第14話
「練習試合……ですか?」
吉乃先生に呼び出された千秋はそう言った。
「そうよ。あなた達もいつまでもバーチャルで練習って言うわけにもいかないからね。申し込んだらすぐにOKが来たわ」
「相手はどこなんです?」
「相手はプロイセン学院よ。我が校の姉妹校で夏の大会の上位常連校、使用するのは独艦艇が中心だわ」
独海軍艦艇と聞いて真っ先に思い浮かぶのはやはりビスマルク級戦艦だろう。
カタログスペックも実際の性能も当時の世界各国の最新鋭艦に比べるとイマイチかもしれないが、それでもデンマーク海峡海戦の英雄である。
あの海戦は恐らく戦艦史でもトップクラスの大勝利であると言えるだろうし、その後の追撃戦も有名だ。
「じゃ、試合は週末だからよろしくね。私物は陸揚げしとかないと吹っ飛ぶかもしれないわよ。それと、全校に流して部員集めの材料にするからよろしくね」
「ええっ!?そんないろいろと急すぎますよ!!」
「全艦出航用意!!」
千秋の指揮のもと大和が巨大な船体を動かして錨をあげた。
バーチャルの大和ではない、実体のある大和だ。
「両舷前進微速」
「了解、両舷前進微速」
大和に続いて他の4隻も錨をあげた。
超ド級戦艦が次々と港を出ていく姿は文字通り圧巻の一言に尽きた。
転移用のゲートを通過して今回の海戦場となる北海に出た大和以下、加賀、長門、金剛、霧島で構成される艦隊にもう一つ別の艦隊が近づいてくる。
大和の電探が即座にそれを探知して報告してきた。
「電探に感あり。距離35000。2時の方向。大型艦2、小型艦4」
「もう試合が始まってるのか!?」
栞菜が驚きの声をあげて叫んだ。
「いえ、それはないでしょう。全校に放送すると言っていましたから撮影用に来た空母かと。水上機を出して確認してみてください」
艦尾から乾いた音がするとすぐに零式水上偵察機が飛び上がった。
軽快な機動ですぐに近づいてくる艦隊の上空に到達する。
千秋の言った通り、近付いて来ていたのは空母だった。
その陣容を岩本たちが詳細に報告してくる。
「艦隊の陣容は空母2、駆逐艦4。空母は隼鷹型航空母艦、駆逐艦は陽炎型と認む。距離33000。16ktで大和へ接近中」
「おっきい空母」
「でも大和よりは小さいね」
「いいからさっさと打電しろ!!」
岩本たちの言うとおり近づいてくるのは隼鷹型航空母艦の隼鷹と飛鷹、それに陽炎型の陽炎、不知火、黒潮、雪風だった。
恐らく学校側がバトル・オブ・バトルシップスの大会連盟に連絡してよこすように言ったのだろう。
甲板には撮影用の艦載機の姿もちらほらと見えた。
「撮影のために空母を連れてくるなんて贅沢な競技ね」
優香が率直な感想を漏らした。
「確かにそうですね。じゃ、私は相手に挨拶に行かなくちゃ」
試合前の挨拶はお互いの陣容を知られないためにどちらかの撮影用空母で行う。
と言っても水上機で行けば空母に回収する能力は無いのでいったん戦艦と空母が近づいて空母に乗り込み、それから再度離れてどちらかが艦載機に乗り込んでもう一方の空母に乗りつけるのだ。
非常に面倒くさいがこうするしかない。
千秋も隼鷹に内火艇で乗り込んでそこからさらに相手の空母へと向かった。
「見えた!!あれは……グラーフ・ツェッペリンだ!!」
ドイツ海軍の未成空母に流星がゆっくりと着艦していく。
彼女たちの初めての対外試合が今まさに始まろうとしていた。
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