異世界のキャリアコンサルタント～今一番のお勧め職業は『魔王』です。～

第78話それはオーディン

「ワシを呼んだのはその小娘か？それとも……うん？お主は……イツキか」

「久しぶりだな。魔神オーディン」

イツキは過去オーディンを召喚した事があった。

ただ今回はイツキはバツが悪そうな顔でオーディンに応えた。

「ふむ。お主がワシを呼んだのか？」

「いや、僕ではない。彼女だ」

「その小娘がワシに何用じゃ？」

「いや、ちょっとした手違いがあってね。それであんたがここに来てしまったという訳だ」

「なに？その小娘が間違えてワシを呼んだというのか？このワシを」

「そういう訳でもないんだが……間違った訳ではないんだが……でも、そうなるのかなぁ」

　イツキはどうやってもどう言っても、この場は取り繕うのは無理だと観念した。だから正直に話そうとしたが結果は一緒だった。

　アレットが間違ったとしても、のこのこと呼び出される方も呼び出される方だろう……と声を大にして言いたかったが、そんな事を言えばどういう結果になるかは言わなくても判るのでイツキは止めた。

　オーディンと戦うのはこれが最初ではない……が勝つには骨が折れる。

オーディンの天敵のフェンリルでも呼ぼうかと思ったが、それはそれで大事(おおごと)になりそうなので躊躇していた。

　せめてバハムートならなぁ……炎を一吐きしたら機嫌よく去って行ってくれそうなんだけどなぁ……。

オーディンは文句の多いジジイだからなぁ……とイツキは心の中で思っていた。

　しかしフェンリルを呼んでこの天敵同士を戦わせるにはラグナロックの黄昏が一番似合う。

そんな悠長な事を言っている場合ではなかったが、イツキはまだ余裕があった。

その余裕は本当の戦いになったらすぐに無くなる事もイツキは分かっていた。

しかし、イツキはここで引く訳にはいかなかった。それはアレットとイツキの死を意味するからだ。

　イツキはジョブを竜騎士に変えた。せめて翼竜にでも乗らないとスレイブニールに乗ったオーディンとは互角に戦えない。

イツキは1対1で戦う事を決めた。

「折角、お出ましを願ったんだから、少しは期待に応えないとね。どうせ戦いたくてうずうずしていたんだろう？」

イツキは覚悟を決めてそう言った。

「ふむ。久しぶりにお主と戦うのも悪くないな」

オーディンは口元が緩んだ。一応機嫌は治ったようだ。

本当に戦いが好きな戦争の魔神だ。機嫌が治ったからっと言って状況が好転した訳ではない。どっちにしろ戦う羽目になる。

イツキはアレットに

「ここで大人しく待っているんだよ。ちょっと文句言いのジジイと遊んでくる」

そういうと翼竜を呼び出し背中に乗った。

アレットは不安そうな顔をしてイツキを見るしかなかった。

イツキはその顔に笑顔で答えた。

「オーディン！今日はエインヘリャル共は居ないが大丈夫か？」

とイツキはオーディンを守る勇士達がいない事を揶揄した。

「ふん！そんなものは居なくても良い。お主が負けたら後でワルキューレに迎えにこさせよう。お主もワシのエインヘリャルのなるが良い」

と重々しい口調で言った。

「それだけは御免被る。どうせ傍にいるならシヴァの傍にいる方が良い」

イツキはまだシヴァの事がお気に入りの様だ。

そういうとイツキはロンギヌスの槍を突き上げた。これが戦いの合図となった。

翼竜に乗ったイツキは上空に飛び上がった。

それに続いてオーディンもスレイブニールに乗ったまま空中に上がった。

「羽根もないのによく飛ぶよ」

イツキはそう言ってオーディンが同じ高さに来るまで待った。

オーディンはイツキよりも高く舞い上がり、そこからイツキめがけて突っ込んできた。

オーディンの黄金の兜と鎧が美しく光る。青いマントがひるがえりグングニルの槍がイツキの頭上に振り下ろされる。

それをイツキはロンギヌスの槍で受け止めたが、あまりの重さに龍ごと地面まで吹き飛ばされそうになった。

何とか地面すれすれでこらえたイツキは一気に軍馬スレイブニーブの足を狙って飛んだ。

流石にこれは予想されていたのか、オーディンは事もなげに避けた。

そのままイツキはオーディンの頭上に出ると、今度はイツキがオーディンを狙って槍を突いた。

これもオーディンは難なくと避けた。

「流石、戦いの神様だわ。逃げるのが上手い」

イツキはそう言ってオーディンとの間合いを取った。

「修練が足りんな。それに逃げたのではない。避けたのだ。言葉は正確に使え」

「相変わらず、小言の多い爺様だわ」

そういうとイツキはシヴァ直伝の氷系の魔法を唱えた。

数百本のつららがオーディンめがけて降り注いだ。

これは結構オーディンに効果があったようだ。

しかしオーディンは

「ふん、イツキよ。動きが鈍いのではないか？」

とうそぶいた。

「まあね。ここしばらくは怠惰な生活を満喫していたからね」

「その根性と身体を叩き直してくれようぞ」

「いや、それだけは固く遠慮させてもらうよ」

オーディンは槍を頭上に掲げた。

イツキは慌てて雷属性無効の魔法を唱えた。

オーディンがグングニルの槍を振り下ろすと同時に雷がイツキに落ちた。イツキはそれをまともに受けたが、何とか凌いだ。

「無効魔法を唱えていても衝撃は食らうんだな。ゲームの主人公キャラの気持ちが良く分かったよ」

イツキはもし現世に戻ってこれからもしRPGをやる機会があったら、主人公キャラをもっと大事にしようと思った。

体力や魔力は消失しないが、それなりの衝撃はやはりあるようだ。イツキも今更ながら改めて実戦で思い出した。

こんな思いをしてRPGのキャラクターは画面の中で頑張っているんだ！とイツキは心の中で叫んだ。

　イツキとオーディンは睨み合っていた。というか間合いを計っていた。

まだ勝負を一気につけるところではないが、イツキは何か決め手が欲しかった。

　地上では草むらで座り込んだアレットが心配そうに見上げていた。が、意を消したように立ち上がって呪文を唱えようとした。

アレットはオーディンの天敵フェンリルを呼ぶつもりだった。

フェンリルとは契約してないが、オーディンの姿を見たら戦ってくれるかもしれない。アレットはそう考えた。

　上空ではまだ睨み合いが続いていた。

イツキはロンタイルの槍を握り直した。

オーディンが一気呵成に来る……そんな予感がした。

　その瞬間、

「お主等は何をやっておるのじゃ！」

とオーディンの落とした雷の大きさよりもでかい声がした。

イツキとオーディンが見上げると翼竜に乗ったモモガとシドだった。

「オーディンよ。我が孫がお主の手を煩わせたようじゃな」

モモガがオーディンに近寄りオーディンに頭を下げた。

「ふむ。あの小娘はお主の孫か」

オーディンはアレットを見た。

アレットは召喚呪文を唱える寸前でモモガの姿を見て固まっていた。

「そうじゃ。まだまだ修行中で召喚の技がぎこちない。力をセーブする事が出来ぬのじゃ」

モモガはアレットを見てそう言った。

「ほほぉ。そうか。そういう事か」

そういうとイツキに振り向いた。

「なぜ、そう説明せぬ」

「何を言っている。やる気満々で出て来たくせに。ここで戦わなければ気が済まなかっただろう？」

「まあ、そうじゃな。お主と槍を交えて少しは気が済んだわ。やはり戦は見るより自ら戦う方が楽しいわい」

そういうとオーディンは大きな声で笑った。

「オーディンよ。将来この孫はワシの後を継ぐ。良い機会じゃ顔を覚えてやってくれんかのぉ」

モモガはそういうとオーディンに頭を下げた。

オーディンは頷くとスレイブニールの手綱を緩め地上に降りた。

馬から降りるとアレットの前に立ちはだかった。

アレットは泣きそうな顔をしてオーディンを見上げた。

「ふむ。お主の名は何という？」

「はい。アレット。アレット・クリムゾンと申します」

「そうか。クリムゾン家の直系か」

「よろしい。今日からワシと契約じゃ。お主の召喚獣となってお主の元へはせ参じようぞ」

「え？怒ってないの？」

「最初から怒ってはおらぬ。ただイツキと遊んでいただけじゃ」

そういうとオーディンはアレットを片手で持ち上げて肩の上に乗せた。

「イツキよ。これで良いのじゃな」

「ああ、全然問題ない……が、それはモモンガの婆さんに言ってくれ」

イツキはそう言うと地上に降りた。