第67話族長

「お主のいう事は分かった。で、うちはどうすれば?一族郎党を連れてどこかへ逃げろと?」

ホーリーはシドに聞いた。


「逃げる?どこへ逃げるというのだ?そんな事を言いにここに来たわけではない。アルポリが攻め込んでこなければそれで良い。ワシもお主と美味い酒でも飲んで帰る。でももし攻め込んで来たら戦うしかないだろう。さっきホーリーが言ったここはこの大陸最大の森林地帯だ。天然の要塞だ。それなりの戦い方をすれば負けぬ。お主たちが戦うというならワシらも一緒に戦う。それを言いに来た。」



ホーリーは黙ってシドの顔を見ていた。

 シドの強さはホーリーは知っていた。彼一人で軍隊相手に勝てるかもしれない。

この横に居る若造も強そうだ。シドの弟子というだけあって隙が無い。多分彼も相当強いだろう。この2人がいるだけで1万の軍隊に匹敵するのではないだろうか……ホーリーは考えていた。


「少し、このまま待っていてもらおうか」

そう言ってホーリーは立ち上がり小屋を出て行った。


その後姿を見送った2人は同時にため息をついた。

「師匠があんなに話をしたのを始めて見ましたよ」


「ワシも初めてじゃ。」

そういうと暫く2人は無言だった。


シドがまた口を開いた。

「最初はここを利用してアルポリの戦力を確かめる予定だったんじゃが、ホーリーの顔を見たら本気で戦いたくなったわ。イツキ、お主の命、暫くワシが預かるが良いな」


「はい。師匠。全然構いません。僕もとことん戦いたくなりました」


「うむ。」

シドはイツキの顔を見て笑った。


暫く2人で待たされたが、足音がまた聞こえた。今度は複数の足音がした。


扉が開いて男が3人は行ってきた。ダークエルフが2人に人間が1人だった。ダークエルフの1人はホーリーだった。その後を数人のダークエルフと普通のエルフが続いて入ってきた。


「族長を連れてきた。そして彼はこの村の相談役だ。シドと同じ人間だ」

ホーリーはそう言って2人をシド達に紹介した。


「ワシはこの村の長タブナックルと申す。もう一人の人間はフーバーだ。話はホーリーから窺った。本当にアルポリ軍はこの森を襲うのか?」

シドはゆっくりと答えた。

「今までのアルポリ軍の動きから、ここに攻め入るのは間違いないでしょうな。攻め込まれなければそれに越した事はありませんがのぉ。用心に越した事はありませんな。

無防備な状況で攻め込まれたら、ケンウッドの森という自然の要害をもってしても被害は大きくなるでしょうな。取りあえずは戦いの準備だけはしておくことですな」

シドは表情も変えずに族長に言った。


「もし戦いになったらお手伝いしていただけるというのは本当か?」


「そうなれば我々2人は一緒に戦わせてもらいましょう。ただ今回は魔獣狩りとは違います。正真正銘の戦争です。戦い方を間違うと負けます。その辺だけは考慮頂きたい」


「そんなに違うモノなのか?」

フーバーが聞いてきた。


「あなたは何千、何万という人間と戦った事がありますかな?魔獣5匹ほどと戦うのとは訳が違うのですがどうですかな?」

シドは物腰は柔らかいが厳しい目をしてフーバーに問い返した。


「いや、それは経験したことがない。」


「アルポリ軍は既にいくつかの戦いを経験している。それなりに戦のコツをつかんできているでしょうな。それに対する我々は戦争の戦い方も知らない、尚且つその準備さえしていない。そういう状況で戦争になったらまともに戦えますかのぉ?……ワシはそれが心配じゃとホーリーに言っておるのですがな。

勘違いしないでいただきたいのは、我々はアルポリに戦争を吹っ掛けろと言っている訳ではないのじゃ。

もしアルポリが戦争を仕掛けて来たらそれに対抗すべく準備をした方が良いといっているだけじゃ。その辺はお分かりいただけておりますかな?」


「うむ。それは理解しているつもりだったが、フーバーも事が事だけにまだちゃんと把握できておらぬようじゃ。許されよ」


「いえいえ。ワシも言葉が過ぎたかもしれませんのぉ。歳を食うとどうも気が短くなる様で」

シドはそういうと頭をかいて笑った。


「確かに族長として、村人たちの命を預かる者として何の準備もせずにいるなんて事は出来ん。もしアルポリが攻め込むというのであれば、その準備をせねばならん。まずは各村の長を集めなければならんの」

族長タブナックルはそう決断した。


「あすの夕方までには集めましょう」

ホーリーはそういうと各村の長を集める為に、お供のダークエルフを呼び命令を出した。

そのダークエルフは頷くと部屋を出ていった。


「で、老師。アルポリ軍はいつ攻めて来ようか?」

フーバーは今度は態度を改めてシドに聞いた。


「うむ。それが問題じゃ。ワシの予想では来月の中頃位ではないかと思っておる」

シドはケントが分析した予想そのままを話した。

「今、アルポリ軍はショモラマン山脈を越えたところらしい。その周辺の部族は全て征服されたようだ」


「おおお……」

部屋にどよめきが走った。


「先ずはどなたか偵察要員を出して頂きたい。ショモラマン山脈周辺を探って貰い、正確な位置を抑えたい。お願いできますかな?」


「うむ、それはこちらで用意しよう」

ホーリーはまたお供のダークエルフを呼んで命令を与えた。このダークエルフもさっきのエルフ同様に頷くと部屋を後にした。


「今回の戦いはゲリラ戦ですな。我々も2~3日後には最前線となる村に移動すべきでしょうな。この森で最北端の村はどこかな?」

シドはホーリーに聞いた。


「それはアンプ村になるか……」


「アンプ村?」


「そうだ。この森最北端の村はそこになる。村人は100人程度だ。その次の村までは歩いて1日の距離だ」

そういうとホーリーは壁に貼ってあった地図を指さした。

イツキはそれが単なる絵だと思って気にも留めていなかったが、どうやらそれは地図であったようだ。


「戦場はこの周辺だな」

シドは立ち上がってその村の北側の森を指さした。


「この森の中では銃もその威力を最大限には発揮できまい。それに地の利はこの部族にある。弓も使いようによっては銃に勝る」

シドは地図を見ながら呟いた。そしておもむろに振り返ると

「後はアルポリの情報が入ってからになりますかな?族長?」

と言った。


「そうですな。話は皆が集まってからじゃな。シド老師。その時もお願いできますかな?」


「ワシでできる事ならやりましょう」

シドはそういうとイツキの方を見た。

「この者は私の弟子ですが、そこそこ戦えます。よろしく使ってやって下され」


「イツキです。よろしくお願いします。」

とイツキは頭を下げた。


「お主はもしかしたら、オルモン村の伝説の勇者イツキか?あの魔王ベルベを一人で倒したという……」

と族長のタブナックルはイツキに聞いた。


「伝説かどうかは知りませんが、オルモン村の村長にはお世話になってますよ」

とイツキは笑って応えた。


「そうかぁ……伝説の勇者が御弟子さんかぁ……」


「オークの親父をご存知で?」

イツキは族長に聞いた。


「よく知っておる。あいつとは昔からの知り合いじゃ」

 ダークエルフはエルフ同士連絡を取り合う事は珍しい事ではないが、まさかここの族長とオルモン村のエルフの村長オークと知り合いだったとはイツキも驚いた。

タブナックルは、オルモン村のオークからイツキの事をさんざん聞かされており、「あいつは俺の息子だ」とまで言っていたイツキに一度くらいは会ってみたいものだと思っていた。

それが今、このタイミングで目の前にいる事の不思議さを感じていた。


「そうかぁ、そなたがあの勇者かぁ……世の中は狭いのぉ」

というと安心したように笑いだした。

そして

「オルモンの勇者とその師匠か、これは頼りになる。神はまだ我が部族をお見捨てにはならなかったようじゃのぉ」と喜んでいた。

それを聞いたシドは

「お主、一体何をした?お主がこんなに有名人だったとは思わなかったぞぃ」

とイツキの耳元で小声で聞いた。


「僕も知りませんでしたよ。オルモン村だけでは僕は有名人の様です」

とイツキも苦笑いをするしかなかった。

ただ、このお陰でこのヴィクター族からの信頼を得るのは早かった。




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