第114話実戦


「あ、はい!」

クロエは大きな声で返事を返した。

それを横目で見ながらイツキが

「そのメガネはどうした?」

とメリッサに聞いた。

何故かメリッサは両サイドが尖ったレンズが三角形の眼鏡をしていた。


「あ、これですか? 部下を教育したり戦闘モードに入る時はこの眼鏡を掛けるようにとギルマスがくれましたわ。これを掛けるとボスが喜ぶとも聞きましたわ」

と眼鏡を軽く持ち上げるように人差し指を当てて、嬉しそうに答えた。


「ヘンリーの奴め……」

 それを聞いたイツキは脱力しそうになったが、二人の戦いからは目をそらさずに見つめていた。

思った以上にアレットは戦いに慣れていた。力も付いたようで身体能力も格段に成長したようだった。


――相当、シラネに鍛えられたな――


イツキはアレットの戦いぶりに安心感を覚えながらも、二人の戦いをメリッサと注意深く見つめていた。


ほどなくゴブリンたちはアレット一人に全て倒された。


「イツキ! どう? ちゃんと戦えていたでしょ!」

アレットはイツキに歩み寄りながら自慢げに言った。


「うん、うん。本当に強くなったな。見直したぞ、アレット」

イツキはそう言いながらも、本当にアレットの成長ぶりに驚いていた。


 1時間ほど森で二人のレベリングを実践した後、イツキたちはまたテレポーテーションで事務所に戻った。

クロエは一気にレベルが上がった。ただ彼女は学生で魔導士としてはまだ仮登録でもあったので、実際に能力として反映されたのは僅かであった。ただその僅かなレベルアップであっても彼女自身には初めての実戦でのレベルアップ体験だった。


「本登録したら、一気に反映されるので大丈夫だからね」

とイツキはクロエに教えた。


「はい。ありがとうございました。今日は本当にいい経験が出来ました」

と顔をほころばせてイツキに言った。

初めての魔獣との戦いは彼女に新たな意識を植え付けたようだ。


「イツキさん、私もアレットと同じように本登録できますか?」


「できるけど、魔導士として登録して良いのかな?」


「はい」


「それならローラの許しを得てきなさい。話はそれからだ」


「だったら大丈夫です。その許可証も履歴書と一緒に提出してあります」


「え?」

イツキは慌ててクロエの履歴書や成績証明書などの書類を見直した。そこにはローラの推薦状と共に就職登録の許可証が入っていた。


「本当だ……ローラめ!」

とイツキは力なく呟いた。どうやらイツキの行動パターンはローラに読まれていたようだった。


「じゃあ、行こうか」

そう言うとイツキは立ち上がった。

「行くってどこへ?」

アレットが不思議そうに聞いた。


「シラネのところだよ。クロエを一人で冒険させるわけには行かないだろう。だからアレット、君と一緒に冒険するんだよ」


「え! 本当!! やったぁ」

そう叫ぶとアレットはクロエに抱きついた。

今度はクロエからもアレットに抱きついたようだった。


「うん。アレットよろしくね」

クロエも嬉しそうだった。


「やれやれ……まあ、またキースの部下にしなくて済んで良かったか……」

と呟いた。


それを聞いてメリッサは

「それなら私の部下でも良かったのに」

とイツキの耳元で言った。


「それはもっとやばいだろう。どんな魔導士になってしまうか想像がつく」

と言ってイツキは苦笑した。



「えぇ。そんな事ないです。ボス」

とメリッサはクネクネしながら言ったがイツキはそれを全く無視して


「だからボスはやめろって……それよりもメリッサ。この書類をマーサに渡しておいてくれ」

イツキはクロエの就職の書をメリッサに渡した。


「イエッサー、ボス」

メリッサは笑ってそれを受け取ってシラネの元へ向かった三人を見送った。



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