真夏のスワン

鶴岡えり

地響き

 地響きが辺りを包む。

 大きな生き物が、地を揺らしながら走る、その響きだ。

 歓声、ヤジ、ところどころで舞い上がる紙切れ。

 みんなが白い鳥をかたどった板と、板の前を駆け抜ける黒い影の塊に見入る中、私は観客席でただ一つ、高々と掲げられた拳に心を奪われていた。

 この楕円形に切り取られた人工の草原を、まるで自分が駆け抜けてレースに勝ったかのように頬を紅潮させて喜ぶあなた。正直なところ、周りの人たちからはかなり浮いて見えたけれど。

 私にはそんなあなたの笑顔が、とても尊いものに思えたのです。

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