第2話 その名はガンバー! ―C―

「いいかね、ロウ君。

 操作方法は今説明したとおりだが、決して無理をしないでほしい」


「わかってます、ハカセ。

 今はとにかく目の前のことに集中します」


 ガンバーのコクピットは至ってシンプルな造りをしていた。

ノーマルな座席に色々な数値が表示されているモニター。

ガンバーの操作に使用するのは腕にはめ込むアーム型コントローラー。

腕を動かせば、それに連動してガンバーも動くというわかりやすいものだ。


「ロウ、お前になら出来るッ!

 絶対に出来るんだからッ!」


 ゲンキの熱血応援を背に、ガンバーは出撃体勢に入る。

すでにグータランスは街を破壊しながら、やる気低下ガスを噴出しているそうだ。

このまま野放しにしておけば被害は甚大。

俺がやるしかない。


『ガンバー、出撃シークエンス。

 周辺の隊員は速やかに退避。

 ガンバー、まもなく出撃します』


 アナウンスの後、ガンバーが動き出す。

正確に言えば、運ばれているのだ。

やがてガンバーは所定の位置に辿り着く。

すると地面がゆっくりと持ち上げられていき、みるみる視界が高くなる。

ガンバー専用のエレベーターみたいなものだ。


 しばらくすると、地上に出る。

目の前には燃える市街地とグータランスの姿があった。

というか、意外と街の近くにあるんだな、研究所。


『ロウ君!

 そのまま前進し、グータランスに接近するのだ!』


 ハカセから通信が入る。

随時この通信で連絡を取りながら戦うそうだ。


「わかってます!」


 アームを操作し、ガンバーを動かす。

すると、ガンバーの脚が一歩踏み出された。

俺の予想よりもガンバーの操作は簡単で、すぐにコツを掴めそうだ。

この調子なら……多分大丈夫。


「よし……行ってやる!」


 ガンバーはその鉄脚を地面にめり込ませながら走る。

標的は勿論グータランス。

奴はまだこちらに気づいていない!


「まずは……一発!」


 街を破壊することに集中しているグータランスにタックル。

グータランスの巨体が揺れ、こちらに気づく。

だがここで攻撃は終わらせない。

相手がこちらを向いた瞬間、頭部と思わしき部位に拳を放つ。

一発、二発、三発!

そしてフィニッシュの四発目。

腕を大きく振りかぶった一撃は、グータランスを吹き飛ばすほどの威力になる。


『おぉ……!

 いいぞロウ君!

 その調子だ!』


 グータランスもやられてばかりじゃない。

背中から触手を放ち、ガンバーの装甲を砕こうとするが……


「その攻撃はさっき見たぜ!」


 この触手攻撃は前に襲われた時に見た。

だから触手に軌道やスピードもある程度は予測できる。

グータンランスから放たれる触手を見切り、それを掴む。

奴が重くならないうちに吹き飛ばす!

グータランスの触手を引っ張り、背負うように投げ飛ばす。


 巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。

見るからにグータランスは弱っている……いまならトドメをさせる!


「このままトドメだ!」


『いかん! ロウ君!

 危ない!!』


 トドメを刺そうとグータランスに走る。

間もなく攻撃範囲内だと思った瞬間、奴の頭部から黄色い液体が噴出された。

腕でガードし直撃を防ぐが、液体が付着した部分が溶けている。

これは……酸だ!


「こいつ!

 こんな技をもっていたのか……!」


『……学習したのだ。

 グータランスはゲンキ君との戦いから新たな攻撃方法を生み出した……

 なんて学習能力の高さだ……!』


 このまま酸による攻撃を受けたらマズイ!

その場から少し退いて、相手との距離を取る。

グータランスは体勢を整え、背中から触手を放った。

先程より相手との距離が近い!

触手攻撃を避けきれず、ガンバーの胴体に直撃。

二打、三打と追撃され、ガンバーの装甲にダメージが蓄積される。


「こ、このままじゃ……やられる!」


 近づけば酸で攻撃され、離れると触手攻撃。

しかも相手は自由自在に体重を変えられるから投げ飛ばす戦法もキツイ……

となれば……


「これしかッ!

 手はねえよな!!」


 攻撃の一瞬の隙を狙ってその場から脱出。

そしてすぐに体勢を整え……


「今なら、当たるッ!」


 アームを操作し、思い切り引き絞る。

パワーレベルメーターが最大になった瞬間、その腕をグータランス目掛けて放つのだ!


「ロケット! パーンチ!!」


 勢い良く放たれた拳がグータランスの装甲を貫通!

しかし、致命傷にはいたらずまだ倒れない。


「嘘だろ……!

 ゲンキさんの時は倒せたのに!」


『ガンバーは操作者のやる気、そして攻撃時の気合でそのエネルギーを増幅させる。

 初めてガンバーに乗ったロウ君の気合では、奴を仕留めるほどのエネルギーを生み出すことができなかったのだろう』


「じゃあどうすれば!?」


『両アームを引き、パワーレベルが最大になった瞬間に放つのだ!!

 ガンバーの必殺技である高エネルギービームが打てるはずだ!!』


「了解……!

 やってみるしかねえ!!」


 グータランスはまだ先の攻撃のおかげで体勢を整えきれていない。

狙うなら、今ッ!


 両アームを引き、パワーレベルを高める。

相手を倒したいという想いと、この街を守るという意思の強さがパワーレベルをぐんぐん高めていく!!

やがてパワーレベルは最大値に達し、モニターに『GO』の文字が映しだされた!


『今だロウ君! 打て!』


「ガンバァァァアアア!!!!

 ビイイイイイイイッッッッッツム!!!」


 思い切りアームを放つと、ガンバーの胸部分から高エネルギービームが放たれた!

ビームはグータランスに直撃!

その身は目に見えて消滅していき、やがて塵一つ残らずに消えた。


「……勝った、のか」


『あぁ、ロウ君!

 君の勝利だ!』


 勝利……

初めての出撃と、初めての勝利。

俺はそれをこの手に収めたのだ。


『なるほど……

 一筋縄ではいかないようですね』


 突如として、空から声が響く。

これは初めてグータランスが現れた時と同じだ。

空に現れた黒い穴から、稲妻を放ちながら何者かが現れる。

グータランスのように巨大ではない。

むしろ俺たち人間とほとんど変わらない……

よくみればそれは、悪魔のような見た目をした女だった。


「誰だお前は!!」


「私の名は七罪咎が一人、アケディア……

 偉大なるお方の命を受け、この地球に蔓延る人類を滅ぼす者」


「そんなことさせねえ!

 俺が……俺とこのガンバーで地球を守ってみせる!」


「どうかしら?

 今貴方が倒したのは尖兵にしか過ぎないのよ?

 貴方たちの苦しみ足掻く姿を楽しみにしているわ……」


 そう言うとアケディアは姿を消した。

辺りには今までと何ら変わらない時間が流れ始める。

静寂だけが、その場を包む。


「アケディア……七罪咎ってなんだ……

 本当に、今倒したグータランスは尖兵でしか無いのか……?」


 そう、人間とLazyの戦いが始まったばかり。

これから訪れるLazyの猛威を、俺たちはまだ知らないのだった。

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