第12話
4月の水曜日の早朝。
総員起こしの号令で千秋たちは目を覚ました。
「長嶋!!起きろっ!!」
「んぅ……?なぁに、栞菜ちゃん……?」
「早く着替えろ。みんなもう甲板に行ったぞ」
栞菜に起こしてもらいながら千秋も着替えを始めた。
今日は全員が学校に行かねばならない日なのだが着替えるのは制服ではなく軍服の一種だ。
それを着て一斉に甲板に出て体操が始まった。
「……眠いよぉ」
「Zzz……」
寝ぼけ眼を擦りふらふらしながら総勢13名の体操は続く。
千秋と一子は特に足下が危なく、何時転んでもおかしくない様子だ。
しっかりと目を開いているのは元体育会系の栞菜ただ一人だ。
そして体操が終わると艦の掃除が始まる。
と言ってもこの13名で大和全体を掃除となるとただの拷問なので自分たちの持ち場の最も簡単な掃除のみだ。
他は試合用のアンドロイドがやっておいてくれる。
女の子の見た目をした3000体ほどのアンドロイドが艦を掃除する光景はなかなかすごい物だ。
「ふぅ……こっちはもう終わったわよ。もう終わりにする?」
「優香ちゃんもう終わったの!?……私はもうちょっとやるね」
持ち場の掃除は時間の関係もあって簡単な物だけなのだが、いずれ試合で自分たちが使う事になるところなので自然と力が入ってしまう。
これが終わって初めて登校だ。
制服に着替えて舷側のラッタルを駆け下り、他艦の子達と合流して学校へ向かう。
「次海ちゃんおはよう」
「あら、長嶋さん。おはようございます」
ここからはそんなに遠くはないので総勢30人程の女子集団は数分もせずに学校に到着する。
彼女たちの通う国立帝山女子高等学校は以前にも説明したとおり国内最難関の高校であり規律にも厳しいのでモノレールで通う生徒や徒歩で通う生徒も制服をしっかりと着こなしており乱れは一つも無い。
下駄箱で靴を上履きに変えると階段のところでそれぞれの教室にわかれた。
「優香ちゃん、一限目って何だっけ?」
「確か数学じゃなかった?一子、どうなってる?」
「……数学で合ってる」
「やばっ!!私、金曜装備で来ちゃった!!」
全員が「なぜ木曜装備や火曜装備ではなく金曜装備と間違えた?」という疑問の顔を栞菜に向けるが戻って取ってくる時間も無いので今更どうしようもない。
鞄を机の隣に下げ、一限目の授業の準備をする……のと同時にそれぞれ自分の部署に関する勉強用の本も取り出した。
その勉強を一限目に隠れながら行うつもりのようだ。
「えぇっと……フェルマーの最終定理は……」
授業が始まると同時に教科書のカバーでカモフラージュした資料に目を通し始めた4人。
始めたばかりの彼女たちにとって時間はいくらあっても足りないのだ。
わからないところはお互いに小声で聞きあって情報を交換する。
「……千秋ちゃん、前を走る艦との距離が簡単にわかる方法ってない?距離がわからないと位置を維持しにくいのよ」
「……前の艦の速力とその艦から発生する波の大きさを計算して波の頂きと麓を基準に艦の位置を決めるといいそうですよ」
そしてそんなものを教師が見逃すはずも無く……
「「「「痛っ!!?」」」」
4人の頭上に広辞苑が落された。
頭の上に少し小さめの山ができ、4人ともまじめに授業を受ける事にした。
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