第2話

本土の神奈川県と海上に浮かぶ島々とをつなぐ海上リニア。

その車内に一人の女の子が座っていた。

女の子の名前は長嶋千秋といい、辺見じゅんの「男たちの大和」を読むその女の子は艶のある黒髪のショートボブで非常にかわいらしい印象を周囲に与える。

やがてリニアが島に到着し、千秋も駅で降りた。

海上に造られた駅からは島の港などが一望できるようになっている。

そしてその港を見た瞬間、千秋は走り出した。


「ああっ!!あれは戦艦大和!!対空火器の配置からして最終時!!ハリネズミになった姿もやっぱりいいなあ!!その隣にいるのは戦艦武蔵の最終時、大和姉妹が並んでるのは壮観だぁ!!その奥にいるのは長門型戦艦か!!艦首をこちらに見せてるのはいいけど後ろが見えないっ!!伊勢型は……あっ!!あんなところにいた!!六砲塔時代じゃなくて航空戦艦かぁ!!私は六砲塔の方が好きなんだけどなぁ!!あれ!?扶桑型が4隻いる!?あれは41cm砲搭載型の方か!!島影から微かに見える4隻は艦首形状からして金剛型4姉妹!!その美しい艦影を見せてよぉ!!それ以外にも紀伊型も天城型も加賀型もいる!!凄いラインナップだ!!やっぱりこの学校に来てよかった!!って、きゃあっ!!」


手すりから身を乗り出して港を見つめる千秋。

やがて身をのりすぎ出して手すりから落ちそうになった!!

それを寸でのところで誰かが襟首を掴んで持ち上げた。

千秋の黒髪に交じって金色の髪が海風に吹かれてたなびく。


「大丈夫か?」


「あっ、ありがとう。えっと……」


片手で千秋を持ち上げたのは千秋より一回り身長の高い女の子だった。

日本人だが金髪をしており、どこか西洋人風の雰囲気を感じさせる。

制服のリボンの色が同じ青なので同じ新入生のようだ。


「私は王栞菜。同じ新入生だな。仲良くしよう」


「私は長嶋千秋。こちらこそよろしくね」


「ああ、早く行かないと遅れるぞ!!」


「あっ!ちょっと待って!!」


歩き出した栞菜のあとを小走りで追いかける千秋。

すると周りを歩いている生徒のポケットからハンカチが落ちた。

慌ててそれを拾ってその生徒を追いかける千秋。


「あのっ!!これ落としましたよ!!」


「あら、ありがとう。大事なハンカチをなくすところでしたわ」


「いえいえ、渡せてよかったです」


そのハンカチを落とした女の子は栞菜と同じ金髪しているがスポーツ少女といった雰囲気の栞菜と違って金持ちのお嬢様と言った雰囲気をしている。

ブラックカードを何十枚も持っていそうなレベルの。

その女の子は千秋からハンカチを受け取ると大事そうにポケットにしまい込んだ。


「あの、あなたお名前は?」


「私は長嶋千秋です」


「そう、いい名前ですね。わたくしは山口次海といいます。そうだ!!お礼にこれを差し上げますわ」


「えっ!!そんな、いいですよ」


どんな高級品が出てくるかわからなかった千秋はそれを丁重に断ろうとする。

しかし、次海が取り出したのは高級品でも何でもない物だった。


「えっと……これは……」


「和風プレミアム抹茶ソフト(期間限定バージョン)ですわ。では、ごきげんよう」


次海から渡された和風プレミアム抹茶ソフトの期間限定バージョン(税込346円)を持って立ち尽く千秋と栞菜。

お嬢様の意外なギャップを目の当たりにした瞬間だった。

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