第27話酔っ払い軍団

「なんだ、お前も来たのか?」

とイツキが言うとシラネはイツキのワイングラスを取り上げ

「いただきます。」

と言って一気に飲んだ。


「慌てなくてもグラスぐらい貰ってやるよ。」

そういうとイツキはマリアにまたもやグラスとワインを追加注文した。


「なんだ、早かったな。」

ワインを飲みながらアシュリーはシラネに声をかけた。


「はい。仕事を部下に押し付けて来ました。」


「本当にええ加減な奴だな。」

イツキとアシュリーは同時に言った。


「何を言っているんですか?この面子で飲めるんですよ。参加しないでどうするんですか?」

シラネにしたらこの面子は憧れの顔ぶれだった。

そんな憧れの人たちがギルドで飲んでいると分かっているのに仕事なんかしてられない。

冒険者や騎士にとっては勇者と呼ばれる魔王を倒した覇者は憧れの的だった。

シラネ自身も冒険者からは憧れの的であったが、今はそんな自覚はない。



マリアがグラスとワイン。それと新しいワインクーラーを持ってきた。

「どうしたんですか?勇者が5人も。新しいパーティでも作るんですが?」

マリアは驚いたような顔をして聞いた。

ここに冒険者は沢山来るが……この頃、増えたとは言え勇者と呼ばれる冒険者がこうやって一同に会することは珍しい。


「こんな暑苦しい奴らのパーティだけには入りたくないな。」

イツキが本当に嫌そうに言うとすかさずアシュリーが

「それはこっちのセリフだ。」

と切り返した。


マリアがシラネのグラスにワインを注ぎ終わると

「それではジョナサンの黒騎士転職を祝ってかんぱ~い。」

と、まだ酔ってもいないシラネが叫んだ。


全員がグラスを持ってワイングラスを一気に空けた。


「あっそうだった。その話をしていたんだったな。忘れていたわ。」

イツキは笑いながら思い出した。


「マジで?」

ジョナサンが突っ込んだが

「俺も忘れていたわ」

カツヤも頷いた。


「酷いなぁ……」

ジョナサンは2人の友達がいの無さに苦笑しながら呆れた。


「まあ、女子校生とお仕事がしたいジョナサンの夢は明日叶えてやるよ。」

イツキは笑いながらジョナサンに言った。



「それにしても、この面子でパーティは組んだ事ないな。」

カツヤが面子を見回して言った。


「当たり前だ。こんな暑苦しくてむさ苦しいパーティは嫌だ。」

アシュリーはまた強く否定した。


「せめてアンナぐらいはいて欲しいな。」

カツヤが思い出したように一人の女性の名前を挙げた。


「アンナ?」

「もしかしてアンナ・コレットか?バーサクヒーラーの?」

イツキが聞いた。


「そう。イツキと最初からずっと一緒に居たアンナ。」

とカツヤが応えた。


「最初からではないが、結構古いな。知り合ったのは、この世界に来て1年ぐらい経った時かな。その時に一度パーティーを組んで……2回目はちょうどカツヤと組む前……鍛冶屋する前のパーティで一緒だったから……アシュリーは知っているよな?」


「ああ、知っているどころではない。イツキが無茶をするからいつも後ろで怒鳴っていたな。」

アシュリーはアンナとイツキとパーティを組んだ事があった。


「そうかぁ?話を盛ってないか?アシュリー。」


「盛ってないぞ。嘘だと思うなら本人に直接聞けば良い。」


「どうやって?」


「もうすぐここに来るよ」


「え?そうなの?なんで?」


「え、それは……、実はアンナと結婚した。」

というとアシュリーは顔が少し赤くなった。


「だから今はアンナ・オーエンだ」


「え~!!」

全員が驚きの叫び

「なんで今まで黙っていた!」


「恥ずかしくて言えなかった」

アシュリーは下を向いて顔を上げない。


「言えよ。バカ!」

イツキとカツヤはアシュリーを詰った。その後ろでシラネも小声で「バカ!」と言った。


「こら!お前らまで言うな!」

アシュリーは顔を上げて怒った。


「あ?聞こえましたか?」

カツヤとシラネは笑いながら謝った。





そこに今はアシュリーの嫁になったアンナがやってきた。


「お久しぶりね。イツキ」


「おお、アンナ。聞いたぞ、アシュリーから……」

イツキがそういうとアンナはアシュリーを睨んだ。


「ごめん。先に言ってしまった。」

アシュリーは顔の前で手を合わせて拝むような格好でアンナに謝った。


「もう、私が言いたかったのにぃ……」

アンナは拗ねたが、すぐに気を取り直してイツキ達に

「そうなの。先月結婚したの。内輪で軽くパーティだけしたんだけどね。

今日、ここにアシュリーが『シラネのとこに行く』っていうからイツキに報告しようって一緒について来たの。でも、みんなが集まっていてるとは思わなかったわ。」


そこへマリアが

「ご結婚、おめでとうございます」

とイツキに注文される前にアンナのワイングラスを持ってきた。


「あ、ありがとう」と言ってアンナはワイングラスを受け取った。


「それからこれはお店からです。」

と言ってスパークリングワインと新しいグラスをテーブルに置いた。


「え~。良いのぉ?」


「はい。いつもイツキさんにはお世話になっておりますから」

マリアは明るく笑顔で応えながら全員のグラスにスパークリングワインを注いだ。

ついでにマリアは自分の分も注いでいた。


「それでは、2人の結婚を祝して乾杯!」

イツキがそう言うと全員一気にグラスを飲み干した。


やはり人妻とはいえ女性が入ると場が盛り上がる。それも一緒に冒険の旅で生死を共に戦った仲間だ。


「じゃあ、この中で一番イツキと付き合いが長いのはアンナなんや。」

カツヤが改めて確認するように言った。


「そうだな。俺がオルモンの村で修行した後だからな。ベルベとアルゴスを倒して一気に経験値を稼いだ後だったかな……」


「そうそう。イツキがモンクをマスターして、新たにチームを探しているときだったわ。あの頃は私も駆け出しの白魔導剣士。」


「そうだった。ギルドでよくアンナと会っていたな。アンナは未熟者で相手にされずに、俺はよそ者で相手にされなかった。だから相手にされない者同士一緒にパーティーを組もうか?って話になって、あと誰だっけ?」


「エルフのトッティと魔道士ハニーのお母さん。」


「ああ、狩人トッティとマザーハニーかぁ……懐かしいなぁ」


「トッティはオルモン村からついて来た狩人で、今ソロンの村にいる。マザーハニーは僕らのお母さんみたいな人だった。」

とイツキは説明した。


「マザーハニーなら俺も知っている」

とアシュリーは言って会話に入ってきた。


「その当時にはアシュリーは居たの?」

とカツヤが聞いた。


「影も形も無かったわ。その頃は、まだ大人しく士官学校にでも行っていたんじゃないの?」

と、アンナに一言で片付けられてしまった上に

「そうそう。その当時ならまだまだひよっ子騎士だな。なんせ、エリート様だからな。俺様は叩き上げだから住む世界が違う。」

イツキには笑いながら更に自慢げに言われてしまった。珍しくイツキは少し酔っているようだ。

やはり気が置けない仲間と飲む時は安心しきって飲むからなのか、酔いが回るのもいつもより早いようだ。


「はいはい。イツキは叩き上げなのは知っているよ。実は俺もそうだ。」

カツヤも何故かドヤ顔で応えた。

それを見てアンナも

「私も叩き上げ!!うちの旦那は軟弱エリート!!」と既にテンションは先に飲んでいた連中に追いついていた。


結局、アシュリーはその一言以外は会話に参入する事ができずに聞き役に徹することになった。

イツキは「新婚なのに可哀想に」と思ったが、同時に「自分だけ幸せになろうとするからだ」と心の中で少し笑っていた。



「マザーハニーには世話になったなぁ……本当にいいお母さんだった。会いたいなぁ。」

としみじみとイツキが呟いた。


「会いたいなぁ……」

とアンナも言った。


「会いに行けば良いじゃない?」

とカツヤがそれを聞いて言った。


「それができればね」

とイツキはワイングラスを一気に空けた。

それを見たアンナも同じようにグラスを空けた。

「おら!注がんかい!」

と一気に目が座った状態でアシュリーにグラスを突き出した。


アシュリーはアンナのグラスにワインを注ぎながら、カツヤに向かってゼスチャーで「それは聞くな!」という合図を送ったが遅かった。


「ママは僕らのパーティーの後、他のパーティーに参加して亡くなった。」


「あ、そうなんや……悪いな、余計なことを聞いて」

とカツヤは慌てて謝った。

「いや、良いよ。久しぶりにママの事を思い出せて良かった。」


「そうよねえ。冒険者の心得の全てはママに教わったわ。そのママが逝ってしまうなんて。知らせを聞いた時は信じられなかったわ。」

アンナは視線を天井に移して、思い出すように話をした。

事実、思い出は沢山湧いて出た。このまま全てを思い出すと声が涙で震えそうになるので、これ以上考えるのを止めた。それでも天井を見ていないと涙が零れそうだった。


「そのママはどっかの魔王に倒されたの?」

カツヤは聞いた。


「確か森の中で出てきた魔獣にやられたとか……素人冒険者を庇ってやられたって聞いたけど。」

アンナは応えた。


「俺もそう聞いた。」

イツキもアンナと同じようにママの思い出に浸っていた。

イツキに戦い方や戦う相手の見分け方、パーティを組む時の駆け引きなど、色々と教えてくれたのもママだった。

そんな事が一杯イツキの脳裏に浮かんでは消えた。


――また会いたいなぁ――

これがイツキの偽ざる本音だった。


「湿っぽくなったな。今日はこの話は止めよう。今日はアシュレーとアンナの話を聞こう」

とイツキは話題を変えた。


そもそもの2人の馴れ初めはイツキとのパーティーで同じ仲間として冒険の旅に出た事だが、付き合うきっかけになったのはオーフェンとの戦いだった……と2人は告白した。


その当時、無敗の魔王と言えばオーフェンの事を指していた。

それほどオーフェンは強かったし負けなかった。


そこへイツキ達のパーティがやって来た。

面子はイツキ(竜騎士)、アシュレー(騎士)、アルカイル(戦士)、アンナ(白魔道剣士)、カツヤ(剣士)、レイラ(魔道士)、ローラ(白魔道士)の7人。

その当時最強の7人と言われたパーティだった。


最強と言われたパーティだったが何度も危うくなり、アシュレーは2回ほどご臨終になったが、その都度アンナとローラの魔法に助けられた。

そして最後に全員ほとんど体力も残っていない状態でオーフェンを倒した。

最後の一太刀を浴びせたのはイツキだった。


終わった瞬間、全員、立つ事もできずその場にへたれ込んで泣いた。勝ったことの喜びよりも生き残った事の安堵感を全身で実感した。

いや、イツキだけは立っていた。最後の一太刀を浴びせた場所で立ちすくんでいただけなのだが、その姿は他のメンバーからは眩(まぶ)しく神々しくもさえ見えた。


その時に2人に愛が芽生えた……と聞かされたが、イツキ、カツヤ、ジョナサン、シラネの反応は

「へ?」

だった。

「そんなオチ?」


「お前ら本気で戦っていなかっただろう」

と逆に詰られる結果になった。




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