第113話初陣
フェレンの森はまだ保護地区に指定されていなかった。だから退治自体は何ら問題はない。
主に保護地区に指定されていた地域は、ロンタイルの魔王オーフェンの宮殿があるエルガレ山とその麓に広がる森林だった。そこを中心にロンタイル大陸各地に指定地域は広がっていたが、フェレンの森はまだその指定を受けていなかった。
ただ自営団は魔獣を見つけても退治するより、なるべく森の奥へと追い込んで逃がしている場合の方が多かった。
イツキはアレットの話を聞いて少し考え込んだ。眉間に軽く皺が寄った。
「よし、ちょっと行ってみようか?」
考えがまとまったのか、そう言ってたち上がった。
「え? 今から?」
アレットとクロエは同時に声を発した。
「そうだ、今から行ってみよう。クロエ、君も実践はまだ経験した事はないんだろう?」
「はい。ありません」
「よろしい、ではこれが君の初陣だ」
「うわぁ、クロエと一緒にパーティが組める!!」
とアレットは嬉しそうな声を上げてクロエにまた抱きついた。
「本当に良いんですか?」
クロエは戸惑ったように聞いた。
「勿論だ。君なら大丈夫だ。僕も付いているし」
「はい」
「メリッサ。お前も付いてこい」
イツキは振り向くとデスクで書類の整理をしていたメリッサに声をかけた。
「え? 私も行って良いのですか?」
「いやなら来なくても良いぞ」
「いやな訳ないでしょう。イエッサーボス」
メリッサは喜び勇んで立ち上がった。
「だからボスは止めろって」
とイツキは苦笑しながら三人を引き連れて、一気にフェレンの森までテレポーテーションした。
四人が立っているのは森の奥ではあったが、街道からはそれほど遠くない場所だった。
偶然にもそこはシドが、幼い姉妹を守ろうと魔獣と戦った二人の黒薔薇騎士団(シュバルツローゼンリッター)を助けた場所にほど近い場所だった。
「イツキってこんな事も出来たんだ?」
アレットが驚いたように聞いた。
「まあな。大人になると色々な事ができるようになるんだよ」
とイツキは笑いながら答えた。
「さてと……メリッサ、何か感じるか?」
「懐かしいぐらいの妖気を感じますわ。こんなに魔獣に囲まれるなんて久しぶりで身悶えしそう」
「なんでもいいけど、未成年の前では表現に気をつけろよ」
「イエッサー! ボス!」
「だからあ……ボスは止めろって」
イツキたちは森の奥に向かって歩み始めた。
数歩で目の前の大木の陰から、ゴブリンが5匹ほど現れた。
「ふむ。本当に昔のように出てくるな……ちょうど良いか……アレット、クロエ。二人で戦ってみなさい」
「うん、分かった。クロエ行くよ」
とアレットはイツキの声に呼応するように飛び出した。
「え? もう行くの? え? え?」
とクロエはアレットの言葉に戸惑いながらついて行った。
その様子を見ながらイツキは
「クロエ! 今のアレットは召喚士ではないからな。武士だからな。後方からの支援を忘れるなよ」
とクロエに声を掛けた。
「はい。気を付けます」
とクロエは振り返って返事をした。
「獲物と対峙したら目をそらさない!!」
メリッサがクロエに叫んだ。
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