毒舌系金髪幼女はオレンジジュースがお好き。9
その後は医務室に戻ってシェソンの内視鏡検査を行った。麻酔をかけて少し眠ってもらっている彼女の口から内視鏡を挿入して食道、胃、十二指腸までを調べた。が、その結果――、
「傷ひとつないわね」
「さすがに若いだけあって綺麗なものですね」
生々しい内臓の映像など、本来は子供にとってトラウマになりかねないものなのだが、メアリはいたって涼しい顔でモニタを見つめている。
「もっと奥?」
「それならば血は上だけではなく下からも出てきそうなものですけど」
メアリ渾身の下ネタである。だが、いっていることは間違いではない。
「尿や便は調べましたか?」
「調べてはいないわ。一応、訊いてはみたけど、特になにも」
「気づかなかっただけかもしれませんね。用を足した後でわざわざ便器の中を覗いて、自分の出したものが正常かどうかをいちいち確かめるような変態は、そう多くはないでしょうしね」
「後でちゃんと確認をするようにいっておくわ。ああ、いえ。採取してもらう方が確実ね」
「いえ。それよりも確実で手っ取り早い方法がありますよ」
「なに?」
「彼女は今、麻酔にかかっていますよね」
「まあね」
船には旧式のぶっとい内視鏡しかなく、幼いシェソンには局部麻酔でもかなりの苦痛を伴わせるため、結局、全身麻酔をして検査をすることになったのだ。
「カテーテル、あります?」
バッグに半分ほど溜まった、ほかほかと温かい採れたての尿には、確かに血が混じっていた。
「腎不全かな?」
私に呟きにメアリが頷く。
「珍しくいい線をつきましたね。それでしたら、嘔吐や吐血、低ナトリウム血症の説明もつきますものね」
「尿沈渣検査をしましょう」
検査はまず採取した尿を五分ほど遠心分離機にかける。尿を液状成分と固形成分とに分離させるのだ。尿沈渣とは、その固形成分のことを指す。そして分離した固形成分を顕微鏡で覗くと、赤血球や白血球、細胞や細菌、尿酸結晶などが見える。その数の増減や有無を調べることで、腎臓や尿路などに異常があるかどうかを判別することができるのである。
そして検査の結果――、
「円柱が出ていない」
円柱とは、尿細管で分泌されるタムフォルスファールムコ蛋白というたんぱく質が固まって円柱状に固まったもののことをいう。円柱には硝子円柱、赤血球円柱や白血球円柱などがあり、尿に含まれるその種類によってどこの器官に異常があるのかを判別することができるのだ。
円柱が出ていないとは、つまり、正常な人の尿にも含まれている円柱以外の、異常円柱が出ていないということだ。通常は腎臓に問題があれば、ろう様円柱等の円柱が出る。だが、シェソンには確かに血尿の症状があって、それの原因が腎臓でないということは――、
「出血の原因は尿路にある」
と、いうことになるわけだ。
だが、
「出血の原因が尿路にあるとして、それが吐血に繋がるものなのだろうか――?」
そう問われれば私は首を横に振る他ないのである。
とにかく結果をメアリに報告しておこうと思って検査室を出る。彼女は私が検査を始める前に自室に戻るといってさっさと医務室を後にした。医務室の壁掛け時計に眼を遣ればいつの間にやらお昼をとっくにすぎている。
「先に腹ごしらえかな」
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