ツタンカーメン様はオシリス神の社殿で楽園への審判を受けます

第1話「否定告白の儀式」

「通られよ。汝は清浄なり」

 二十一の塔門の女神の、最後の一人が厳かに告げて、警衛神が道を開けた。


 いよいよ長い旅の終着点。

 壮麗な社殿の長い廊下を進んだ先で、広大な広間がツタンカーメン王と付き添いのプタハ神を待ち受ける。

 今まで通ってきた冥界の空が薄暗かったように、社殿の中もまた暗く、ところどころでランプが燃えている。


 戸口から広間の様子をうかがうと、ズラリと居並ぶ神々の間から、しわがれた声が漏れ聞こえてきた。

 広間では、サルワの『否定告白』の儀式が行われている最中なのだ。


「祝福されたし、始祖の都ヘリオポリスより足を伸ばして出で来たる神よ! ワタクシは不正を行ったことはございませぬ!」


 エジプト王国の四十二の州を代表して集まった、四十二名の神。

 それぞれの神が、一人につき一つずつ禁じる、四十二の罪。

 サルワは一人一人の神の前に順番に立ち、自分は生前その罪を犯していないと、一つずつ宣言していく。

 それはとても厳粛で、とても時間のかかる儀式だった。


「祝福されたし、創造の都ヘルモポリスより出で来たる、聖なる呼吸の神よ! ワタクシは暴力を振るったことはございませぬ!」


 一つ宣言し、すぐに次の神のもとへ移動する。

 これらの宣言がもしも偽りだったなら、あとでまとめて暴かれる。


 神々の列の後ろのほうに居たネフェルテム神が、ツタンカーメン達に気づいて手を振った。

 それを見てサルワも振り返り、こちらへとパタパタと駆け寄ってきた。

 順番を変わろうと申し出られたが、ファラオはせっかちはしないと言って、儀式を続けるようにうながす。

「では、アアルの野にてお風呂の支度をしてお待ちしております」

 サルワは深々と頭を下げて、次の神の前に戻り、儀式は速やかに再開された。



 人を殺したことはない。


 物を盗んだことはない。


 神殿を荒らしていない。


 水場を汚したことはない。


 農地を放置していない。


 礼拝の時間にほかのことをしていない。


 怒りんぼではない。


 意地悪ではない。


 ウソ吐きではない。


 誰かの隙をつけ狙ったりしていない。


 誰彼構わず突っかかったりしてない。


 手抜きな譲歩をしていない。



「祝福されたし、言の葉の都メンフィスより出で来たるネフェルテム神よ! ワタクシは邪悪な行為をしたことはございませぬ!」

 中に浮く大きなスイレンの上で、幼児の姿の神がうなずく。


「祝福されたし、アウケルトの地より出で来たる神よ! ワタクシは自分の故郷の神を軽視したことはございませぬ!」

 ツタンカーメンがそわそわと腰布を直したり、ずきんをいじったりしている間に、最後、四十二番目の神へのサルワの宣言が終わった。

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