は裏切り者の姉さんと敵国の愚連隊が龍の秘密を探ろうと龍に乗り込んでくる展開でした。
と、まぁすごい話なんですが、語られない情報が多過ぎて語ろうと思ったら大変です。どれだけ語っても取りこぼしがありそうなので、敢えて調べる事はせずに自分が見て理解出来た事だけを語ろうと思います。浅い考察でごめんなさいですよー。
まずは映像のクオリティなんですけど、流石カラークオリティですね。凄いです、はい。映画レベルと言っていいいです。声優さんも贅沢に使っています。長編が発表された時、まさか見本市と同じ日本昔話方式になったりして?なんて思ったりもしましたが、そうならなくて良かったです。
作り込まれた設定は物語に必要な部分だけを描き出していて、それ以外は想像するしかないのですけど、エヴァでそう言うのは慣れていますのできっとアレはああだろうって想像しながら見る事が出来ました。ただ、訓練されていない人が見ると訳分からんなって感想で終わってしまうのかも。良くも悪くも見る人を選ぶ作品ですね。私は好きですが。
自分の死が分かってそれに抗わないのは変だと言うのがこの90分版の主人公のスタンスで裏切る姉さんも考えは同じようです。製作者の意図もそこにあるのかも知れません。
それを龍の歯医者のベテラン兄さんは「勇敢だねえ」と表現します。この言葉もまた人によって捉え方は違うでしょうね。
そもそも、抗った人は龍の歯医者にはなれません。龍の歯医者になれる人は運命を受け入れた人だけです。ただし、歯医者になった後で考えが変わっても資格を失うと言う事はないみたいですね。そのせいで龍は大変な事になってしまうのですな。
私はこの自分の死が先に分かるの言うのはそんなに悪い事でもないんじゃないかなって思うんです。先の事が全て分かってしまうとそれをトレースするだけに思えて人生を虚しくも感じるのでしょうけど、見えるのは死のその瞬間だけのようですし……。
これって逆に言えばそれ以外では絶対に死なないって事じゃないですか。いつ死ぬか分からない恐怖よりよっぽどいいと思いません?死の時期がやって来ても絶対死ぬって言うなら余計な抵抗もしないでしょうし、受け入れて安らかに死を迎えられる気がします。例え殺される未来だとしても相手に余分な恨みは抱かないんじゃないかな。
それに、その時期が分かっていれば死を迎える準備だって出来ますしね。
後編の冒頭のシーンを見る限り、いつかは戦争も終わり、平和な時代が訪れているみたいですね。その時代にも龍はいて、台風を食べたりして元気そうです。あの龍にも龍の歯医者はいるのかも知れません。きっといるんじゃないかな。
90分では時間が足りなかったのか、物語はきれいに終わらずに結論を視聴者に委ねる形で終りを迎えます。敢えて狙ってそうしたのかも知れません。そう言う終わり方だったので余計に印象に残りますね。エヴァがそうだったように。
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