第95話自衛団

 城門を出て街を行く使節団に民衆は歓喜の声で見送った。

それはロンタイルが数百年ぶりに統一され、ナロウ国がその宗主国としてウォンジ皇帝を戴いた事への歓喜の表れだった。


 リチャード皇太子は馬上から民衆に笑顔で答えながら隊列を進めていった。

イツキは周囲に気を配るでもなく馬上でつまらなそうに空を見上げていた。


――ギルドでのんびりしていたかったなぁ――


 イツキの気分とは裏腹に空はどこまでも青かった。


使節団は民衆の歓声を受け、城門をくぐると街道を一路アルポリを目指して進行していった。



 街道に入るとシラネが率いる自衛団の兵士が街道沿いに護衛で立っていた。使節団を敬礼をもって見送っていた。


馬上のシラネはイツキを見つけると、イツキの馬の隣りに自分の馬を付けた。


「イツキさん!似合いますよその恰好」

シラネは満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。

「馬子にも衣裳って言うんだろう?」

イツキはうんざりした表情でシラネの言葉に応えた。

「いえいえ。本当に似合ってますよ。近衛師団長時代も似合ってましたが、今回の制服も良いですねえ……。案外イツキさんはそういう姿が似合うかも」


「よしてよ」

とイツキが首を振った途端、二人の話にメリッサが割り込んできた。

「でしょ、でしょう? ボスはこういう格好が本当に似合うでしょう?」

とにこやかに割って入って来た。


 一瞬怪訝な顔をしたシラネだったが、メリッサの顔をじっと見つめると、急に驚いたように声を上げた。

「お前! メリッサじゃないか? なんでこんなところに!?」


「あら? 知らなかったの? 私はイツキの秘書よ。これからもよろしくね。シラネ・く・ん」

と意味深な笑いでシラネを見た。


「そうかぁ……シラネはメリッサを知っていたのかぁ」


「知っていましたとも。悔しいけど、結構手玉に取られましたよ」

と明らかにばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。


シラネはオーフェンの宮殿で、まだ一冒険者だった頃メリッサと戦った事があった。


「アルと一緒の時だったけ?」


「そうですよ。アルカイルと一緒ですよ。アルが居なかったらやられてましたけどね」


「あら? そのアルカイルはいないの?」

メリッサはシラネの言葉で思い出したようにイツキに聞いた。


「お前の後ろにいるじゃないか」

イツキはぶり向きもせずにメリッサに言った。

「え? うそ? どこに?」


「ここですな」


「え?」

メリッサが振り向くとメッリサの後ろの騎馬がアルカイルだった。


「いつの間に……」


「ずっと最初からいましたが……何か?」


「え~カツヤさんとアルも一緒ですかぁ。僕も行きたかったなぁ」

とシラネが不満げにイツキの顔を見た。


「遊びに行くんじゃないんだよ」


「でも……」


「そもそも、僕も行きたくて行っている訳ではないんだからね」

イツキはうんざりした顔でシラネを見た。

「少しでも気心が知れた仲間を呼びたいのはやまやまだが、僕の自由にはならないからね」

と周りに聞こえないように小声でイツキはシラネに言った。


「ですよねえ……」

シラネも諦めきれないような顔をして聞いていた。


「で、自衛団はどこまで見送りに来てくれるの?」


「え?見送りについていって良いんですか?」


「良いんじゃないの?ノイラー峠辺りまでなら」


「え?そうですか? じゃあ、ついて行きます」

シラネは馬上で子供のようにはしゃいで喜びを表していた。


「なんだ? 嬉しそうだな」


「はい。それに……ちょうどいい機会かもしれないし……」


「ん? 何がだ?」


「いえ。別に何でもないです」

シラネは笑って手を振った。


使節団一行は自衛団にも守られるように街道を南下していった。

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